m.r.factory

2009-08-01

[]ひとりごと

仕事の絵。描き終わったら青山に行ける、描き終わらなかったら青山には行けない。夕方まで粘り、結局描けずにうなだれる。青山で開催されている古本海ねこさんの限定ショップが今日の夕方までだった。こんな日は、いつもよりも時計の針の進みがはやい。

うなだれたまま、夜、銭湯へ行く。池袋と大塚の間、山手線を越える陸橋を渡り、右側の路地を入ってすぐ。入り口横の積まれた材木の山の向こうに銭湯千代田湯」はある。高く伸びた煙突からは煙が出ているのが見える。薪で焚く銭湯が減った今、こんな当たり前の光景さえも、珍しいなと思ってしまう。のれんをくぐって右手が女湯。下足箱にサンダルを放り込み、女湯の戸を開ける。男湯と女湯の真中には昔ながらの番台があり、見上げれば黒光りしている格天井があり、縁側には出られないものの庭らしき跡もある。よくある、よくあった、昔ながらの銭湯だ。ロッカーの端には、4人分のベビーベッド。ベッドの下は常連用か、小さな鍵つきロッカーになっている。ガラスの引き戸を開け、洗い場に入る。正面の壁は、松の木をのせた小さな島々が浮かぶどこかの海のペンキ絵で、松島に見えなくもないがよくわからない。仕切りの壁の向こうには富士山の頭がちらりと見える。ペンキ絵の下の湯船は、大きく浅くと、小さく深くの、2つある。湯はどちらもバスクリンの黄緑色をしている。水色に塗られた壁と天井は一面にカビが生え、黒くすすけて見える。

妙な音が聞こえる。音のする方を見ると、カランにしがみ付くようにして体を洗うおばあさんがいる。そのおばあさんの口から、息をするたび、平仮名に置き換えられない不思議な音が漏れている。どこかから、常連さんの声が飛ぶ。うるさいよNさん。聞こえているのかいないのか、ゆっくりと体を洗い、ゆっくりと洗い場を出て行く。脱衣所へのガラス戸を、番台から降りてきた女将さんが開けてやっているのが見える。あーやだやだ、年を取ってもあぁはなりたくないよ、自分のことは自分でしたい、他人になんかしてもらいたくない。さっきと同じ大きな声が、洗い場に響く。声のする方を見ると、さらに小さなおばあさんが、洗い場にぺたりと腰をおろし、2本の足を前に投げ出して、そこに覆い被さるように丸い背中をさらに丸めている。張りのある声と、その見た目との差が数十歳ほど離れている。ももたろさーん、ももさん、ももちゃん、と今度はそのおばあさんのヤケクソ気味の独り言が続く。

大塚まで歩く。中華屋で生ビールを頼む。横のテーブルの若い男が、ひとり、小さな声で何かつぶやいている。今日はそんな1日だった。

千代田湯