m.r.factory

2009-01-26

[][]梅月湯

新宿ベルクで昼飯を食べる。新宿は学生の頃からの馴染みの町の1つだが、ここベルクに入るのははじめてだ。店の前をよく通りながらも中に入ることがなかったのは、イチゲンさんには入りずらい雰囲気だったからだ。狭い店の中に、大人の、常連の、人たちがひしめき合い、気軽にお茶をと思えなかった。「新宿駅最後の小さなお店ベルク」を読んだのは最近のこと。肉にこだわり、パンにこだわり、ビールに、コーヒーにこだわる店、そして家主のJRと闘っている店だと知った。生ビールと、スペシャルランチサービスのエッセン・ベルクを注文する。エッセン・ベルクは大きめの皿の上に、野菜スープと、白パン黒パンが一切れずつ、それにハム、ジャガイモレバーペーストキャベツの酢漬けが並び、どれもおいしく、少しずつ盛られたそれはビールのつまみにもちょうど良い。生ビールは1杯315円で、11枚つづりのチケットを買うと、1杯286円で飲める。安く飲めて飯のうまい店、家賃もきちんと納めている、そんな店をどうして追い出そうとするのか、大金持ちの大企業の考えることはさっぱりわからない。

西口のコクーンタワーに出来たブックファーストを覗き、中央公園を抜け、十二社通りを歩き、銭湯「梅月湯」に行く。「梅月湯」の裏には「梅月荘」という名の古いアパートが建っている。ずいぶん昔そこに住んでいたんだよ、目の前の「梅月湯」に通っていたんだよ、とイラスト同業者のTさんから聞いたことがある。この近辺は新宿の周りでも地上げ建て替えが激しい地区なので、大きな新しいマンションを見るたびに、もしやここが「梅月湯」だった場所ではと悲観的に探していたら、湯気がたちのぼる古いビルを見つけた。「梅月湯」と看板がかかっている。裏にまわると遊歩道があり、その向こうに「梅月荘」もあった。2階建ての古いアパート。1階の入り口は立派だが、雑草が繁り、ガラスも割れて、人の気配がない。いつかTさんに見せようと、アパートと「梅月湯」の写真を何枚か撮る。古いビルの1階にある銭湯。ガラガラと大きな音がする自動ドアが開くとすぐに床なので、靴はその自動ドアのところで脱ぐ。ぶら下がり健康器があるロビーを抜け、右側の女湯のドアを開ける。番台形式だが目の前にすぐ仕切りがあるため、番台から脱衣所は見えないようになっている。天井はそこそこ高い。ロッカーの上には、使われなくなった脱衣籠と籐製のベビーベッドが2台ホコリをかぶって置かれている。洗い場に入ると光がまぶしい。外に面している壁一面がガラスブロックで出来ている。それがちょうど西向きなのか、夕日がまぶしいくらいに差し込んでいる。昼間の明るい銭湯好きにはたまらない光景だ。湯船は、座ジェットが2台ついている小さめのものと、一部泡風呂になっている大きめのものの2つ。正面の壁には女湯では珍しい富士山の図。ペンキ絵の下には、寂しげな線画で海と船とカモメか何かが描かれたタイルが貼られている。男湯と女湯の仕切りの壁には、小さなタイルで、バンビや白鳥のモザイク画が作られ、どこかヨーロッパな雰囲気を醸し出している。

地下鉄に乗り、六本木へ。森美術館で「チャロー!インディア インド美術の新時代」を見る。もらった招待券には、インドの街中を走っていそうな派手派手なバスの絵が描かれていたので、そういうバスが並んでいる展示かしらと見に行ったらそんなものは全くなく、インド現代美術の展示だった。招待券でスカイ・デッキにも出られるとのことなので、六本木ヒルズの屋上に上がる。海抜270メートルの風は冷たい。夕闇の中、どこまでも東京の夜景が広がる。新宿御苑明治神宮青山墓地などをのぞく、ほぼ全てに満遍なく人工の光が灯る。こうして見る東京は、どこまでも平らで、どこまでも広い。

麻布十番に出て夕飯を食べて帰る。途中、麻布十番駅で、旅猫雑貨店の金子さん夫妻とすれ違う。あれ、なんでこんなところで、とお互いに驚き別れる。「わめぞ」とはどこまでも縁がある。