エスキモーが氷を買うとき

書名にひかれて読んだが、いい本。

エスキモーが氷を買うとき―奇跡のマーケティング

エスキモーが氷を買うとき―奇跡のマーケティング

副題が「奇跡のマーケティング」とダサいのは、きこ書房だから仕方がない。主題も『エスキモーに氷を売る』の続きですよと知らせるためなんだろうけど、わたしは前作を知らないので書架でどっちから先に読んでいいのか分からなかった。主題を「常識はずれのマーケティング」にして、副題を「エスキモーが氷を買うとき」にすればよかったのに。

著者ジョン・スポールストラはアメリカのプロバスケットチームで、観客動員数リーグ最下位のニュージャージー・ネッツの売上を500%と劇的に押しあげたコンサルタントで、ネッツの前後にも多数のチームの経済状況を改善している。そのアイディアは本書でもいくつか紹介されている。

  • 著者は少年時代、新聞配達のアルバイトをしていた。担当エリアの半数は新聞を取っていなかったので、新聞の代わりに「私の自己負担で1週間分の新聞をお届けするので講読を検討したい方は同封の回答用紙をドアノブにかけておいてください」という手紙を投函すると、3ヶ月後にはほぼすべてが購読者になった。配達にかかる時間はほとんど変わらなかった。
  • バッファローブレーブスマーケティング担当副社長のとき、チームは地元ファンからも見放されていたが、前年に亡くなったエルビス・プレスリーのそっくりさんを呼んで追悼イベントを企画し、アリーナを満員にした。
  • ポートランド・トレイルブレイザーズの副社長を務めていたとき、NBAの各チームは試合の放送権をラジオ局に売って利益を得ていたが、トレイルブレイザーズは反対にラジオ番組の放送枠をそっくり買い取り、自分でコマーシャル枠を売った。パートナーのバーガービルは地元に15店舗を展開する小さなチェーンだったが、セットメニューの注文ごとに選手のポスターを1枚づつ配るというタイアップ企画により売上アップ、店舗も増やした。チームはそれまでラジオ放送権を5万ドルで売っていたが、自社でコマーシャル枠を売ることにより90万ドルの売上を得た。
  • ニュージャージー・ネッツはスター選手がいなかったので、対戦チームのマイケル・ジョーダンマジック・ジョンソンを売り物にしたパッケージチケットを発行した。週末のつまらないカードではハンバーガーチェーンと合同で家族向けチケットを販売した。その他アリーナ周辺では楽しい演出を実施した。観客動員数はリーグ最下位から12位に上がった。
  • NBAの各チームは『フープ』という雑誌にプログラム作成を許諾して毎年数万ドルのライセンス料をもらっていた。ネッツは『フープ』誌との契約を更新せず、自社でプログラムを作成してファンに無料で配った。プログラムの露出が35倍になったため広告枠をすべて売り切り、数十万ドルの利益になった。
  • 起業家向けの雑誌『サクセス』の購読料は年間20ドルであったが、年間購読と店頭売りの売上高は全体の20%に過ぎず、赤字に苦しんでいた。購読者に手紙を送り、新たに開発した高級誌『サクセスリンク』を年間229ドルで勧めた。購読者のうち10%が応募し、1人あたり100ドルの利益を挙げた。
  • ホッケーリーグの強豪エドモントン・オイラーズはスター選手を手放したあと財政が傾いていたが、販売スタッフを2人から15人に増員して電話営業をさせる回数を増やし、年間指定席を買いやすくするため共同購入者は年間一括払いでなくてもよいとした。年間指定席の販売数は5500枚から13000枚に増え、その結果リーグからの援助金数百万ドルを得られた。

などなど。

このほか、それらのアイディアを実践するにあたり必要な心がけが多数提示されている。

この本を読むとやはり、元手がなくてもやりようはいくらでもあるのに固定観念が邪魔をして実行できない、というケースがよく見られるようだ。正直にいって、ここで紹介されているアイディアが「常識はずれ」(Outrageously)だとはあまり思えなかった。しかし、どんなに合理的な考えであっても実現をさまたげようとするさまざまな現実的な抵抗があって、著者はそれを「常識」と呼んでいるようだ。この本では、そういった常識主義者に対抗する方法もすこし書かれている。

前作『エスキモーに氷を売る』もあとで読む。