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もろ式: 読書日記 このページをアンテナに追加 RSSフィード

2009-11-06

[]振仮名の歴史

うう、ちびが二人ともインフルエンザで入院してしまった(涙)*1。ということで、付き添いの合間に読書をしていたりするのだが、始終ばたばたしてそれどころではなかったりもする。そんなこんなで読んだうちの一冊がこれ:

振仮名の歴史 (集英社新書)

振仮名の歴史 (集英社新書)

平安時代からサザンオールスターズまで、ふりがなの歴史を追いかける。左右のふりがななども、古い写本・刊本を見慣れている人には割と当たり前のことであるが、そういえばこういう風に手軽に俯瞰できる本ってなかったよなーとか思いつつ読む。ぜひ『零式』*2のふり〓*3もとりあげていただきたかったが、それは無い物ねだりというもの。

本書は単なる衒学的なものではなく、いくつかのキーワードによってふりがなの分類、分析を行っている。中でも、これは鋭い!と思ったのは、次の3点である。

  • ふりがなは、自分以外の読者を想定する。
  • ふりがなは、(中国語=漢語と日本語などのように)複数の言語の両方に関わるときにも使われる。
  • ふりがなは、余剰的な表現に用いられる。

この3点は、デリダ的な意味でのエクリチュールの特徴に重なる。「あるがままlet it be*4とか、どう考えても音声言語では不可能である。

あと、ところどころで常用漢字批判をしているのもミソ。

…「達」字には「イタル」「コホス」「トホル」「トホス」「カナフ」「ヤル」「タツ」「ミチ」「ツカハス」「ツフサニ」「ナラス」「ユク」「カヨハス」「サトル」と、実に一四もの和訓が配されている。

ちなみに常用漢字表には音「タツ」が載せられているのみで、訓は一つも載せられていない。…

一二世紀頃には、それまでの中国文化と日本文化との交渉の蓄積として、『〔類聚〕名義抄』が編まれ、そこにはこれだけ多くの和訓がみとめられる。少し大げさないい方をすれば、その文化交渉の「蓄積」が現代には継承されていないことになる。こうしたことを現在に生きるわたしたちはどう考えればよいのだろうか。 (p. 73)

と言うことで、ちょっと物足りないかもしれないけど、文字文化に関心がある方にはおすすめ。

*1:場合によっては今ごろモントリオールだったのだなぁ。塞翁が馬というか何と言うか。

*2

零式 (ハヤカワ文庫JA)

零式 (ハヤカワ文庫JA)

*3ふり漢字/ふり英字/ふり〓 - もろ式: 読書日記参照。

*4:「素敵な夢を叶えましょう

さくら

さくら

2009-11-05

[][]東大寺 お水取り 春を待つ祈りと懺悔の法会

買って得した気分。

東大寺修二会の構成と所作』の著者が、東大寺の修二会についてコンパクトにまとめた本。

これを買いたくても買えないやつ(俺だ)は、この本を読んで泣け!

お水取りと言えば、火花がぼぼぼぼーっとなる例のシーンだけが有名だが、本書のサブタイトルにもあるように、本質は「懺悔」である。懺悔行は、中央アジア東アジアで盛んに行われてきた神秘体験を伴う実践方法であるが、現在、伝統的なやり方でちゃんとやっているのは日本ぐらいじゃないかと思う。東大寺の修二会は、比叡山の好相行(渡部光臣師、好相を得る - もろ式: 読書日記参照)と並んで、中央アジアぐらいから続いている伝統的な懺悔行を継承している数少ないものの一つである。

ちなみに、奈良博の「古密教展」でもこの修二会関連のものが展示されていたが、神秘的だったり呪術っぽいのはなんでもかんでも密教に押し込めてしまうのはやめてほしいところである。東大寺の修二会にも「授戒」というパートがあるが、懺悔行は菩薩戒を受けるときなどに普通に(かどうかはわからないが、それなりに一般的に)行われていた修行方法の一つである。わからないものをごまかすために、「密教」とか「道教」とか「シャーマニズム」とかを持ち出す例が多すぎやしないだろうか。本書は、そういう乱暴なことはしていないので、ますます好感度が高いのである。

2009-09-26

[]民主党政権下におけるデジタルアーカイブ政策の行方 (2)

先に書いた民主党政権下におけるデジタルアーカイブ政策の行方 (1) - もろ式: 読書日記に対して、デジタルアーカイブについて雑感: やまもも書斎記からトラックバックを頂いた。実はそこで紹介されているデジタル・アーカイブの推進に向けた申入れ―「デジタル文明立国」に向けて― - コラム | 野田聖子オフィシャルホームページを、今回のネタにしようと思っていたので、グッドタイミングであった。

