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2016-06-15

[]をみなごのための室生家の料理集

室生洲々子著『をみなごのための室生家の料理集』(発行・龜鳴屋)の挿絵を描きました。室生洲々子さんは作家・室生犀星の孫娘。孫娘の目から見た、祖父、祖母、母が作った室生家の味が23点、この本では紹介されています。料理集といっても細かな分量は書かれておらず、室生家の台所に立つ女たちの横で出来上がっていく料理を眺めているような、子が母に教わるような、柔らかに流れる調理法が読んでいて楽しいです。所々に書かれた室生家の出来事の数々も、洲々子さんがこっそり台所の窓を開けて見せてくれているような楽しさがあります。頑固者の祖父、ハイカラな祖母、料理上手の母、それを見ていた洲々子さんが残す室生家の味を、ぜひご堪能ください。

造本設計発行は金沢の龜鳴屋さん。アタリの線を額縁のように活かし、柔らかな紙と、真ん中まできれいに開く糸綴じが、手に心地いい造本です。龜鳴屋さんは雑誌『spectator』コペ転特集で取り上げられている7人のうちのひとりでもあります。こんなひとり出版社があるのか、こんな人がいるのか、と読んで驚かれたかたも多いのでは。龜鳴屋の勝井でござい、と、近藤勇(私)宛てに届く江戸書状のようなメールが毎回おかしく、どんな人なんだろうと思っていたところに、『spectator』の絵の依頼がきて驚きました。

『をみなごのための室生家の料理集』は、洲々子さんが名誉館長をされている金沢室生犀星記念館販売されます。

6月17日追記

『をみなごのための室生家の料理集』

通販はこちら:龜鳴屋 表紙1 金沢 室生犀星記念館

店頭販売はこちら:金沢 室生犀星記念館 軽井沢高原文庫

都内での店頭販売は、古書往来座(南池袋)のみ取り扱いがあります。古書往来座ブログ「往来座地下」

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2016-06-01

[]spectator

雑誌『spectator』2016年Vol.36が発売されました。表紙と本文イラスト、目次と各章題字の文字を描きました。特集は「コペ転」。コペルニクス的転回を人生で果たした7人の物語です。ほぼ丸ごと一冊、雑誌の絵や文字を描いたのははじめてのことでとても嬉しく、また編集の赤田さんとのやりとりも忘れられない、わたしにとっても「コペ転」の一冊となりました。赤いリンゴが目印の一冊を、手にとっていただけたら嬉しいです。

『spectator』2016年Vol.36 特集「コペ転」

■リンゴ売りの物語 

ムカイ林檎店行商人・片山令一郎 

取材・文/さぶ

■なぜ古書店を開業したか 

マニタ書房代表・とみさわ昭仁 

取材・文/石橋毅史

■ひとり出版社の15年 

亀鳴屋代表・勝井隆則 

取材・文/間宮賢

■僕が里親になった理由 

漫画家古泉智浩 

取材・文/森山裕

■独自の仕入れで、本屋をつくる 

誠光社代表・堀部篤志 

取材・文/山本貴政

■麻栽培を復活させた男 

八十八や代表・上野俊彦 

取材・文/金田トメ善裕

■注目すべき人々との出会い 

カレー食堂ホジャ・ナスレッディン店長・石川直樹 

取材・文/ハーポB

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2016-05-23

[]スカートの柄 

朝、新聞を眺めていると、「父の教え」という連載が目に入った。毎週、有名人の父子が取り上げられているが、今朝は檀一雄とその娘、檀ふみさんだった。檀一雄子どもたちに言い続けた「奮闘しなさい」という言葉と、晩年のエッセイ『娘たちへの手紙』から引用された一文に、目がとまった。

「マイホームという幸福の規格品を買うようになったら命の素材が泣くだろう。」

中学高校と通った女子校の制服はセーラー服で、わたしは毎日スカートをはいて学校に通った。冬のスカートはずしりと重く、衣替えのあとの夏のスカートは紙のように軽く感じたが、ただそれだけだった。スカートの丈、スカートの丈に合わせた靴下の折りかた、ワンポイントの柄選び、前髪の長さ、見つからないようにするささやかな化粧や巻き髪。気の利く彼女たちは、狭い規律のなかで、少しでも自分に似合う姿形を探していた。いつからか、女の子らしい格好をすることが苦手になったわたしにとって、幸福の規格品は、スカートと、スカートをやすやすとはきこなす彼女たちだった。

似合いもしないスカート選びに時間をかけるより、映画を観に行くほうが、本を読むほうが、絵を描くほうが大事なのだと、なぜそんな風に思っていたのか。

いま思えば、彼女たちは自分の器と世間と折り合いをつける努力をしていたに過ぎず、わたしはスカートより大事なものを探すという口実に、みっともない顔形を言い訳に、自分と世間と折り合いをつける努力から降りたのだ。

成人式振袖、卒業式の袴、リクルートスーツ、ウェディングドレス。折り合いのつかないわたしの、はけないスカートが増えていく。

彼女たちの服装は数十年ごとにはやり廃りを繰り返し、あのころとどこか似た格好をした彼女たちがいまも街にあふれ出る。折り合いをつけた彼女たちが、折り合いをつけそびれたわたしの前を立ちふさぐ。美術館のなか、スカートをひらめかせながら絵の前に立ち、絵とはなんの関係もない世間話で盛り上がる。わたしは彼女たちの後ろから絵を覗きこむ。その先に、スカートより面白いものがあるはずと、あったはずだと思いながら。

規格品以外の幸福は、誰にでも見つけられるものではないのだ。奮闘をしいられた娘たちは幸せになれるのか。たいした才能もなく、折り合いをつける努力もせず、そこから目をそらし続けてきたつけはいつかは回る。

