「負けないで」の力

24時間テレビの放送日が近づいてきた。チャリティ・マラソンのラストで全員が「負けないで」を歌うシーンはすっかり定着し、毎回見ても感動させられる。
1993年1月にリリースされた「負けないで」。大ヒットし、翌1994年には春の高校野球の入場行進曲になり、今もナンバーワン応援ソングとして不動の位置を占める。本当に偉大な歌だと思う。http://juken.oricon.co.jp/41737/ 


生きる力を失いかけた時、この曲に支えられた、勇気をもらったという人は多い。この歌の力はどこからくるのだろう?


「負けないで」というメッセージはピンチの状態、逆境に苦しんでいる人にこそふさわしい。それは、こうした人への同情、共感から出た言葉だからだ。
そこが「頑張れ」というメッセージと決定的に違うところだ。「頑張れ」は「ストレートな励まし」であり、その力強さがかえって苦しんでいる人にプレッシャーとなり、さらに苦しめてしまうこともある(良く言われるように、鬱状態の人に「頑張れ」は禁句である。)。


♪感じてね 見つめる瞳
逆境にある人への同情、共感が歌になった時、坂井泉水さんの、そしてそれを歌う人の祈りに似た気持ち。それがこの歌の力だと思う。


この曲のパワーが最大限発揮されたケースは、阪神淡路大震災の時ではないだろうか。ネットを検索すれば、人々の「想い」の詰まった感動的なエピソードが見つかる。瓦礫に埋まった街で子供たちが「負けないで」を歌っていたとか、大阪のラジオ局MBSはこの曲を流し続けたとか・・・。子供たちは歌うことで勇気を奮い起していたんだろうな。MBSの人たちの「想い」はこの歌で被災者に伝わったのだろうな。


しかし、ネット上の話はいずれ消えていってしまうし、こうした話はWEZARD(1999年8月創刊)でもMusic Freak Magazine(1994年12月創刊)でも全く触れられていない。まー、人の不幸を題材にして自慢話めいたことはしにくいのだろうが、ZARDヒストリーから欠落しているのは残念である。


そう思って探したところ、こんな本が見つかった。

阪神・淡路大震災から100学んだ―防災・復興に活かす知恵と心がまえ

阪神・淡路大震災から100学んだ―防災・復興に活かす知恵と心がまえ

その中に、「歌は心を落ち着かせてくれた  『負けないで』に学んだこと」という一節がある。すこし紹介しよう。

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落ち込んでいる人に向かって、「負けるな、がんばれ」と励ましても、かえって逆効果になることが多い。それよりも、話をじっくりと聞いてあげる。そして、少しでも共感してあげることだ。(略)
被災した人に対しては、「たいへんでしたね」と言ってあげよう。それだけでも相手の心はずいぶん落ち着くものだ。
震災後、「負けないで」という歌がラジオからよく流れていた。私は以前から気に入っていたこの歌が流れるたびに、耳を傾けて、いっしょに口ずさんだ。この歌をリクエストした人は、おそらく心から「負けないで」と願ってくれている。この歌が「負けないで」というメッセージを心をこめて伝えているのを、リクエストしてくれた人も聴いている人も感じている。
「どんなに離れてても心はそばにいるわ」という歌詞がある。私はその部分がいちばん好きだ。自然に心を落ち着かせてくれる。(略)
「負けないで」の歌を聴くたびに、震災後の混乱した中での、ほっとした気持ちを思い出す。
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私は大震災当時、まだZARD「負けないで」も知らなかった。もちろん、今はこの歌の偉大さをわかっているつもりだが、改めてこうしたヒストリーを持っていることを意識して聴いていきたいと思う。