Noism 劇的舞踊『カルメン』再演

Noizmの『カルメン』を観た(2月20日 17:00/KAAT神奈川芸術劇場 ホール)。初演は見ていない。もう二か月経ってしまったが、平田オリザ脚本の『ラ・バヤデール−幻の国』を観る予定なので、とりあえず公演直後の走り書きメモを打ち込んでおきたい。

Noism1×Noism2合同公演
劇的舞踊『カルメン』再演 神奈川公演

演出振付:金森 穣(Noism 芸術監督)
音楽:G. ビゼーカルメン》 オーケストラ版&組曲版&交響曲版より
衣裳:Eatable of Many Orders
家具:近藤正樹
映像:遠藤 龍
出演:Noism1 & Noism2、奥野晃士(SPAC- 静岡県舞台芸術センター)
キャスト
カルメン〈野性の女〉:井関佐和子
ホセ〈理性の男〉:中川 賢
カエラ〈許婚の女〉:石原悠子
スニガ〈権威の男〉:佐藤琢哉
リュカス〈我欲の男〉:吉粼裕哉
ロンガ〈同郷の男〉:チェン・リンイ
ドロッテ〈謎の老婆〉:池ヶ谷 奏
メルセデス〈異父の姉〉:梶田 留
フラスキータ〈異父の妹〉:田中須和子
マヌエリータ〈仇敵の女〉:飯田利奈子
ガルシア〈極道の男〉:山田勇
兵隊の男たち:リン・シーピン、上田尚弘
ジプシーの男たち:郄木眞慈、山下菜奈
街娘たち /ジプシーの女たち:浅海侑加、鳥羽絢美、西岡ひなの、深井響子、西澤真耶
学者〈博識の老人〉:奥野晃士

主催:公益財団法人 新潟市芸術文化振興財団
制作:りゅーとぴあ 新潟市民芸術文化会館
提携:KAAT 神奈川芸術劇場
協力:SPAC - 静岡県舞台芸術センター
平成27年文化庁劇場・音楽堂等活性化事業

旅の考古学者(ナレーター)が開演前から舞台上手の張り出しに現前し、ものを書いている。たぶん小説『カルメン』を。彼の役割はカルメン物語と観客との橋渡しだろう。物語の前史が前舞台で影絵等を巧みに駆使して演じられる。やがて刑を待つホセが、考古学者にそれまでのいきさつを話し始める。するとカーテンが上がり、メインストーリーの上演が始まる・・・。その趣向は原作短篇にきわめて忠実。が、舞台としてさほど効果的と見えないのはなぜか。振付の問題? ダンサーがタイトルロール以外(特に男性たち)あまり生きがよくないから? 金森の男としてのエナジーが強すぎる? 金森がホセをやればよくなる?
ナレーターの存在についてはアヴェ・プレボーの『マノンレスコー』等、西欧のリアリズム小説には結構見出せる。物語の中心から一定の距離を取る第三者としてのナレーターの必要性は、書かれた文字を読む小説ならではともいえる(フィクションをリアル/実話と信じ込ませるためのdeviceの一つ)。生身の人間が現前する舞台の場合はどうか。その必要性(必然性)はあるのか。オペラの《カルメン》がそれを省いたのはなぜか・・・。
ホセがガルシアを殺したあとのパ・ド・ドゥで「花の歌」を使う。一回目はミカエラと。このときはユーフォニウムがメロディを奏する。カルメンとのパ・ド・ドゥでは弦楽合奏。踊りも音楽もコンテクストも適切でよい。後者で初めて頬が緩み、こころが動いた。が、この後、ホセがブリスの余韻にひたり床に横たわっている間、カルメンの前に死んだ人間たちが黒いマントを被って現れ、彼女を苦しめる。バレエ『マノン』の沼地を想起。過去のしがらみ(束縛)はカルメンがもっとも嫌うもの。彼女はなにより自由を愛する。
ラスト。闘牛士のリュカスが唐突に再登場する。ホセに殺されるカルメン。いったんカーテンを閉じ、再度考古学者が上手張り出しの机の前に現れる。椅子の背後から彼に黒子がしきりに執筆をけしかける。この黒子は実はカルメン。彼女のたましいが本作を書かせたといいたいのか。ホセがカルメンを殺すとき彼女は鬘を投げ捨てた。なぜ? あの奔放な女とは別の、素の自分が居たということ? どうせ原作に忠実にやるならオペラで加えられたミカエラは必要か? 音楽もさほど彼女の部分を使っていなかった? 冒頭のナレーターと黒子との机を介したダンスは、俳優浅野和之の切れ味鋭い上半身マイム(小野寺修二 カンパニーデラシネラ『ある女の家』2014年 新国立中劇場)を想い出した。