りつこの読書と落語メモ

読んだ本と行った落語のメモ

遠い山なみの光

遠い山なみの光 (ハヤカワepi文庫)

遠い山なみの光 (ハヤカワepi文庫)

★★★★★

故国を去り英国に住む悦子は、娘の自殺に直面し、喪失感の中で自らの来し方に想いを馳せる。戦後まもない長崎で、悦子はある母娘に出会った。あてにならぬ男に未来を託そうとする母親と、不気味な幻影に怯える娘は、悦子の不安をかきたてた。だが、あの頃は誰もが傷つき、何とか立ち上がろうと懸命だったのだ。淡く微かな光を求めて生きる人々の姿を端正に描くデビュー作。王立文学協会賞受賞作。

これは読み手を選ぶ小説だなぁ…。
私自身、ストーリーの面白さを求めている時期に読んだらおそらく「なんじゃこりゃ?」という感想だったかもしれない。
もっと若いときだったら「辛気臭い小説」と思ったかもしれない。

でも今はこの女たちのゆらゆらした会話からじわっと浮かび上がってくる、彼女たちが必死に守りたかったものとか、手のひらからこぼれ落ちていったものとか、結局最後は一人ぼっちになる感じとかが、じわじわとしみこんできて、「ああ、いい小説を読んだなぁ」と思う。

圧倒的なストーリーで現実を忘れさせてくれるような小説が大好きだけど、 こういうひたひたじわじわと染み入ってくるような小説もいいなぁ…。 それにしてもこれがデビュー作とは…渋いわ…。