m.r.factory

2009-01-03

[][]蛇骨と新月

昼過ぎ。浅草に着くと、どこもかしこも混んでいる。とりあえず昼飯を、と思ったものの、老舗の飯屋からはじかれた人たちが道に溢れ、昼飯難民と化している。天丼てんやや、ラーメン日高屋などのチェーン店にまで行列が出来ている始末。そこに並ぶ気はさらさらなく、中心地から少し離れればマシかもしれないと六区の方に歩きだす。六区にある銭湯蛇骨湯」のそばに小さな年季の入ったラーメン屋を見つける。どこも人が並んでいる中、そこだけポツンと人波が途切れている。入り口のガラス戸から中を見る。カウンター10席くらいの小さな家族経営の店と見てとれる。席はほぼ埋っているが空いているところもチラホラある。こういうときに人が並んでいない店というのは、美味しくないか、常連さんが多くて近づけないか、店の様子が年季が入り過ぎていて観光客が敬遠するかのでどれかで、悩んだ末に思い切ってそのガラス戸を開けてみる。カウンターの端に腰掛け、瓶ビール餃子を注文する。ビールを飲みながら店の様子をじっくりと眺める。女将さんがメインで仕切り、無口な旦那さんが黙々と補助にまわり、娘というには若いから孫かもしれない女の子2人が皿を洗っている。無口な旦那さんは無口ゆえに何もしゃべらないが、女将さんと孫2人は仕事の合間に饅頭を頬張り、こんな日は時給3000円貰わなきゃやってられないよと笑いながら言い合い、忙しい中にも明るさと、常連も観光客も差別せずに接するその態度を見て、これは当たりの店だと確信する。お待ちどうさま、と笑顔で言われ餃子が前に置かれる。洋食屋で使うような銀色で楕円形の皿に餃子が5つ転がっている。雑だけど、その味はうまい。餃子がきたところで、タンメンかチャンポンか悩んだ末にチャンポンを頼む。チャンポンは、しょう油味のスープにあんかけの野菜炒めがのっており、予想と違うがこれもまたうまい。正面の冷蔵庫の上に置かれたテレビでは箱根駅伝の中継を映している。倒れこむようにゴールする選手たちを見ながら、チャンポンをすすり続ける。

腹も満たされたので、すぐそばの銭湯蛇骨湯」へ行く。ここは去年の1月3日にも訪れていて、同じ日に同じ風呂に入るのも悪くないかも、とまた来てみたのだ。券売機で入浴券を買って中に入る。前来たときに改装のお知らせが貼ってあった気がするが、脱衣所も洗い場も何も変わっていない。クリーム色の桶にカランから出したお湯を貯める。天然温泉のお湯は薄茶色く濁り、出がらしのウーロン茶のようだ。正面には男湯と女湯をまたぐようにしてある大きな富士山。右端には満開の桜の木、とこれも変わっていない。水風呂と露天風呂も相変わらずだし、去年と何も変わっていないことがなんだかうれしい。

蛇骨湯」を後にし、六区を歩いていると、ひときわ賑わっている場所がある。見るとそこは浅草演芸ホールの前で、若手の落語家と思われる人たちが大声あげて木久蔵ラーメンを売っている。そしてその後ろに微笑むその人は木久蔵改め木久扇さん本人ではないですか。たまに見る「笑点」の大喜利のキクちゃんと同じ困ったような微笑。正月そうそう得した気分になる。

浅草寺でお参りをと思い、境内の縁日を冷やかし、懐かしの玄米パンのほっかほか〜を買って食べ、本堂に近づいてみるとものすごい人の列。お参りの入場規制までしている。並ぶのが嫌いなので、少し離れた場所から本堂に向かって手を合わせる。いつも静かな浅草が、活気のある姿を見るのはとてもうれしい。映像や写真で見る昔の浅草や六区の賑わい。あの時代は毎日がこんな感じだったのだろうか。

裏道を歩きながら上野まで。アメ横で靴を見る。決め手にかけて買うのをやめる。もうずいぶんと靴も服も買っていない。向田邦子のエッセイ「手袋をさがす」。あれと同じよ、と強がってみたりもするが、私の場合ただ金がないだけなのだ。

池袋まで出てそこから埼京線で板橋駅まで。正月のいつもより暗い夜道を歩きながら銭湯新月湯」を目指す。年末年始は開いている銭湯が少なく、営業時間もいつもと違うので、近場でやっている銭湯を探すのにとても苦労する。やっと見つけた「新月湯」は寂れた商店街の中にあり、古くて昔のままの大きな銭湯だった。左側が女湯。番台で入浴代を払い、脱衣所に入る。格天井で、とにかく広い。女湯だけで横幅が10間くらいあるんじゃないか。その広い脱衣所に面して庭があり、その庭に面してガラスの引き戸が何枚も横に連なっている。田舎の駅舎にあるような、木の無骨なベンチもその前に置かれている。洗い場に入るとここもどーんと横に長く、島カランが2つある。3つあった北池袋の「小松湯」にはかなわないものの、池袋の北側にある銭湯はどこも様子が似ている。ペンキ絵はない。その部分には銀色のアルミのようなものが貼ってあり、はじめからこうだったのか、描きかえるのが面倒でこうしたのか、よくわからない。アルミの下には大きな白いタイルの上に黒と赤の大きな鯉、それに鯉と同じくらい大きい金魚の姿が描かれている。どこにも絵がないのは寂しいので、このタイル絵はとてもうれしい。変わっているのは浴槽で、これだけ横に長いのに、湯船は2つしかない。ものすごく長い浅めの風呂と、そこそこ長い深めの風呂の2つ。どちらにもか弱いジェットがついている。湯船の中をぐるりと回るように腰掛の段差があるのも珍しい。手前側にあるのは普通だが、ここでは奥の普通ならペンキ絵がある側にも段差があるので、そちらに腰掛け広々とした洗い場と天井を眺めることができる。どちらの湯船もこれでもかというくらい湯が熱い。我慢して無理やり入るとすぐに体が真っ赤になっていく。壁の温度計は47度をさしている。後から来た子どもが、こんな熱いお湯には入れないと暴れている。私が子どもでもたぶんそうするだろう。でももう大人だから、この熱さもまた楽しめてしまうのだ。