通勤のかばんに、本を忘れた。朝の通勤の電車の中で気がついて、そわそわしていけない。お昼を食べたあとの、節電で薄暗い照明のなか、読むべき本をもたずに時間をもてあます自分の姿を想像したら、やりきれなくて、乗り換えの駅の本屋にとびこんだ。ありがたいことに朝の八時には開店していた。文庫本の棚のまえで読みたいような本をさがしてみるが、品揃えにときめきがなく、本がこんなにあるのに読みたい本がないときの世界から忘れられた感じ、読書難民を覚悟しかけたところで、砂漠に一輪の花でもないが、川上未映子の名前をみつけて、すがるようにレジにもってって、ピピッとやってもらった。文春文庫の新品の、つるつるした触感が久しぶりで、指先がよろこぶ。ふと、川上未映子を花にたとえたらなんじゃいなと思って、ラフレシアをひらめいて、もうラフレシア以外かんがえられないが、川上未映子は死臭ではなくいいにおいがするんだと思いたい。
- 作者: 川上未映子
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2012/05/10
- メディア: 文庫
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言葉には決してできないこの感じのすべてを他者と分かち合いたいという、夢とあきらめが同時にあるような切実からいつだって何かが生まれて、生き延び、それで呼吸をくりかえす。
梅雨の到来とときを同じくして乗り換え駅の本屋はエロエロフェアなるものをはじめて、黒の台紙に赤でくねくねとエロの文字が踊る、エロサスにエロミス、とコーナーを切ってあるのだが、そこそこに大きな駅でひと通りもあるものだから、みな、人目を気にするせいだろう、そのコーナーに立ち止まる人を見たことがない。でも、ひそかに気になって、いつもちらちら視線を送ってしまう。