四十を越えたいまも、わたしは自分に似合うスカートの柄がわからない。

2016-04-12

[]沼日

来月「沼日」という題で京都で個展をします。頭でこういう絵を描きたいと手を動かし、結果、手が頭の思惑を超えていったとき、楽しいなーと思います。

沼日のチラシも出来あがりました。とても薄い紙で作りました。どこかで見かけて鞄に入れて持ち帰ると、家に着くころにはくしゃっとしています。団子屋の包装紙のようなくしゃっとさです。気に入っていただけたら冷蔵庫や便所の壁にでもくしゃっと貼ってください。

●●●武藤良子個展「沼日」●●●

久しぶりに京都で個展です。

14日には林哲夫さんとのイベントもあります。

林さんと絵の話をしようと思います。

■日時

2016年5月12日(木)から24日(火)まで

会期中休廊日:18日、19日

11時30分から19時まで

■場所

BOOK CAFE & GALLERY ユニテ

〒606-8383

京都市左京区川端通り二条上がる東入る新先斗町133番地サンシャイン鴨川1階

駐輪場あり

075-708-7153

http://www.unite-kyoto.jp/

■イベント

画家・林哲夫さんと話そう

5月14日18時から

500円 ワンドリンク付き

予約、問い合わせはユニテまで info@unite-kyoto.jp

終了後、懇談会を予定しています。お時間あるかたそちらもぜひ。

チラシ制作協力:橋本倫史

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2016-03-17

[]マヨヒガ

小田急線小田原の少し手前まで。同じ電車で来たSと、すでに改札の外で待っていた隊員たちと、さらに遅れてきたUと、今日は神奈川の山と川沿いを歩く。カレンダーの裏紙に描かれた地図を頼りに川を越えて山へと向かう。昼飯の食材が入った20キロ弱の背負子を、男は10分、女は5分、じゃんけんで負けた順に背負いながら。背負子に挿された隊の名札、酒匂川の土手から富士山、土手沿いにまばらに生えたつくし、ロマンスカー号のロンちゃんの展示、富士フィルムの大きな工場、狩川の土手にはつぼみがふくらみはじめた春めき桜が並び、さっきより少し近づいた富士山の真っ白な先っぽだけ山の峰からのぞいている。

平らだった地面が斜面になるにつれ、民家が減り、みかん畑と茶畑の景色が増えていく。寺の山門でカレンダーの地図を描いてくださったNさんKさんと犬のシロとはじめまして。日光を思わせる杉林の参道を抜けてお寺の奥の墓地へいく。酒が好きだったという故人の墓前にはエビスの缶ビールが二本。今日は寒いからとNさんが持ってきた燗した日本酒。墓のうえからまず日本酒をそそぎ、続いてビールもそそぐ。寒いじゃない、逆にしたらよかったのにと笑いながら。

Kさんの運転するトラックに乗せてもらい山の中腹のふたりの家まで。家のまえにきれいに積まれた薪と薪割り道具。玄関すぐの薪ストーブが山の斜面に建てられた家を暖める。一冊だけないという故人の著書が年代順に並んだ本棚。母の家には全部あるのだけれど。この辺りが一番油がのっていたころ。男の読者が多かった。この辺は男の読者が離れて女の読者が増えたころ。Nさんが本棚の真ん中以前と終わりのころを指差し話す。井伏鱒二阪田寛夫、Nさん、故人と並ぶ白黒写真。使い込んだ百人一首の箱、Oさん自作の夕日柄のCDが本棚を飾る。

Nさんが今朝炊いたという赤飯のおにぎり、けんちん汁。背負子のなかのポテトサラダ、ナムル、鶏の唐揚げ、カマンベールチーズにパン。Nさんちのベランダにカセットコンロを出して作った中華風おこげのあんかけと焼きそば。エビスの缶ビール赤ワイン。ベランダの先にさんしゅゆの黄色い花が咲いている。

庭の斜面の大木に長いブランコがひとつ。ブランコのしたには明るい緑の苔がびっしり。踏むのをためらいつつブランコに腰掛け、背中を押される。眼下の町が見えたり消えたり、消えたり見えたり。元鶏小屋だった場所にいまは薪が積んである。最後に飼っていた黒チャボは去年イタチに殺された。

Kさんに薪割りを教わる。腕の力をなるべく使わず、振りかぶった斧の重さで薪を割る。狙った場所から目を離すな。振りかぶった斧を木に当てるまでが一苦労。薪の大きさになるまで割り続けるので二苦労。何度かに一度、斧の一線がいい目に入ると、ずっしり重い固い木が、絵本で見た桃太郎の桃のようにぱかっと割れる。

ふたりの山の家を後にする。Nさんと犬のシロが途中まで送ってくださる。散歩の夫婦とNさんがすれ違いざま言葉を交わす。故人の小説にあこがれて、夫婦はこの山に越してきた。そうした人たちがここに何組かいるという。子どもたちの3.5キロの通学路、いまは使われていないプール、放し飼いの犬たちがたびたび脱走する家、駅までの上りが朝の1本しかないバス停、お父さんが東大でお母さんが東女で息子さんが京大の家。そんな家なかなかないわよね。お父さんが芥川賞作家の家のほうがないですよ。ほんとだね。

翌朝、布団のなかで聞く雨の音。薄暗い部屋のなか、昨日の世界がこの世のものとは思われない。

明るすぎる家はまぶしくて、お膳にごちそうは並んでいるのに目をつぶると誰もいない。狩川の上流から赤いお椀が流れてくる。