Hatena::ブログ(Diary)

ムイカリエンテ への道

2015/06/17 (Wed) 『田園発 港行き自転車』の旅 富山編

[][]旧北陸街道を歩く(1) 旧北陸街道を歩く(1)を含むブックマーク

釣り人が振った竿から、錘が糸を引きながら、光る海の方に消えていった。

雨の予報ははずれて、午前6時の太陽は既に海の上に昇っていた。

立山連峰の稜線は、青く霞んでいた。

f:id:mui_caliente:20150618062729j:image

f:id:mui_caliente:20150618071137j:image

魚津の客先との打ち合わせは午後からだったので

午前中、旧北陸街道を歩くことにした。

4月に刊行された『田園発 港行き自転車』を読んでから

ずっと、この街道を歩きたい想いに駆られてきたのだ。

田園発 港行き自転車 (上)

田園発 港行き自転車 (上)

田園発 港行き自転車 (下)

田園発 港行き自転車 (下)

登場人物たちが、様々な想いを抱きながら歩いた幸福へと繋がっていたこの道を

自分の足で歩きたい…

そう願ってきた。


旅は、一人寂しく歩くもの.... 

18歳で初めて一人旅をしてから、その想いは変わっていない。



魚津まで行ってみたかったが、ゆっくり歩きたかったので、今日は滑川まで…

11km 約2時間の行程

岩瀬の宿場町は以前に見たので飛ばして、

路面電車の終点、岩瀬浜駅から街道を歩き始めた。

車道に沿って歩くのはつまらないので、右折れ左に折れながら、

浜辺を歩き、防風林を歩き、田んぼのあぜ道を歩き、住宅地のなかを歩いた。

f:id:mui_caliente:20150618060521j:image

f:id:mui_caliente:20150618075354j:image

f:id:mui_caliente:20150618083419j:image

f:id:mui_caliente:20150618070008j:image

小説のなかで、黒部川の川べりにはゴミひとつも落ちていないと書いてあったが

このあたりも、どこを歩いてもゴミは落ちていなかった。

f:id:mui_caliente:20150618080518j:image

常願寺川を渡り、水橋のパン屋で道を聞こうと思って朝食のパンをひとつ買い

レジのおばさんと話していると、店の壁に41歳のときにリストラになった会社

社会人野球チームのポスターが貼ってあって、はっとした。

工場がこの近くだったことに気がついたのだ。

会社を放り出されてから悪戦苦闘ばかりの12年...長かったな...

パン屋を出て、今来た道を振り返ってみたら、歩いてきた12年がその先に連なっている気がして

慌てて目をそらした。


そこから滑川にかけては、旧家が目立つようになり、

旧街道沿いの細い道を、ゆっくりと歩いた。

なめりかわ宿場回廊 という名前のとおり、まるで回廊のようないりくんだ道を、歩き回った。

f:id:mui_caliente:20150618083756j:image

f:id:mui_caliente:20150618094422j:image

f:id:mui_caliente:20150618091147j:image

f:id:mui_caliente:20150618091218j:image

f:id:mui_caliente:20150618092057j:image

f:id:mui_caliente:20150618093244j:image

f:id:mui_caliente:20150618093403j:image

f:id:mui_caliente:20150618084732j:image

融雪パイプの錆で赤銅色に染まった道路...高い防波堤の際まで立ち並ぶ家々

その家の脇の細い路地をあがって防波堤上り、青い海を見渡す。

静かな海だった。


発刊したばかりの小説の内容をここに書くことは控えるが

どんな苦悩も、人は幸福へと転換していけるという

宮本文学の底に流れる信念が、祈りが、この作品にも滔々と流れている。

賀川直樹が海歩子が祐樹が千春が生き、そこに縁した善き人々が交錯した街の上には

しずかな青い空が広がっていた。


空を見上げながら、さっき振り返った道の寂しさを思う。

決して二度と振り返ることのできなかった情景を...

そうか... 12年の苦しい思いをここに捨てにきたのだ。

もういいではないか 

この道は、ずっと先までのびている。


時計を見ると、岩瀬を出発してから時間も経っていた。

一休みして仕事にいくにはちょうど良い。


そう思って、滑川駅まで歩き、電車に乗った。

また、ここに来よう

滑川から魚津までの道をまた歩くのだ。

できれば雪の降る日に

都忘れ都忘れ 2015/07/05 08:18 ムイカリエンテさま

『田園発港行き自転車』
この物語の中に出てくる本当の道を自分の脚で歩きたい。
読まれた方は、みんなそう思うでしょう。
そこを晴れた青空の下で実際に歩かれたのですね。
なんて幸せだったのでしょう。
そしてどんなにか幸福な気持ちになられたのでしょう。
私もその日にそこにいたような錯覚さえ感じました。
それは貴方の文章がとても優しく、それでいてさりげなく惹きつけて離さない魅力があるからですね。

宮本輝さんは、小説の最後は川の水が大海に流れ込むごとく、自然な形で終わりたい…という意味のことを書かれていた記憶があります。
では最初の一言に続く文章は?と考えますと…
あくまで想像ですが…きっと題名を考えられている時と同じくらい心血を注がれているように思います。
『錦繍』が物語っていますよね。

どなたかもFBでコメントされていましたが、貴方のブログも、その最初の一滴がいつも心に沁み込んでくるのです。
それは遠くの釣り人の糸が、きらめく海に消えてゆく描写でした。
いつも思うのですが…
カメラを持たれ、そして目はカメラのレンズの奥のご自身の心を捉えておられるのだと…

宮本輝さんの短編に『駅』がありますが、この中の人物は昔の自分の過ちを『駅』に捨てようと思って最後の別れをするために『駅』に来ます。
私は「自分の過去を葬る場所などどこにもない」と読後感に書きました。
ですが…
それは自ら犯した過ちや罪の事で、宿命や思いがけない災難やどうしょうもない運命に翻弄された過去の自分…
そこから、それを払いのけ、「新しい自分を生きるための大切な場所」
というのはあるのです。
『ここに地終わり 海始まる』もそうでしたね。

貴方の「もういいではないか」の一言が、そこに苦しみを捨てられ、未来への一歩をこの道で決意されたように感じました。
そして、とても嬉しくなりました。

いつも、ありがとうございます。

ムイカリエンテムイカリエンテ 2015/07/11 06:46 ♪都忘れさま
天気予報は雨...または曇りでした。
このところ、大事なときに雨ばかりだったので、雨男と呼ばれたりして...
今回も諦めておりました。
しかし、朝起きて...なんという晴天
こんな晴れやかな富山を見たのは、40回近い訪問のなかで1回か2回くらいしか記憶にありません。
最初は、小説の舞台を訪ねるというくらいの軽い気持ちでしたが
歩いているうちに、様々なことを回想し、そして思索したのです。
そして「もういいではないか」という気持ちが不意に浮かんだのです。
『駅』...たしかにそうでしたね。
都忘れさんの読後感を読むまでは、そういうふうに捉えることもできませんでした。
そして、あの道を歩いて、過去を葬ることも必要なのだと、改めて思いました
目の前の一歩から、歩き始めなければ...
ありがとうございます。

トラックバック - http://d.hatena.ne.jp/mui_caliente/20150617