BINTA

BOOTSFIGHT IN THE AIR

カードサバイバル 七人目 (5)

四度引き続き、三夫のサバイバル生活。

孤独のストレスから精神を病み、日々をただひたすら無意味に生き抜くだけの男に、もはやかつての家族や姓についても考える余裕はなく、また必要もなかった。



111日目。

ジャングル入口付近に仕掛けた丸太の罠に、初めてまともな獲物が掛かった。
自分の手でも、過去歴代のサバイバーたちも倒すことができず、それどころか一部の者には致命傷を与えてきた、兄弟の仇でもあるイノシシを、罠が仕留めてくれた。

兄弟・・・、はて、彼らの名前は何だったか。



113日目。

イノシシからはヤギ以上の量の肉が取れ、牙も取れた。
二、三日食うには困らない。



115日目。

囲い内の資材保存量がもう入り切らないぐらいになってきたので二つ目の囲いを作った。一つ目を「作業場」、二つ目を「物置き」として、主に作業場の方に近々でクラフトや料理に必要なものを置いておき、物置きにはあまり使わないものや量が多くなった物の予備分を放り込んでおくことにした。




118日目。

いつものように悪夢にうなされ寝付けないまま夜が明けた頃、それは現れた。

しばしの戦闘。
得体の知れない攻撃を受けながら、槍で必死に反撃。
やがて気づくとそれは姿を消していた。

闇の中から見つめていた者はあいつだったか。
ただの闇ではなかったのか。


このまま同じようなサイクルを繰り返していてもどうにもなりそうにない。飢えが先か狂うが先か。いずれにせよとにかく何か新しいものを見つけなければ。そう考えたかどうだったか、以前見つけた火山の方に行ってみた。
火口の熱と、呼吸には良くなさそうな空気に足取りが重くなる。

ともあれ、わずかばかりではあるが収穫はあった。



120日目。

丸四ヶ月になろうか。
雨が降る。雨に救われている。いや、天に生かされている。


その夜

奴が再び現れた。
そうか、来たか。いいだろう、殺せ、殺してくれ。
頭ではそう思っても、無意識に槍を突き出し攻撃してしまう。

怖い。
回りの物を漁るでもなく、一点俺に向かって襲ってくるこいつが怖い。なんなんだ。この無人島で食べ物や物資の目的でなく、俺に何がある。
怖い。
死にたい。死なせてほしい。だがこいつには殺されたくない!

幾度か槍を突き刺すと奴は倒れ、闇に霞むようにその体は消えた。
息を整え落ち着いた直後、まだ生きている、と落胆し力が抜ける。
再び静かな闇の恐怖だけが周囲を支配する。


◎いやいや、違うやん。
メンタル病んで出てくる「ハンター」ってのは幻覚であってさ、こういう場合、わけもわからず攻撃して前回できた負傷はつまり自傷の跡であって、それでいくとここで「ハンター」を倒したら狂気の果てに自害しました、ってバッドエンドになるんじゃねえの。
「勝利!」じゃねえし。
勝利したところでメンタル系全回復みたいなこともなく。なんなの。



123日目。

かなり時間が掛かったがやっとまともなベッドができた。
寝付きが悪いのは、悪夢にうなされるのは、寝床がよくないせいだ。と思っていたが、ベッドであろうとも何も変わらない苦しい夜が来るだけだった。



125日目。

新しい料理を作った。
カレー。味は良い。腹ペコが一気に満たされる。さらに一度の調理で2食分ができる。それなりに素材は必要だが、手間暇掛けた分のリターンは大きい。

喜び、嬉しいのに、心は一向に晴れない。



130日目。

また頻繁に大雨、嵐が来る季節になった。
小屋もメンタルももうグズグズのボロボロだ。



134日目。

布シャツがしばらく前に着られなくなっていたので新しい服を作った。
これで何が変わるってわけでもなし。



135日目。

先行き、目的を見失い、適当にほっつき歩いた。
荒れ果てたビーチの先に洞窟を見つけたが、ほとんど手ぶらで来て日没も近づいたので入らず帰った。



メンタル面がもう最大級に悪化しており回復の兆しなし。
何をするにも行動時間が長引くデバフが掛かっており、相対的に一日の行動には若干制限がかかり、夜は寝付きが悪く何度か「寝る」をやらないと満足に睡眠も取れない。
研究はそれなりに進んでおり、クラフトも素材さえ集めれば問題ないが、如何せん時間がかかる。

正直プレイ感覚も楽しいものではない。
こんなのいつまで続くんだろう。と思っている日々。



つづく。

カードサバイバル 七人目 (4)