自由民主党政務調査会に設置されたデジタル・アーカイブ小委員会の存在は、(広い意味での)デジタルアーカイブに関心がある人には広く知られていると思う。この委員会は2002年に坂井隆憲氏を委員長として設置され、以来、山口俊一議員野田聖子議員が委員長をしている。

この3人の議員には共通点がいくつかある。ひとつは、靖国神社への参拝に積極的だということである。野田議員が先の終戦記念日において閣僚でただ一人靖国神社に参拝したことは記憶に新しいが、坂井氏・山口議員も「みんなで靖国神社に参拝する国会議員の会」のメンバーである。これを踏まえると、野田聖子委員長の名前で出された「デジタル・アーカイブの推進に向けた申入れ―「デジタル文明立国」に向けて―」という文書に、

二十一世紀以降続くデジタル文明期において、教育、産業、国民に開かれた政治、文化外交安全保障などは、利用できるデジタル情報に依存する。また、ナショナル・アイデンティティ、人類史における日本と日本人の位置付けなどは、デジタル情報をいかに後世に残していくかにかかっている。このことを常に念頭において、本提言が関係者、各関係機関の連携・協力により早急に実施されることを強く要請する。

という一文があることに、注目せざるを得ない。

また、野田・山口両議員は、郵政民営化に反対して自民党を離党したという点でも共通する(坂井氏は郵政国会以前に政治資金規正法違反で捕まって離職している)。郵政民営化は「デジタル文明立国」や靖国神社参拝などと関係がないようにも思われるが、岩本通弥氏の「「文化立国」論の憂鬱 ―民俗学の視点から―」(『神奈川大学評論』第42号、2002年)を読むと、そのつながりが見えてくる。

岩本氏の議論を大ざっぱにまとめるとこうである。ウルグアイ・ラウンドによって農産物への直接的な保護策がとれなくなった代替策として、地域のお祭りや芸能などの伝統文化を保存・振興・活用する事業に各省庁が補助金を投下することで、農村への補助金を実質的に維持する方法が考えだされた。その結果、文化庁の予算が(他の省庁の予算が削減されていく中)右肩上がりに上昇していくのであるが、これを指示したのが当時の政調会長であった亀井静香議員である。

文化庁が1999年に出した「伝統文化を活かした地域おこしに向けて」という文書には、

文化は,人として生きるあかしであり,創造的な営みの中で,自己の可能性を追求する人間の根源的な欲求,生きがいである。また,人々の心のつながりや相互に理解し尊重し合う土壌を提供することで,心豊かなコミュニティを形成し,社会全体の心のよりどころとなる。さらに,国民性を特色付けることで,国民共通のよりどころとなるものである

http://www.bunka.go.jp/1hogo/main.asp%7B0fl=show&id=1000007788&clc=1000011213&cmc=1000007016&cli=1000007784&cmi=1000007786%7B9.html

という形で、地域(農村)の文化=国民性、というような等式が作られていく。これは先の「デジタル・アーカイブの推進に向けた申入れ」に見える「ナショナル・アイデンティティ」と共通すると思われる。また、この文書では、3. 地域の博物館・美術館の活動の振興という章の「[5]文化財情報のデジタル化の推進」という節で、「地域の博物館・美術館が所蔵している文化財に関する情報の蓄積・保存・公開等を行うことにより,文化財を次世代に継承していく上で,文化財に関する情報のデジタル化を推進することは有効である」などと述べられている。

ところで、文化庁の増額した予算の多くが「ふるさと文化再興事業」にあてられているのであるが、これを実質的に行っているのが伝統文化活性化国民協会である。この協会の設立においては、神社本庁綿貫民輔議員(現職の神職)を会長とする日本伝統文化活性化議員連盟である。地域のお祭りや芸能においては、神社が中心となることが多い。つまりこの事業の裏テーマとして、神社本庁による信者獲得プロジェクトがあったのである。

上に名前の出た亀井・綿貫両氏は、郵政民営化に反対して自民党を離党し、国民神道(←変換ミス (^_^;;)じゃなくて国民新党を立ち上げている。また綿貫氏は、みんなで靖国神社に参拝する国会議員の会の会長であり、神社本庁靖国神社を支持している。デジタルアーカイブの政策は、まさに地方の農村の保護、「ナショナル・アイデンティティ」、日本の伝統文化などといった一連の問題系に属しているのである。

今回、亀井議員が閣僚として民主党連立政権の中核に入ったが、このことがデジタルアーカイブの政策にどうでるのか、気になるところである。

2009-09-19

[]民主党政権下におけるデジタルアーカイブ政策の行方 (1)

政権を取った民主党の一挙手一投足に注目が集まっている今日この頃であるが、デジタルアーカイブ(広い意味での資料のデジタル化による保存・活用)にも、いろいろ影響が出てきそうである。

