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DJホームラン

120411

田我流の『B級映画のように2』を聴いた


山梨県のヒップホップクルーstillichimiya所属のMC田我流。今作は彼の2枚目のソロアルバムにあたる。僕は、田我流の前作や、stillichimiyaとしての音源は聴いていないのだけれど、彼が「山梨県でくすぶりながら活路を見いだせずにもがいているラッパー」という、観客が演者本人と重ね合わさずにはいられない微妙な役柄を見事に演じた映画「サウダーヂ」を観て*1、その佇まいや存在感が強く印象に残っていたので、今回の新譜をiTMSで購入して聴いてみた。


いわゆるコンセプトアルバムだ。聴いていてまず連想したのはデヴィッド・ボウイの『ジギー・スターダスト』。あのアルバムのように全体を一貫したストーリーが強固に貫いている。ボウイが創造した架空のスーパースターが主人公である『ジギー』に対して、こちらは田我流自身が主人公なのだけれど。


アルバムの冒頭こそ、映画『ダークナイト』の台詞をサンプリングしながら、トリックスターのジョーカーを気取りつつドープなアジテーションをハイテンションで展開する「パニックゲーム」で幕を開けるが、そこから一旦まさかの展開を挟んだ後、田我流の表現は生々しくてリアルな方向へと展開していく。ディープかつパーソナルな内面吐露の沼の中へとどんどん潜行していく。聴いていて痛いし息苦しい。でも、耳が離せない。「そして、そこからどうなるの?」とライムの続きが気になって仕方無い。


田我流のライムは耳を捉えて離さない。その理由としてまず特筆すべきは歌詞カードを読まずとも何を言っているのかがはっきりと聴き取れる明瞭さだ。伝えたいメッセージを聴衆の耳に届かせるための言葉の選び方の的確さ、そして卓越したフロウのスキルが、田我流の表現の明瞭さを支えているんだと思う。


「フロウのスキル」という言い方をしたけれど、田我流のスキル特性は、例えば「口の動きがめちゃくちゃ早い」とか「とんでもないタイミングでリズムをあわせてくる」といった分かりやすい類のものとは少し違う。「演技力の高さ」が彼の一番のスキルだと思う。


語弊が有る言い方になるかも知れないけれど、田我流は演技力が高い。『サウダーヂ』における田我流の演技力も掛け値無しに素晴らしかったけれど、本作『B級映画のように2』でも、まるで良質な一人芝居のように、言葉をリアルな感情をガンガンに込めながらマイクにぶつけてくる。

そこには、切迫感とリアルが有る。

地方都市の共同体の中で生きる若者としての切迫感とリアルが有る。

だから、僕はこのアルバムにおける田我流を、どうしても『サウダーヂ』で彼が演じたラッパー天野とダブらせずにはいられなかったし、ダブらせて聴いたからこそグッとくる部分も有ったんだと思う。あの映画に出ていたラッパーが、もう少しだけマシな仲間に恵まれて、メリージョイからリリースできた。そんな幸福なパラレルワールドから届けられたアルバムのようにすら思えてしまうのだ。


泥臭くて、愚直で、時に胸を締め付けるような抒情を迸らせ、時には原発問題などに対する烈しい怒りを表明しながら、田我流は全13曲の物語を矢継ぎ早に紡いでいく。生活を通して育まれた怒り、哀しみ、迷いがダイレクトにぶつけられていく。表現の背景に、田我流の普段の生活風景が生々しく感じられる。この生々しさこそが正にヒップホップを聴く醍醐味だと思いながら、僕はゾクゾクしながら耳を傾け続けた。田我流の世界に没頭した。


そんなズブズブと深い内面への潜行を経て、12曲目「あの鐘を鳴らすのは、、俺」で本作はクライマックスを迎える。ここに至るまでの苦悩や混沌を全て受け止めて、それでも田我流は立ち上がり、「ヒップホップには栄光が似合う!」と希望を叫ぶ。とにかく生き続ける事の希望と覚悟を力強く歌う。「あの鐘を鳴らすのは、俺だ」。そう歌う田我流の声を聴いていて鳥肌が止まらなかった。恐らく、この曲だけを単体で聴いてもそこまで感動はしないと思う。ここに至るまでの魂の地獄巡りを経たからこそ、この曲は深く胸に染み渡ったのだろう。


50分に満たないランニングタイムだが、頭からお尻まで濃密に田我流のエモーションが詰まっていて聴き応えは充分だ。題名では「B級映画」と謳っているけれど、素晴らしく良質な映画を観終えた時にも似た満足感と心地良い疲労感を得られる傑作。


B級映画のように2

B級映画のように2

B0081ZMM5M
AMIDA STUDIO EVISBEATS
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