m.r.factory

2009-03-14

[]普通の銭湯に飽きた方へ

池袋の西口にある銭湯「桃仙浴場」へ行く。ビルの1階にある銭湯だが、なにかが普通と違う。入り口までビニールのアーケードが続き、小さな引き戸の入り口を開けると、1畳もないかと思われる空間に、アパートの玄関のような下足場とフロントがある。フロントの左右には男湯と女湯の入り口があり、カーテンが吊るされその奥に扉があり押して入るようになっている。何のためのカーテンかと思えば、扉を開けるとすぐにロッカーがあり脱衣場があり、カーテンがないと着替えているところも、裸でぼーっとしているところも、見えてしまうからだ。すでに入り口からここは普通の銭湯とは違うと驚いてばかりなのだが、脱衣所に入るとさらに驚く。左手の壁にロッカーが並ぶのはいいとして、右手に洗い場の入り口があるのもいいとして、その入り口の横に中二階に上がる階段がついている。この不思議な空間が何に似ているかと言えば、ル・コルビジェの設計したメゾネットタイプの集合住宅「マルセイユ・ユニテ・ダビタシオン」に似ている。階段をあがると4畳半ほどのスペースがある。正面の壁には白雪姫に出てきそうなゴージャスな鏡が2枚、その横には頭を乾かす椅子と大きなベンチ、そして灰皿まである。脱衣所に降りて周りを見る。この銭湯はとても小さいのだ。脱衣所のスペースが狭いので、上に空間を広げたのだと合点する。洗い場に入るとまた驚く。予想はしていたがとても狭い。正面にはすぐ湯船があるのだが、その湯船の部分だけ天井がものすごく低い。2メートルあるかないかというところ。その低い天井を支えるように太い柱があり、その周りにジェット系が並ぶ大きめの湯船が1つと、茶色く濁った小さめの湯船が1つある。この茶色のお湯は何かというと、天然の鉄鉱泉と書かれている。錆のように茶色く、底も見えないぐらい濁っているが、なんの匂いもしない。洗い場の天井は多少高い。左右にタイル絵があり、入って右側には白鳥が5羽浮かぶどこかメルヘンな風景、左側にはここは日本海ですかというような荒波はじける岩場の風景。何の関連もないこの二つの風景をどうして並べたのかと、湯船につかりながら顔を左右にふりふり考えるがよくわからない。カランも変だ。関東ではあまり見かけない、極小島カランがここにはある。直径50cmくらいの六角形の島カラン。六辺に六つカランが並ぶ。真ん中に鏡もシャワーもなく、この極小島カランに6人並んだら、確実に肩はぶつかる、お湯はかかる、と想像する。壁に沿って普通のカランも並んでいたが、せっかくなのでこの六角カランを使う。銭湯最盛期には、壁のカランだけじゃ足りなくて、この六角カランをつけたのだろうか。知らない人同士が六辺にきっちり座り、体を洗う様を一度でいいから見てみたい。今日は空いているので、ひとり寂しく六辺中の一辺を占拠して体を洗う。東京銭湯ではなく、どこか地方の銭湯に来たような錯覚を覚える。それぐらいこの桃仙浴場は、東京にあるどの銭湯とも違う。お母さんと小さな子どもの二人連れ。幼稚園で習ったのか、振り付けつきで子どもが歌う。「一人の小さな手 何も出来ないけど それでも みんなの手と手を合わせれば 何か出来る 何か出来る」嫌いな歌なのに、こんな場所で聞くと、やけに心に沁みるのが嫌。湯から上がり、手拭いで体を拭く。足の甲を見て、ぎょっ、とする。黄色い。すわ黄疸か、と立ちくらみしそうになりながらよく見ると、黄色がまだらだ。手拭いでこすると落ちる。どうやら鉄鉱泉茶色が肌に付着しただけらしい。最後までやってくれるわ、と黄色いに染まった手拭いを握り締める。東京の普通の銭湯に飽きた方へ。ぜひ一度は行ってみて欲しい。
桃仙浴場