m.r.factory

2009-10-18

[][]鎌倉

湘南新宿ラインに乗り、池袋から鎌倉まで、約1時間の電車の旅。半分寝ているうちに鎌倉に着く。日曜日に鎌倉に来たことはあったかなかったか。小町通りの、原宿竹下通り並みの人込みを見て、怖気づく。どこを見ても、しらす丼、の看板が目に入る。鎌倉の名物がしらすだとは知ってはいたが、鎌倉周辺の茶色い海と、透明の美しいしらすが、頭の中で結びつかない。有名な飲食店の前には行列があり、鎌倉に来た時は必ず行く蕎麦屋の前にも行列がある。並ぶのも馬鹿らしく、適当な回転寿司屋で腹を満たす。若宮大路をまっすぐ海に向かって歩いていく。正面に見える海が、眩しすぎて直視できない。

若宮大路で暴走族を見る。これが本物の湘爆か、とうれしくなる。がよく見れば、年齢層は高く、車線も信号も速度もきちんと守り、バイクは改造されているものの、なんとなく礼儀正しい。暴走族というよりは改造バイク同好の士か。マフラーから出る大きな音だけが、一昔前の暴走族の名残のように鳴り響いている。

滑川に架かる橋を渡り、材木座海岸を歩く。砂浜、打ち上げられた昆布、群がる小さな羽虫、カラスの大群、カモメの大群、すべるように海を走るウィンドサーフィン。久しぶりの鎌倉の海だ。靴底から伝わる、砂の感触が懐かしい。材木座海岸から住宅街へ、半分砂に埋まったようなトンネルを抜ける。どの家にも必須のようにサーフィンボードが立てかけてある。しばらく歩き、幼稚園のある十字路を右折。左手に鎌倉唯一の銭湯「清水湯」が見えてくる。

15時開店、の5分ほど前に着く。10人以上のおじいちゃんおばあちゃんたちが、清水湯の前で今か今かと待ちわびている。「清水湯」は、古い木造の、屋根瓦の、昔ながらの銭湯だが、造りがシンプルで懸魚などの飾りもない。15時ちょうどに入り口が開き、開いたぞー、の掛け声とともにおじいちゃんたちが突入していく。「銭湯」と染め抜かれた青い暖簾をくぐり、下足箱に靴を放り込む。左手が女湯。ガラスの引き戸を開けると番台があり、女将さんと小学生くらいの女の子が一緒に店番をしている。入浴料は東京と変わらず450円だ。

脱衣所の天井は高いが、格天井ではない。大きな杉か檜かの1枚板が横に何列もはられている。小さな庭もあるが、池もなく、木が1本生えているくらいで殺伐としている。籐製のベビーベットがひとつ。女湯と男湯の脱衣所の仕切りは低めで、洗い場の仕切りも低め、明かり取りと換気の窓は透明なガラスで、東京銭湯と違う、大らかなところが気持ちいい。洗い場に入る。入ってすぐ目の前に六角島カランがある。この特殊なカランを見るのは確か2度目。1度目は西池袋の桃仙浴場だったはず。鏡もなくシャワーもなく、直径50cmくらいの六角形の辺すべてにカランが付いているだけという、向いあって6人全員が体を洗ったらどうなるのだ、という不思議なカラン。そのカランの向こうに、奥の壁から洗い場の真ん中に突き出すように湯船が伸びている。長方形に伸びた湯船は、手前が泡風呂、奥が広めの普通の湯船。湯船の真ん中に仕切りがあり、そこから広めの湯船に向かってお湯が噴き出している。正面の壁にペンキ絵はないが、銭湯のタイル絵ではお馴染みの、京都・鈴英堂の印と章仙の名が入った、鯉と金魚が描かれたタイルがはまっている。鯉の絵柄は、お客よ来い、に引っ掛けてと聞いたことがあるが、金魚の絵柄は何の意味があるのだろう。洗い場の真ん中に湯船があるので、両脇の壁はすべてカランで埋められている。左手の壁にひとつだけ作られたシャワーブースは、そのシャワーの下になぜか洗濯機がどかんと置かれ、結果使用できなくなっている。おばあちゃんたちにシャワーは不要のものなのか。みんなさっと洗って、さっと浸かって、さっと帰っていく。東京銭湯のように、いつまでもいつまでも入っている人がいないのは何故なのか。体を洗いながらふと床に目を落とすと、足元のタイルは白の六角タイルで、目白台の「月の湯」のものと同じ、いまは作られていない古いタイルだった。

番台には、さっきの小学生の女の子がドリルをしながら女将さんと並んで座っている。挨拶をして表に出る。外でしばらく涼んでいると、湯上りのおじいちゃんに話し掛けられる。どこから来たの、へー池袋東京にも銭湯あるのに、鎌倉はねもうここ1件だけ、あとは大船のほうにしかないの、昔はもっとたくさんあったんだけど、後継ぎがいなくてね、みんなやめちゃって。そうなのだ、スパとか温泉施設はあるけれど、鎌倉銭湯はここ「清水湯」しか今はない。あの番台の女の子が跡を継いでくれれば、と勝手だけれど思わずにはいられない。

由比ヶ浜沿いを長谷に向かって歩いて行く。今度は国道134号を走る、ポケットモンキーの改造バイク同好の士を見る。こういう団体が鎌倉にはいくつもあり、休日ごとに集まり走りまわっているのだろうか。訪ねてみたかった御霊神社そばの手ぬぐい屋は、イベントに参加しているためお休み、の張り紙。仕方なく、すぐ近くの江ノ電の踏み切りを超えて御霊神社にお参りをする。時たま3両編成の江ノ電神社の鳥居のすぐ目の前を通過していく。都電よりももっと身近に感じられるのは、電車までの距離が近いからか、住宅街の中をすり抜けるようにして走っていくからか。さっきまで海にいたのに、御霊神社の後ろはすぐ山だ。海沿いと山沿いの町の顔、昔からの住宅街の顔と派手な観光地の顔、歩いて行ける小さな範囲の中で、そのどちらも楽しめるのが鎌倉の面白いところだ。

吉屋信子記念館そばの、沼田元気さんのお店「コケーシカ」を覗く。静かな住宅街の中に小さな白いお店はあった。棚にはこけしとマトリョーシカがびっしりと並ぶ。こけしは10センチから20センチくらいの、サイズも値段も手頃で買いやすいものが多い。びっしりとあるのだが、飾り方見せ方がうまいからか、ゆったりと見ることができる。壁に掛かる鳩時計が、文字通りチクタクと時を刻む音をさせている。本来のこけし、マトリョーシカのほかに、こけしボールペンやこけしバッジなどのグッズも売られている。その中で、谷内六郎の、女の子がこけしをおんぶしながら歩く絵柄の手ぬぐいを買う。ロシアの少女のような衣装をきた店員さんが、丁寧に包んでくれた包装紙には小さなこけしがシールで留められぶら下がっていた。

鎌倉駅前まで歩き、昼間食べそこなった蕎麦屋に入る。ビールと出し巻き卵、焼酎蕎麦湯割りと塩豆、しめは大根の辛み蕎麦を食べる。つゆに蕎麦湯を入れて、最後まで飲み干す。心も体も、お腹いっぱいだ。