続続続、桜花舞上三夫改め角倉志三夫のサバイバル生活。

尚、本人は旧姓に戻されたことも妻との断絶も知らないまま。



91日目。

満三ヶ月も問題なく過ぎ、
寝袋が作れるようになったものの、作っても使う予定はなく。



94日目。

雨来た。またひと月ぶりくらいの。

やったー安心、のその晩。

・・・。
満足に眠れなかった。



95日目。

降り出した小雨は大雨に、そして久々の嵐になった。
海辺に仕掛けっぱなしの魚の罠は強風に失われてしまうのだった。


その夜

また眠れない。
気分が優れない。



96日目。

どんどん沈んでいく。
そういえば、いつか見た洞窟の、意味不明な書き残しの・・・
あそこに確か「96」という数字があった気が。
いや、だからって、それがなんだというんだ。


怖い。
夜が怖い。暗闇が怖い。
何も掴めない。誰もいない。この島に一人。
だけど、闇が確かにそこにいる。得体の知れない恐怖がこっちを見ている。


◎ 左サイドバー下方のステータス表示
赤くて頭を抱えているアイコンは熱中症か酷く暑いのかと思って水を飲んだり体を洗ったりするくらいの対策をしてあまり気にしていなかったが、よくよく確認したところ過度なストレスを示すものだった。



97日目。

新しい朝が来た。昨日の朝か? わからない。
気分転換に木の彫刻をやったが、単純な削り作業を繰り返していると余計なことばかり考え始め、だんだんと苛立ち、やがて木もナイフも壁に投げつけ、ゴミだけが残った。


滅入って塞いでいてもしょうがない。
遠出してくだもの採集などしたが、さして浮くことはない。


眠れない。
こんな生活が何になるというのか。
さりとてあの会社、あの家に居て、あのままでどうなったものだろうか。
くだらない。
この生活も、この島も、こんな世界、消えてなくなれ。
くそぁーっ!!!



98日目

いつの間にか寝入って、目が覚めたら日が高く昇っていた。
少し前に見た海の向こうの島に向かって泳ぎ出てみたが、とても辿り着けそうにない。すぐに住処に帰る。

仮に辿り着けたとしてそこに救いがあるのか。どんな救いがあるというのか。何があれば、どうなれば俺は救われる。救われたところでどうなる。
くだらない。


無人島生活の孤独、日々を乗り越える繰り返し作業の疲弊、世界と将来への失望に、三夫は心を失いつつあった。それでも手癖のように染み付いた生活ルーチンで生き延び、望まざるとも死を免れ、ただ生きるだけの日々は続いた。
夜は言い知れぬ恐怖にうなされ、ろくろく眠れる夜は来なかった。


◎これ以降、精神ステータスに回復兆候がなく、画面が若干色褪せた状態が続く。



100日目。

日にちを数えることに何の意味もない。



103日目。

その日、無人島調査団のヘリがその上空を巡視した時、野人のような髭面の男が雨に打たれながら海辺に無表情で佇んでいるのを確認したとか。
「死んでいるのではない。確かに生きていた。」との報告だったとか。



104日目。

珍しいものを収拾したが、特に喜びなどなかった。


また嵐か。特に動揺はなかった。



107日目。

また珍しいものを拾った。が、ただの石だった。
ただの石もそこにあるだけ。俺もただここに生きるだけ。
何の意味もなく、その状態がただ続くだけ。誰がそうしたでもない。誰が止めることもない。
何もないことと何が違うだろう。


考え事をしながら手を動かしていて、適当に何かできていた。



109日目。

落ち込んでいる時は、普段食べない美味しいものを食べよう。
妻がいつか言っていたのだったか。違ったか。どうしてだかそんな言葉が頭の中に浮かび、ひとつ料理を作ったが、腹は減っておらず、特に食べる気はしなかった。



110日目。

気晴らしの、しかし大して気の晴れない木彫り細工作業を何度か繰り返すうち、木工スキルが上がった。
それがなんだと言うんだ。
それがなんだと言うんだ。


世界は終わらない。



(この話はフィクションであり、適当に書いています。)



つづく。

カードサバイバル 七人目 (3)

続続、桜花舞上三夫のサバイバル生活。

婿養子で妻の名前は「飛来飛来」(ひらひら)。
義父の名前は「兵丁」(へで)。
義母の名前は「和恵内」(わけない)。
義弟の名前は「真剣丁」(まじで)。

会社の金を使い込んだ三夫が姿をくらまして二ヶ月。彼の無人島暮らしなど知る由もない桜花舞上家は、娘と三夫の離婚を速攻で成立させ、マスコミ向けに角倉志家との無関係をアピールした。



