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ひとり学融日記 このページをアンテナに追加 RSSフィード Twitter

2014-11-12

moriyasu11232014-11-12

[]スポーツの才能(タレント)とは? スポーツの才能(タレント)とは?を含むブックマーク スポーツの才能(タレント)とは?のブックマークコメント

最後のエントリーは約半年前。

ブログの編集もままならない浦島太郎状態に陥っている。

ともあれ、今年度で二巡目に入った弊社ジャーナル(Sports Japan)の連載「最新スポーツ科学情報」に掲載された拙稿を再掲する。

「相対的年齢効果」とは?

日本の学校教育法は、満6歳に達した後の最初の4月1日から子どもを小学校に通わせることを保護者に義務づけています。「誕生日の前日終了時に年齢が加算される」のが満年齢の考え方なので、4月1日生まれの子どもは6歳ちょうどで小学校に入学することになりますが、翌4月2日に生まれた子どもは満7歳になる直前の4月1日が入学日となるため、実質的には同じ学年の中に1歳違いの子どもが存在することになります。

このような「実年齢」の違いが、学業やスポーツの成績などに与える影響のことを「相対的年齢効果」と呼びます。相対的年齢効果は、年齢を重ねるにしたがって小さくなり、最後は消失すると考えられていますが、小中学生の学業成績や4年制大卒者の比率などにおいて、4〜6月生まれと1〜3月生まれとの間に差がみられることも示されています(川口と森、2007)。

上記の研究では、早生まれ(1〜3月生まれ)の子どもの潜在能力が他の子どもよりも劣っているわけではないことを強調するとともに、学年という制度上の枠組みが不利な条件での競争を強いている可能性を指摘し、幼少年期の“些細な”成績差による能力評価や選抜(セレクション)についても警鐘を鳴らしています。

スポーツにおける相対的年齢効果

スポーツにおいても、サッカーのJユース所属選手や高校野球の甲子園出場選手において相対的年齢効果が顕著に認められることや、その影響がシニア(プロ)世代まで残存する傾向にあることなどが指摘されています(図1「朝日新聞デジタル:早生まれ、選手に不利?プロ野球もJ1も2月が最少(2013年4月10日)」より)。

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心理学の研究では、子どもの学業やスポーツの成績が、教師や指導者から「君ならきっとできる」と期待されることで上がり(ピグマリオン効果)、期待されなければ下がる(ゴーレム効果)という傾向も明らかになっています。精神的・身体的発達の差が大きい幼少年期の体験や評価が、子ども達の「自己効力感(自分の能力や行動に対する信頼感)」を左右し、スポーツを続けるか否かの判断(動機づけ)にも影響を与えていることは想像に難くありません。また、発達レベルが近い子ども同士で集団を形成しやすい傾向にあることや、精神的・身体的発達の差が埋まる前にセレクションが行われることにより、子ども達が享受できる「ピア効果(意欲や能力の高い集団内に生じる互いを高め合う効果)」に差が生まれてしまうことも見過ごせない問題です。

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陸上競技の年代別全国大会出場者の比率をみても、特に小中学校期において相対的年齢効果が大きいことがわかります(図2)。この結果は、年度の下半期生まれの子ども達の自己効力感が育ちにくい状況にあることや、将来性のある才能を見過ごしている(早期にドロップアウトしてしまっている)可能性などを示唆しているといえます。しかし同時に、この図からは、年齢を重ねるにつれて相対的年齢効果が小さくなり、日本代表レベルではほぼ消失していることも見てとれます。

50歳未満のオリンピック・世界陸上の日本代表選手(男子67名、女子37名の計104名)を対象とする調査では、中学から陸上競技を始めた選手が約8割いるものの全国大会出場者は4割程度に留まること、高校ではほぼ全員が陸上競技を実施しており約8割が全国大会に出場していることなどがわかりました(表1)。

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これらの結果は、陸上選手としての将来性の予測は高校以降でないと難しいことを示唆しているといえますが、残念ながら運動部活動(陸上競技)登録者数は中学から高校への進学時におおよそ半減、すなわち二人に一人がやめてしまっているのが現状です。

以上のことを踏まえて、日本陸連では、小中学校期における「運動有能感を高める指導」や「多様な種目の経験」をベースとする「タレントプール(実施者数)の拡充」、「タレント育成(指導者養成)の充実」、「タレント・トランスファー(競技・種目変更)への発展」を普及・育成の中心的課題に位置づけています。

相対的年齢効果は、単に幼少年期の発育発達の遅速が招く一過性の現象ではなく、競技者育成全般に関わると考えられます。近年、小学校期の子ども達をターゲットとするタレント発掘・育成事業が全国的に展開されておりますが、優れた人材を求めるためのセレクションが、優れた人材を排除してしまうとすれば本末転倒です。したがって、事業の実施にあたっては、子ども時代のセレクションに含まれるリスクについての十分な理解と配慮はもちろん、事業の妥当性や有効性についての科学的な検証が必要であると言えるでしょう。

子どもたちが生涯にわたってスポーツを楽しむために

スポーツに限らず、その道の熟練者になるためには「10年以上継続して1万時間を超える科学的・合理的な“質の高い”トレーニング」が必要であるといわれています。そのためには、まず人間に行動を起こさせ、それを継続へと向かわせることが必須であることから、最大のスポーツ適性は「動機づけ」であると言うこともできます。

人間のもつ才能や人間的な成熟を評価する指標は、様々な仕方でセットされ、様々な機会を通じて吟味されなければなりません。その時々の成績(勝敗や記録など)に一喜一憂することなく、一人でも多くの子どもが、少しでも長くスポーツを続けたいと思えるよう導いていくことが、スポーツの「普及」のみならず「競技力向上(選手強化)」にとっても重要な課題であり、私たち大人の責務でもあることを肝に銘じておきたいと思います。

(2014年11月10日 拙稿『スポーツの才能(タレント)とは?』Sports Japan 2014年11-12月号(vol.16)より抜粋)

「年記」にならないよう鋭意努力しますので、今後ともよろしくお願いします。