7月、漢字文献情報処理研究会で2009年度公開討論会 著作権をめぐる新動向 〜Googleブック検索と著作権法改正案というイベントを開いた。そこで国会図書館の大場利康さんから、平成21年度補正予算で蔵書のデジタル化の予算が100年分(100億円超)がついたことを紹介してもらった(参照: asahi.com:朝日新聞のニュースサイト)。100年分の予算を1年強(来年度も使えるらしい)で使えというのだから乱暴な話ではあるが、Googleが書籍のデジタル化をがんがん進め(これも米国5州の司法長官、Googleブックス和解案に異議を唱えたというので、先行きが不透明だが)、隣国(中国、韓国)でも国を挙げて書籍のデジタル化を進めている状況を考えれば、むしろ遅すぎたぐらいかもしれない。デジタルアーカイブに関心がある人の多くが、この取り組みに注目していた。

ところが、このたび政権交代が起きたことによって、このプロジェクトがなかったことにされるかもしれない――そんな予想を立てたくなるような状況になってきていた。ご存知の通り、民主党は、平成21年度補正予算の一部停止にとりくみはじめたのである。科学技術政策にももちろんメスは入ってきており、補正予算削減の行方 - 科学政策ニュースクリップでも述べられているように、つい最近まで特別扱いを受けていたiPS細胞の山中教授への補助金2700億円まで凍結されそうとのことである。この記事では、

 補正予算は13兆9,256億円が使われるもので、2700億円はそのごく一部です。

http://d.hatena.ne.jp/scicom/20090908/p1

と述べているが、それを言うなら国会図書館への予算はさらに小さい150億円弱である。しかし、マニフェストの実現になりふりかまってられない民主党は、“たかが”蔵書のデジタル化事業なんかは簡単に吹き飛ばしてしまいそうではある。

ちなみに、民主党は一時、マニフェストでデジタルアーカイブ事業の本格化を謳っていたことは、あまり知られていないかもしれない。私が先日発行した『漢字文献情報処理研究会メールマガジン』152号に書いたコラムから引用する:

ちなみに民主党は、2005年のマニフェストで、こんなことを言ってました。

  (5)文化・芸術における知的財産政策をすすめます。
  公正使用(フェア・ユース)規定を創設し、創作者(アーティスト・クリエ
  イター)と、将来の創作者を含む著作物利用者(消費者、エンドユーザー)
  のための知的財産政策を実施します。国会図書館などによるデジタル・アー
  カイブ事業を本格化します。

これだけしかないので具体的なことはさっぱりわかりませんが、何だか昨今話
題のGoogleブック検索や国会図書館のデジタル化の話題(上のダイジェストも
参照)を先取りしているような印象もあります。

今回の選挙のマニフェストでは「インターネットを用いたコンテンツの2次利
用促進」というのがあげられており、2005年の「フェア・ユース」を継承して
いるとも言えるでしょうが、「国会図書館などによるデジタル・アーカイブ事
業を本格化」に関連しそうなことは見当たりません。しかし、せっかく2005年
のマニフェストに書いたことなので、国会図書館の蔵書のデジタル化予算につ
いてはなかったことにしないでいただきたいものです。

さて、どうなることやら…(続く)。

2009-09-09

[]Living Yogācāra

翻訳者のCharles Mullerさんからご恵贈いただきました。ありがとうございます。

本書は、興福寺の多川俊映貫首の『はじめての唯識』の英訳である。

はじめての唯識

はじめての唯識

私はこの本を、唯識の入門書としては一番いい本だと常々思っていた。八識説とか三性説とか、唯識思想で一番人気がある哲学っぽい(と称される)ところだったら、横山紘一先生の『唯識思想入門』*1あたりがいいかもしれない。でも、たいがいの唯識の入門書では、近代的な視点からは“差別思想”などと評されることもあるが、実践という面ではとても重要な五姓各別説(仏教的な素質には人それぞれ差がある、みたいな説)の説明を避けてたりする。しかし、多川氏の本は、そういうのも逃げないできちんと書いてある。だから唯識全体を見渡すにはこの本の方がいいと思うのである。

Mullerさんが、この本のどこに惹かれたのかはわからないが(訳者序文を読むと、仏教を専攻していない日本の大学生向けの教科書としては、この本が一番よかった、みたいなことが書いてあるけど)、ずいぶん前から「とてもいい本だ」と評価していた。Living Yogācāra.―すなわち「生きている唯識」という題からは、全仏教界を見渡しても薬師寺と並んでほぼ唯一、唯識の法灯を継承する興福寺と多川氏に対するリスペクトが伝わってくる。

*1

唯識思想入門 (レグルス文庫 66)

唯識思想入門 (レグルス文庫 66)