最後の息子  吉田修一

第84回文学界新人賞 吉田修一 最後の息子

新宿を舞台にゲイのカップルの生活が描かれた作品。所謂ゲイの店が軒を連ねる新宿の界隈で店を開き、人気を集める閻魔というゲイのヒモとなって生活を送る主人公だが、以前は女性の彼女がいた。しかし、今では閻魔との感情をむき出しにしてある時には暴力を振るうような蛮行に出ながらも癒される日々を送っている。この作品の目新しいところはゲイが云々というより、主人公がビデオカメラを回していて、記録した映像を見ながら振り返るという設定だろう。映像という記録媒体を文字で置き換えるという手法は文章に三次元的な深みを与えている。確かに、これが映画のシナリオだったらウォン・カーウァイの「恋する惑星」まんまで、何も目新しさはないのだが小説だというのがミソだろう。村上春樹ウォン・カーウァイといった20世紀のアメリカ文化にもろに影響を受け、大資本主義という枠の中で与えられた自由に翻弄される若者の若者らしさに焦点をあてた作家に影響を受けた次世代の作家といったところだろうか。次世代ということもあって、貧乏臭さが抜けたところが新しいが主人公はやはり優男で無力な人間。無力というのは誰にも影響を与えないという意味においてのことである。それは、大企業と一消費者との関係にも似ているのかもしれない。


by文芸誌ムセイオン

http://eizou.web.infoseek.co.jp/muse1.html