37度と5度の世界

彼女は体温が低い。
体温計で計ると大抵35度台後半で、風邪をひくとやっと36度になる。
僕は体温が高い。
大抵37度前半をたたき出すので、風邪をひけばもちろん38度を簡単にこえる。
彼女は寒がりで、僕は熱がり。
体温差を考えれば当然のことだ。
夏、エアコンをつけるかつけないかで食い違い、春こたつをしまうかしまわないかで争いになる。
彼女はほとんど汗をかかない。
部屋の中にじっとしていれば、真夏でも汗をかくことはない。
対して僕は冬以外のほとんどのあいだ汗を掻き続けている。
真冬でも少し厚着をしたり、少し体を動かせば汗はつき物のようについてくる。
彼女は厚着しても、厚めの布団をかけていてもそれでも尚寒いままである。
彼女が先に入っていた布団に僕が入れば、布団そのままの冷たさに毎度驚くことになる。
彼女が先に布団に入っていても僕にとっては冷たいまま、彼女には発熱するという機能がついていないのだ。
僕にとって人に発熱コマンドは標準装備だと思っていたのに、彼女には全くその機能がない。
寒い日、いくら厚着をしても温かくなってきた、という感覚は彼女にはない。
それ以上下がらないというだけで、空気やお湯や、温かいそれ自体が熱を持つものに触れて、その熱を奪うことでやっと彼女は温かいを手に入れることになる。
彼女にとって、常に発熱し続ける僕という存在は格好の獲物で、夏以外の季節彼女の足は僕に押し付けられ続けることになる。
汗ばむことのない彼女の足は、常に冷たく乾燥している。
かさかさとした彼女の足に、人の肌と触れ合っているという密着した感覚はない。
彼女は特に足の甲のひえがつらいといって、僕の体のありとあらゆる曲線に足の甲を合わせる。
彼女の足はいつも必ず左右一緒に重なっていて、ひとつづつ存在するということはない、
毎晩ベットの中で、彼女は僕から熱を得る。
僕は彼女に熱を与える。
彼女が必要としていようといまいと、僕は際限なく一定の熱を放出し続ける。
一人であれば行き所のない熱が彼女に吸収されて彼女に保温されて、彼女の血を運ぶのを手伝い彼女が呼吸するのを手伝う。