りつこの読書と落語メモ

読んだ本と行った落語のメモ

まひるの散歩

まひるの散歩 (新潮文庫)

まひるの散歩 (新潮文庫)

★★★★

ある日には他人のごはんブログに夢中になり、ハイレベルなお呼ばれ料理に驚いたりへこんだり。またある日には、果物大好きと言えない理由にはたと気付き、妻の料理自慢をする夫の心のうちに思いをはせる。つくって、食べて、考える。『よなかの散歩』に続き、小説家カクタさんが、毎日きちんとごはんの時間がやってくるうれしさをつづる、食の味わいエッセイ第2弾。写メも満載!

角田さんのエッセイはいつでも安定の面白さ。
面白いけどあざとくないからいつ読んでも素直にふふふと笑える。
そして時々笑ってしまうほど自分と似たところがあって(せっかち、捨てられない、買える上限の金額がやけに庶民、行き当たりばったり…)友だちになりたくなってしまうんだなぁ。 楽しい。

人間の絆

人間の絆 上巻 (新潮文庫 モ 5-11)

人間の絆 上巻 (新潮文庫 モ 5-11)

人間の絆 下巻 (新潮文庫)

人間の絆 下巻 (新潮文庫)

★★★★★

自分は読者を楽しませる一介のストーリー・テラーだと言って憚らなかったモームが、唯一自分自身のために書いた精神的半自伝小説。不自由な足ゆえに劣等感に苛まれ続けるフィリップに、自らの精神形成を託して描いた人生遍歴の物語。

自分と重ね合わせもするし、母の気持ちになってハラハラドキドキもするし…感情を揺さぶられながら、楽しく読んだ。
最後まで読んで一緒に長い旅をしたような満足感でいっぱいだ。

学生時代に読んだときはまったく好きになれなかった主人公のフィリップが今こうして読むと愛しくてならない。
幼くして両親を失い、足に障害があるせいで苛めにあい、友だちを欲しているのに得ることができず、間違った恋をしてただただ傷つけられ、自分の進むべき方向に常に迷い、挫折と失望の連続の人生。
特にミルフレッドとのどこまでも傷つけられるだけの恋愛は読んでいて辛くて「だめだめ!」と歯がゆい気持ちでいっぱいになりながら読んだのだけれど、傷つけられても傷つけられても寄り添わずにいられないフィリップの姿に、正しい相手を選べないことは不幸だけど、それでもその中から彼が得たものもあるのだ、と最後はなんだかそれすら肯定したい気持ちに。

「人生は無意味だ」。
フィリップが悟りを得るその場面は胸を突く。きっとこれがモームの書きたかったことなのだろう。
人間の愚かさも善良さも全て描かれている。素晴らしい作品。