68日目

何らかのスキルが上がり、海辺に設置できる簡易的な漁の仕掛けが作れるようになった。


同日午後、ビーチの先の先へ探索を続けたら、海の向こうに島が見えた。
泳いで行けるのかどうか。ひとまず引き返す。



69日目。

最後に雨が降ってから二週間くらい経つだろうか。日照りが続きとうとう貯水池が涸れた。


その一方で、乾燥ラックにより初めて干物ができ上がった。
干物は焼いて食べるものではないらしい。保存には良いものの、腹を満たすにおいては元のものを焼いたのと大差はなく、干物になるまでに数日時間もかかるので、食糧の在庫がおぼつかない状況においては焼いたのをどんどん食べていった方がよさそう、と思った。


ところで、お友達ができた。



70日目。

罠作りが上手くなった。
罠を作る技術が上がった。
罠で獲物を捕らえられる確率が上がったわけではない。
捕獲の効力がろくでなしの罠、それは罠なのか?
昨日できた友達に問いかけたが、答えは返ってこなかった。彼には難しい質問だったか。ふと疑問に思っただけでそんなに真面目な質問じゃあない。気を悪くしないでほしい。


アレンビック。

とは、なにか。自分で作っておいて理解が及んでいない。
海水から真水を蒸留できる? 使い方もよくわからない。


真夜中に目を覚まし野暮用で外に出ると、久々のカモメ。
ありがたや。



71日目。

んー。



72日目。

適当にいじくり回してアレンビックの使い方を理解した。

たき火ことキャンプファイヤーの上にアレンビック本体を設置。
設置した本体に海水等、適当な混ざりものの液体を満たす。
キャンプファイヤー脇に空の容器を設置する。
キャンプファイヤーに火をかけて置いておくと、時間経過によってアレンビックに注いだ液体が蒸留され、混ざりものが取り除かれた液体が空の容器に抽出される。

これで海水から真水を生成することができる。塩分はどこにいくやら不明。
空き容器に抽出される液体はなぜか常温で、すぐに喉を潤すことが可能。
時間はかかるが無尽蔵の海水から真水が作れるので、これで水問題は解決、と言い切れはしないまでも、脱水死の危機感は少しだけ和らいだ。

ただし、日照りが続く限りアレンビック蒸留し続けなければ水分を満たせないわけで、つまりたき火を燃し続けるための燃料=木材を消費し続けるわけで、つまり在庫を気に掛けるべきアイテムが増えたともいえ、つまりそれなりに代償はあるってことで、木材の在庫を満たすために採集に出れば体力を使い、喉が渇き、ああつまり面倒くせえ。



73日目。

ろうそく他、洞窟探索用の道具を一式持ってジャングルの中の洞窟へ。
恐る恐る初めての探索。

中はさして広くなく、薄汚い水たまりがあった他は、ろくな発見はなかった。



75日目。

西の草原に仕掛けた罠にネズミが掛かっていた。
罠スキル向上ね。大したもんだよははは。



76日目。

およそ二十日ぶりくらいと思われる、念願の雨が。
念願の雨! 雨!! 雨やでー!
すぎもっさーん!せんたくもん出てるよー!

出先で降り出したので急いで住処に戻り、ありとあらゆる容器を水受けセッティング。働き詰めのアレンビックには休暇を与えた。


神よ、悪戯が過ぎる。日暮れには止んでしまった。
儚い恵みであった。
汲み置きはとりあえずそれなりにできたので二、三日は安心か。



78日目。

ビーチの先の未開の地を行き、火山に近づいた。
希少鉱石と思われる黒曜石に初めまして。


避暑のため休みながら新しい狩猟具を作った。
これまた作っておきながら使い方がわからない。



79日目。

だとさ。



82日目。

先日の雨によって耕作可能になった畑にサゴヤシの種を蒔き、なけなしの水を与えながら育つのを待っていたが、虫がわいて駄目になってしまったらしい。水が、種が、掛けた手間が、無駄になった。

くそ、なんてシビアな世界なんだ。
いいさやってやるさ、殺虫剤、ああ作ってやるさ。



83日目。

殺虫剤を作るため、材料として必要な気がして(研究済み)、石鹸を作った。


続けて、唐辛子を使って殺虫剤を作った。意外と作れるものだ。

しかしサゴヤシの種が無い。
もう一度採集に行くのが面倒、じゃなくて殺虫剤の効果がいかがなものか、また畑を駄目にする可能性もあるので別の種で試すことにする。


以前、塩ができた時に考え(研究)ついた塩漬け調理法を試した。
待たないとかー。



84日目。

窯で貝殻と新しい土器を焼いたのが、日付が変わった深夜に焼き上がった。
貝殻を石灰にしてどんなもんなのか試してみたかった。
ガラス瓶の方は、なんでもいいのでアレンビックで蒸留した水の保存容器を増やしたくて作ってみた。



