青の伝説(銀次×蛮)
青の伝説
「蛮ちゃん、誕生日おめでとうv」
日付が17日になった途端、銀次は満面の笑顔でそう言って、蛮にプレゼントを差し出した。
銀次は(特に蛮に関しては)『一番最初に』とかが好きなので、今年もそうしたいのだろうと、あからさまに怪しい言い訳をしながら蛮を寝かさないようにしている銀次をからかいつつ付き合っていた蛮だったが、差し出されたプレゼントに思わず返事を忘れた。
「………」
「…蛮ちゃん?」
それは見るからにリングのケースで、しかも三桁や四桁の値段で買えるような物を入れるにしては上品すぎる。
はっきり言って、プロポーズ用の指輪を入れるようなケースだ。
「…誕生日プレゼントにゃ、見えねぇけど?」
「あー…うん、そうかも…」
不審そうな蛮の言葉に、銀次はちょっと笑顔を曇らせて、頬を掻きながら苦笑した。
「ええとね、オレ、蛮ちゃんの誕生日プレゼント何がいいかって一生懸命考えて…蛮ちゃんに、幸せをあげたいなって思ったんだ」
(あー…なんか、すげーこいつらしい思考だな)
このプレゼントを選ぶに至った道筋を一生懸命説明しようとする銀次の言葉を待ちながら、蛮はしみじみとそう思った。
あげたいと思った「幸せ」の曖昧さ。そして温かさ。
さらに『幸せに「してあげる」』のではなく、ただ『あげたい』というところが。
「でもどうしたら蛮ちゃんに幸せをあげられるのかわかんなくて…そりゃお腹いっぱいとかも幸せだけど、そういうのじゃなくて、もっと…こう、うまく言えないけど…違う幸せをあげたくて」
「…で?」
「で…この指輪になったんだよ」
「…開けるぜ?」
「うんv 開けてv」
『で、この指輪』はもう、見ないことには何のことやらわからなそうなので、一応確認を取って蛮はケースを開いた。
雪のようなパールホワイトの布地に、半ば埋もれるように、シンプルな銀の結婚指輪が一つ。
(一つ…?)
「で、この指輪が何だって?」
「内側に、青い石がはめ込んであってね。その指輪付けてると花嫁さんは必ず幸せになれるんだって!」
「誰が花嫁だっ」
「蛮ちゃん」
ばきっ。
「いったーっっ」
「で? オメーのには?」
殴られた頭を抱える銀次に、何事もなかったかのように聞く。
「へ?」
「オメーの指輪にもついてんのか? サファイア」
「オレのなんかないよ」
「あぁ? 普通、結婚指輪ってのは、対だろうが」
「オレだって、蛮ちゃんとお揃いならほしかったけど…買えなかったんだよ」
実は一つでも予算オーバーで波児に借金してしまったのは、蛮には内緒だ。
その時波児にも、蛮だけ結婚指輪付けてるのは変じゃないか?と言われたけれど。
「オレはいいんだ。蛮ちゃんが幸せになってくれれば」
「………」
「ね、はめてみてよ、蛮ちゃん。サイズは合ってると思うけど」
「…やなこった」
そう言って、蛮はぱたりとリングケースを閉じてしまった。
「え?」
「何で相手が死んだわけでもねぇのに、一人でこんなもん付けなきゃなんねぇんだよ」
「蛮ちゃん…?」
蛮の機嫌が急速に悪くなっていくのが何故だかわからなそうな銀次に、ますます蛮の眉が吊り上る。
「だいたいなぁ、結婚指輪ってのはなぁ、銀次ィ!」
「は、はいっ」
びしっと指を突きつけられ、思わず背筋を伸ばして返事をしてしまう。
「『お互い幸せになろう』って付け合うもんだろうが! 『これ付けてれば花嫁は必ず幸せになれる』だぁ!? 相手もいねぇで一人で指輪付けて、ほんとに幸せになれるとでも思ってんのかっ!?」
「えっ、蛮ちゃんの相手って、オレじゃないの!?」
「そう思うんだったら!!」
驚いて叫ぶ銀次に、さらに大声で畳み掛ける。
「人にだけ付けさせねぇで、テメーも売約済みの印を付けやがれっ! テメーが付けるまで、オレも付けねぇからなっ」
それだけ言い捨てて、蛮は布団をかぶって向こうを向いてしまった。
「……そういや、結婚指輪って決まった相手がいます、って意味だよね」
『蛮に幸せを』とそればかり考えて、結婚指輪の本来の意味を忘れていた。
そりゃあ、一人でつけていたら変この上ない。ましてや隣にいるのが相手なのに。
「ごめんね、蛮ちゃん。次にお金入ったら、お揃いの指輪買うから」
背中から布団ごと抱きしめると、少しして小さな呟きが聞こえた。
「…嬉しくなかったわけじゃ、ねぇぞ」
「うんv おめでとう、蛮ちゃんv」
「ああ…」
☆☆☆
結婚式の日、何か青いものを身につけると、その花嫁は必ず幸せになれるという、話があるそうです。
それが、青の伝説。
どれくらいメジャーな話なんだかは知りませんが。
「花嫁は幸せになれる」って、花婿は?
花嫁さんが幸せなら、それが花婿の幸せということなんでしょうか…。
銀次から「結婚指輪」をもらうこと自体は抵抗がない蛮ちゃん(笑
もうとっくに夫婦みたいなもんだしね〜。
HappyBirthday 蛮ちゃんv