(180)世界を変えるドイツのエネルギー転換(7)・・市民主役の太陽光ルネッサンス開花


ディンゴルフィング・ランダウ郡の地方駅屋根に設置された太陽光パネル

私が市民の設立した南ドイツのシェーナウ(山岳の小さの都市)の市民電力会社を訪れた頃は(注1)、シェーナウさえ太陽光発電は小学校と坂の上の教会に見られるだけで、実際は省エネ運動や天然ガスの小型コージェネレーション発電の普及に努め、家庭には東欧の水力発電などのエコ電力を購入し配電していた。
それは、シェーナウの市民電力会社が原発電力を含まない電力を供給する市民の脱原発運動でもあったからだ。
しかし現在ドイツで起きている太陽光ルネッサンスは、下に載せた動画『太陽光ルネッサンス』(ZDFフィルム『電気料金のトリック』の一部)で見るように、市民の家々の屋根に太陽光パネルが輝くだけでなく、市民の太陽光発電への投資が地域を活性化させ、まさに太陽光ルネッサンスを開花させている。

このような驚くべき変化は、2011年福島原発事故後ドイツが脱原発を選択した時さえ予想できないものであり、当時既に原発電力や石炭火力発電をコストで凌ぐ世界一安い風力発電が洋上にも次々と建設され、圧倒的な力強さでドイツのエネルギー転換を牽引していくものと思われていた。
しかし昨年から明らかになってきたことは、洋上風力発電は既に述べたように予想と異なり、余りにも費用がかかりブレーキがかかって来たことである。
また陸上風力発電は確かに原発電力や石炭火力発電よりドイツでは電力コストが安く、それが前回述べた北ドイツでの驚異的再生可能エネルギー挑戦の原動力となっている。
しかし電力コストが安いからと言って、たとえ静音であるとしても現在は100メートル近くも高さがある陸上風力発電を都市近郊の工場内に建設すること自体、様々な理由からそぐわないことは明白である。
やはり陸上風力発電は強風北ドイツの広大な農地に、牛や羊が放牧されるなかで地域内及び近郊都市への電力供給に徹することが最善であり、新たな電力網増設でドイツ内陸への輸送計画も見直されつつある。
それは太陽光パネル設置費用が、2011年の1キロワットあたり2422ユーロから2013年には1700ユーロにまで下がり、最早再生可能エネルギー法の全量買取制度なくしても太陽光発電ルネッサンスが開花し始めたからである。
すなわち1キロワットの設置容量は1000時間の日照時間として1000キロワット・年、10年間費用回収で計算すれば、1キロワット・時0,17ユーロ(17セント)となり、20年間費用回収であれば8,5セントとなり、市民が2013年現在電力会社から購入する平均電気料金は28,5セントまで上昇していることから、市民の誰もが自宅屋根に太陽光パネル設置を望んでいる。
また企業もそのような動向を受けてZDFフィルムで見るように、自社工場の屋根に太陽光パネル設置の取り組みを加速している。

そのような太陽光ルネッサンス開花はバイエルン州では顕著であり、9つのクライス(郡)からなる人口119万7631人のニーダーバイエルは、消費電力の42パーセントを再生可能エネルギーで自給しており、そのうち64パーセントが太陽光発電の自給である。
すなわちニーーダーバイエルンの年間消費電力は886万2469メガワットであり、自給再生可能エネルギーは373万8688メガワットで、その内訳は太陽光発電237万7813メガワット、バイオ発電93万2537メガワット、風力発電41万5786メガワットである(注2)。
特にニーダーバイエルンディンゴールフィング・ランダウ郡では既に消費電力の86パーセントが再生可能エネルギーから自給されており、そこでは会員数46万人を超えるドイツ自然保護団体ブント支部が中心となり、講演会「それでもエネルギー転換は正しい」などを開催し、市民の啓蒙に努めている(注3)。
すなわち太陽光ルネッサンスは、市民主役で推進されていると言っても過言ではない。

動画『太陽光ルネッサンス

私自身もフランケン地方を探索したことがあるが、都市近郊はビオ農家が多く、市民の環境保護活動も活発であった。それは、この地方の大地1メートル程下が粘土層に覆われていることに関与し、長所としてはコイの養殖に利用されているが、短所として化学肥料や農薬が地下に浸透しないことから、70年代には飲料水を汚染し、森を枯らしたことに由来している。


(注1)この際の訪問が切掛となり、2002年7月には市民電力会社創設者のミハエル・スラーデック博士と奧さんの市民電力会社代表ウーズラ・スラデックさんが来日し、私自身が日独エネルギー問題市民交流フォーラムを立ち上げ、東京から広島まで脱原発及び核のない未来を掲げて14日間講演会などで一緒したことを思い出す。

(注2)エネルギーマップ http://www.energymap.info/energieregionen/DE/105/111/165.html 

(注3)ドイツ自然保護団体ブント・・ディンゴルフィング・ランダウ支部のホームページ
http://www.bndgf.de/energiewende-vor-ort.html