85日目。

性懲りもなく罠の設置を続け、新しいのをこさえた。
ろくな獲物は期待できず、ほとんどただの設置趣味と化している。


まともな畑もできていないのに堆肥箱を作った。
やたらと時間が掛かって日が暮れた。



86日目。

何着目かの葉っぱスカートが綻んだので、もっと良いものを作った。
皮素材をだいぶ消費した。お猿様の頻繁なご来訪に期待。


避暑&採集のために日々ダイビングをしていたら、新たな脅威に初めまして。
頭に浮かんだ選択肢を海中に放り捨ててダッシュで逃げた。


ダイビングで採集したカキを開けたら中からパールが。
食えもせんものに価値はない。それがこの世界。でもきれー。



87日目。

先頃塩漬けにした魚が仕上がった。
腐敗することなく永久保存できそうだが試食のためにすぐ食べたところ、消失した。干物同様、完成までに掛けた手間暇に対してのリターンがノーマル焼き魚と大差なくて、このしょっぱさったらもう。


同日昼、ビーチの岩場の洞窟を探索。
なんだかよくわからず即撤退。



88日目。

あっぶ。



90日目。

丸三ヶ月を数える朝を迎えた。

クーラー、干物などのおかげで一応食糧の不安は抜けつつある。
水もアレンビックの自転車操業的自給自足によりなんとか渇きを逃れている。雨は前述76日目に降ったのみでまた二週間、過去ひと月で一度しか降っていない。あんなに風雨に震えた日々が遠い昔に思える。
そういうゲー・・世界なのか。



つづく。

カードサバイバル 七人目 (2)

続、桜花舞上三夫のサバイバル生活。

順調に五十日を超えて、からの。



52日目。

貯水池ができた。
作り方を考え(研究)ながら、恐らく泥のレンガとかが必要だろうと予想して素材集めに奔走。作り方の思考が極まった後すぐに作り上げた。
しかし雨が降らなければ無用の長物。



54日目。

さらに泥を集めて粘土をこねて、クーラーボックス的な土器を作る。



55日目。

一晩窯焼きしてクーラー土器完成。

外層に水を入れることで冷却し、内層に入れた食糧の腐敗を遅らせることができるらしい。

のちのち分かったことだが、冷却に使う水は真水でなくとも海水でもいいらしい。つまり飲み水の残と冷蔵効果は切り離して管理が可能。良心的。



56日目。

しかし保存を要するほどの食糧が無かった。
編みカゴなど保管アイテムが充実しており食糧を野ざらしにしないせいか、カモメがやってこない。そうなると食用の植物や果実を採集するか釣りするかしかないが、植物は有限だし釣りは空振りも多く、なかなか在庫を増やせない。

そんなわけで遠出して別の手段を探った。
幸いコブラに遭遇して仕留めることができたが、これだけでは全然不足。


ところで海水から塩が取れるんじゃないかと、新たに考える(研究)。



57日目。

塩床を作った。
どう使うのかよくわからない。
とりあえず塩水を注ぎ込んではみたものの。



59日目。

ジャングル深部まで探索。
蜂の巣を見つけたが、どう考えても危険であり、即スルー。



60日目。

ジャングルから持ち帰ったジャスミンを湯に入れてジャスミン茶。
魚介ばかりの口に一時の安らぎ。



61日目。

海の岩場にあった洞窟に少しだけ踏み込んでみると、奇怪なものを見つけた。
気のせい気のせい。スルースルー。


この三日、雨が降らない。
貯水池ができた直後に降ってひとしきり貯水できて以来。
気温も高く、どうやら乾季とかそういう時期に入ったようだ。

兄はこの季節の変化に戸惑い、血迷い、心の隙を突かれて傷を負い、倒れた。
ここでテンパってはいけない。貯水池、小瓶、ゴミボトル、水の備蓄はそれなりにある。落ち着け落ち着け。


