取る一手将棋を考える (1)

取る一手将棋という変則将棋をご存じでしょうか。駒を取れるときは必ず取らなくてはいけないという、文字通りのルールです。もう少し細かいルールは、次のようになっています。

  1. 王手をかけられていないときは、駒を取れるならば必ず取らなくてはいけない。取れる駒が複数あるときは、どの駒を取ってもよい。
  2. 王手をかけられたときは、王手を防ぐ手の中で任意の手を指せる。王手された駒を取れるときでも、玉が逃げたり合駒をしたりすることが許される。
  3. 相手の玉を詰ませば勝ち。

これに「王手をかけられていないとき、玉で取れる駒があれば玉で取らなくてはならない。」というルールを加えたものが『おもしろゲーム将棋』(湯川博士著、週刊将棋編)で紹介されていますが、このルールのないバージョンもよく指されており、個人的は感想としてはむしろない方が自然のような気がしています。ここではその違いをできるだけ意識せずにすむ手順を書きますが、微妙な場合にはこのルールはないものとしてお考え下さい。

取る一手将棋は非常に激しく、王手将棋や資本還元将棋と比較してもいきなり勝負がついてしまうことの多い変則将棋です。その典型的な例が、「端定跡」です。端定跡には右と左がありますが、ここではより強力な「左端定跡」を紹介しましょう。

左端定跡は文字通り左端から攻め込む定跡です。先手であれば初手▲9六歩ですね。これに対して後手が△9四歩と受けると、この左端定跡が成立していきなり後手負けとなります。具体的な手順は以下の通りです。

▲9六歩    △9四歩    ▲9五歩    △同 歩    ▲同 香    △同 香
▲9九角    △同香成    ▲8八銀    △8九成香  ▲4八銀    △8八成香
▲3九銀    △8七成香  ▲1六歩    △7七成香  ▲9八飛    △6七成香
▲9一飛成  △5七成香  ▲8二龍    △同 銀    ▲9二飛    △4七成香
▲8二飛成  △3七成香  ▲8一龍    △2七成香  ▲6一龍    △同 玉
▲6四歩    △同 歩    ▲2八銀    △同成香    ▲6三銀    △1九成香
▲6二金
まで37手詰

変化:22手
△4七成香  ▲8三龍    △3七成香  ▲8一龍    △2七成香  ▲7一龍
△同 金    ▲2八銀    △同成香    ▲8三桂    △1九成香  ▲7一桂成
△2九成香  ▲6二歩    △同 玉    ▲8三銀    △7一玉    ▲7二金
まで39手詰

後手はほとんど変化の余地なく、取る一手の連続で詰みに追い込まれることをご確認下さい。

この左端定跡は非常に強力なので、先手はこれを狙えば必勝と思われるかもしれません。しかし、後手にはこれに対抗する策がいくつか考えられます。その対策を書いていくのがここでの目的です。

まず先手が単純に▲9六歩▲9五歩と端歩をのばして、▲9四歩からの左端定跡を狙ってきた場合を考えましょう。この場合は、2手目に何を指したとしても逆に後手からの右端定跡が成立します。次のような手順です。

▲9六歩    △5二玉    ▲9五歩    △9四歩    ▲同 歩    △同 香
▲同 香    △9二飛    ▲同香不成  △9一歩    ▲同香成    △8二銀
▲8一成香  △1四歩    ▲8二成香  △5一玉    ▲8三成香  △5二玉
▲7三成香  △4二玉    ▲6三成香  △5一玉    ▲5三成香  △1三角
▲4三成香  △5七角成  ▲3三成香  △4七馬    ▲2三成香  △2九馬
▲同 飛    △6六歩    ▲同 歩    △2二銀    ▲同成香    △5六歩
▲1一成香  △5七歩成  ▲2一成香  △4七桂
まで40手詰

先手がこの右端定跡を防ぐためには、5七を守っておく必要があります。そこで、3手目に▲4八銀とか▲5八飛とか▲6八玉とかの手をはさんでから、5手目に▲9五歩と突いて左端定跡を狙ってみましょう。

これに対する後手の対策はなかなか難しいです。先手の▲9四歩が来るまでに後手は3手指すことができますが、その間に玉の守りを固めようとしても固めきることができないためです。そこで後手としてはもう少し別の対策を考える必要があります。

取る一手将棋を考える (2) へ続く。)

2ヶ月

ここで書き始めてから2ヶ月が経ちました。その間ほとんど毎日更新していたわけですが、どうも私には考えたことをそのような形で伝える文章力が不足しているらしいことがわかってきました。気分を害された方にお詫び申し上げます。当分の間は批判めいた文章を書くのを控えようと思います。