m.r.factory

2008-09-01

[][]銭湯に未来はあるか

赤羽を歩く。腹が減ったので、とりあえず中華料理屋に入る。厨房と店員の中国語が飛び交うなか、サラリーマンのおじさんに囲まれ、鶏肉のカキ油炒め定食750円を食べる。なかなかおいしい。腹も満たされたので、荒川土手まで散歩する。こないだ歩いたルートとは逆の道順だ。谷内六郎のモザイク画を遠くに眺め、途中の酒屋で缶ビールを買い、荒川土手に上がる。モフモフとした草の上を歩く。今日の荒川も濁っている。川のそばのオブジェなのかベンチなのかよくわからない木に腰掛け、さっき買った缶ビールを飲む。左手には先日歩いた新荒川大橋、右手には岩淵水門、が見える。新荒川大橋の上を、セブンイレブンのマークを付けたトラックが何台も何台も走り抜けて行く。ああして毎日、埼玉かどこかの工場でつくられた大量のおにぎりやサンドイッチが、近所のコンビニに運ばれてくるのか。足元にはオレンジ色の蝶がひらひらと、荒川の上空には真っ白い鷺が大きな翼をバサリバサリと動かしながら飛んでいる。

銭湯「岩の湯」へ。3時半の開店を店の前で待つ。同好の人たちが数人、同じようにして開店を待っている。3時半きっかりに木戸が開き、女湯の戸を開けると、ひんやりとした空気が脱衣所から流れてくる。木造の古い銭湯。天井は格天井、桶は白いケロリン、正面のペンキ絵は、女湯と男湯をまたぐようにしてある基本の富士山富士山が小さめだから何にもない青い空の部分が広い。それがちょっと寂しい印象を与える。変わっているのは、女湯と男湯の仕切りの壁のタイル絵。タイル絵には、いろんな色の細かい正方形のタイルを張り合わせて絵にしているものと、大きめの白いタイルの上に絵を描いたものの2種類があるけれど、ここ「岩の湯」のタイル絵は後者のほう。白いタイルに、リアルなタッチで、昔話の桃太郎の絵が描かれている。大きな桃から産まれて、猿と犬と雉を家来にして、鬼が島を目指して、最後は宝物を取って帰るまでが、右端から左端まで、絵巻物のように描かれている。床のタイルも変わっている。水色の丸い不ぞろいなタイルの中に、貝の形をしたタイルが混ざっている。巻貝やらホタテやら4〜5種類の貝のタイルが、ぽろぽろと床の水色の中に散らばっている。湯船はと見ると、ジェット系が2つと、大きな湯船が1つ。大きな湯船は、半分がぶくぶくと泡風呂になっており、壁の端からお湯が滝のようにあふれ出ている。滝の上にはかすれてほとんど見えない文字で「長寿泉」と書かれている。たったそれだけで、何かご利益がありそうな気がしてくる。

駅前の1番街シルクロードという商店街の、おでんの立ち食いができる「丸健水産」へ。缶ビールと、ちくわと、つみれ。夏におでんはどうかと思ったけれど、アーケードに覆われているせいか、なかなか涼しく、風が吹き抜け、快適である。商店街で働くおばちゃんやおじちゃんを見ながら飲むのもなかなか楽しい。店先の「酔っ払いはお断り」「ヨソで飲ん出来た人には1本までしか出せません」そんな張り紙を読みながら、おでんの汁をずるずるとすする。

今日はもう1軒、銭湯に行く。駅前を通り過ぎ、赤羽公園のもう少し南。そこまで来ると煙突が見える。銭湯「玉の湯」へ。番台でお金を払うとき、番台に座る女将さんの手元を見ると白い紙。そこにマジックでなにやら書き物をしている。見るともなしに見ると、原油高騰、9月30日、廃業、そんな文字が目に入ってくる。玉の湯、お前もか。お前もなのか。ここも古い木造の銭湯。歩くたびに、脱衣所の床がみしみしと鳴り、そばの窓ガラスがビリビリと鳴る。ペンキ絵は、ここも基本のまたぐ富士山。少し紫がかった深い青が美しい、とてもいい富士山だ。左端にはこれもなぜか薄紫色にそまる砂浜に木の船がいくつか。海の色は、静岡の海とは思えないエメラルドグリーン。そして右端には「美保・松原」の文字。ここの湯船は、洗い場の奥の壁の、このペンキ絵の下にあるのではなく、女湯と男湯の仕切りの壁に沿ってある。京都銭湯「錦湯」に近い気がする。深め、浅め、ジェットと3つ湯船はあるものの、どれもこじんまりとしている。浅めとジェットの湯船には、ごつごつとした岩がステンレスのケージに囲まれて入っている。壁を見ると、ラジウム(ラドン)温泉、と書いてある。1日2〜3回入るといろんなものに効いてくるらしい。桶はオリジナルで、玉の湯、の文字入り。この桶も、あともう少しで用済みなのか。風呂から出て、銭湯スタンプラリーの判子を押してもらいに番台にいく。お店を閉められるんですか、と聞いてみる。今月いっぱいで、と女将さんは言う。うちのお湯熱くなかったかしら、と逆に質問される。深めのお湯は常に水が出しっぱなしになっており、他の2つの湯船も適温だった。いえ全然、そう答えて、他に何も言えなくなる。外に出ると、銭湯の入り口にさっき女将さんが書いていた紙が張り出してあった。赤羽の「玉の湯」は今月30日で廃業です。

また駅前に戻り、今度はOK横丁の「八起」で飲む。生ビールと、サバの文化干しと、キムチ炒め。飲みながら、ぼんやりと、銭湯の未来のことを考える。

岩の湯
玉の湯