兄のことを思い出したからか、なんとなく・・・。



63日目。

野草をむしって薬草学スキルを上げて畑がやっとできた。
が、乾季。水を撒こうにも明日の飲み水すら危うい状況。何も育てようがない。


安定した食糧のために日々釣りを繰り返した。



64日目。

乾季のおかげで塩水の蒸発がはかどり、塩床から塩が取れるようになった。が、用途の必要量には全然足りず、数度、しばらく繰り返さねばならない。



67日目。

乾季が続く中、兄ジョーが果てた65日を過ぎ、生き延びた。
だが喜ぶべき状況とは言えない。


曇ることはあれど雨降らず。
雨を待ちながら、海へダイビング。カキが捕れた。
カキも乾季もいらん。雨季が恋しい。




つづく。

カードサバイバル 七人目

桜花舞上三夫(さくらのはなまいあがる・みつお)

謎の無人島からの五人目、六人目の死者として報道され世間を騒がせた角倉志兄弟、その二人の弟である三男。三十代、企業取締役。
大学を出て象県鹿島市の某一流企業に運良く就職。数年後、会社の経営陣である一家・桜花舞上家の娘に見初められ婿養子に入り改姓。妻の力で出世コース、役員の座を得たが自身に大した手腕はなく、その座に甘えて職権乱用。会社の金を適当に使い込み、妻を呆れさせ、社長である義父にはすべての権限と地位を剥奪され、遠方に左遷される。
「警察沙汰にしなかっただけでも有り難く思え」という義父の言葉を右から左へ聞き流し、その時社長室に流れた無人島調査の報道に兄弟の名を見つけるや、「あ、これチャンスじゃね?」と直感し、足早に左遷先に旅立つフリをして兄弟が消えた無人島へと向かったのだった。
兄・二夫(ジョー/出生名:ふたお)の死から一年後のことだった。



1日目~7日目。

省略。
二夫の遺品として受け取った無人島生活の日記に書き残されたノウハウに素直に従い、特記すべき出来事もなくそれなりに暮らした。



8日目~14日目。

葉っぱは放置しておくと強風に吹き飛ぶ&乾燥して枯れ葉になると使い道が限られてしまう。といった注意書きに習って、周辺探索で見つけたヤシの葉は極力住処に持ち帰り、枯れる前に編み込んで織物にした。
そうすると必然的に必要な材料が貯まっていたので葉の小屋を難なく作ることができた。



20日目。

食糧と水は常に危なげながらも必死にやりくりする間に二十日が過ぎた。
あと長い棒がなかなか見つからず、クラフトのために数を揃えようと思うといちいち木を切らねばならず、やたらと体力と手間がかかってしまい困っている。



30日目。

何度かウミヘビに噛まれて毒に悩まされつつ、ひと月生き延びた。
ソリや火打石の斧など、それなりに便利なものも作れている。



35日目。

ヤギを狩った。
兄ジョーは将来的な家畜化を見据えて殺さず逃がしていたそうだが、明日すら不安なこの世界で将来を見据えるなど馬鹿げている。首が飛ぶっつうのに髭の心配をするのかってやつだ。いや、ちがう。

とにかく背に腹は代えられん。
なんでもいいから一旦狩っておこうと思った。
葉や枝や棒を集めに出てきたが、ヤギの亡骸は一体ソリに乗せたら他はろくに乗せられないほど重くて、持ち帰るにも一苦労。



37日目。

持ち帰って一旦放置していたヤギを捌いた。
ヤギ肉すごい、量がすごい。これまでの鳥や猿の三倍が取れる。脂肪も取れる。ジョーが入手できず困っていたという脂肪が、今この手に。兄を確かに超えた瞬間。


そして脂肪を使って水筒ができた。




41日目。

40日経過。
この一週間ほど前から嵐が頻繁に到来するようになった。
これが記録にあった風水害の季節か。



44日目。

雨降り止まず、嵐もまだ来る。
凍えて寝付けなくなるのを防ぐために小屋の中にもキャンプファイヤーを置いた。さらに、荒天しのぎの室内作業のために、脂肪からろうそくを作った。が、数は無いのでもったいなくて使えない。洞窟探索の時のために取っておきたい。



46日目。

窯ができた。
兄はそこ止まりだったようだが、俺は違う。



48日目。

続けざま土器をこねて、火力上げのふいごも作れたので、窯を稼働させた。

三つともちゃんと焼けて、取り出す時に火傷などすることもなく、ちゃんと使えるものになった。これで水の保存に少しだけ余裕ができるかも。
窯はしかしキャンプファイヤーと違って、炊いた火を一旦消すってことができず、燃料が尽きるまで放置するしかないようだ。焼き上がり時間を逆算して燃料を入れるべきなのか。そんな高度なことができるわけ。



50日目。

粘土器が作れたことで貯水槽も作れそうな気がしてきた(研究)。
これは兄の記録には無かった新たな展開だ。

50日。
少しずつ兄の経験を超えた未知の領域に進めそうな気がしてきた。



つづく。





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