同じわくわくを共有する

『無名の頃』の中で、祖父江慎氏が
「ブックデザインをするうえで、大事にしていることはなんでしょうか。」
という質問を受けて。
                 
   著者や編集者と一緒に、同じわくわくを共有することですね。
   著者と直接相談できると、微妙な感じも表情とともにこちらに伝わってくる。
   但し、著者によっては、判断力がなくなってしまっていることもあるので
   編集者のビジョンをよく聞いておくことが大切です。
   編集者は内容に惚れこんでいるうえに客観性も持っていますから。
   編集者もデザイナーも内容に敬意なり感動なりを持っていなければ
   関わってはいけないんです。
                         
創造的な仕事で大事なのは、「わくわく」や「感動」。
                     
では、創造的でない仕事、手間賃商売のような仕事では、感動は不要か?
なるべく効率よくムダを省いて、その分安くして顧客に還元するべきか?
安全、安心を宣伝文句にして、差別化すべきか?
                 
答えになるような一文が、同じ本の中の別のインタビューにあった。
平林奈緒美氏、澁谷克彦氏という、資生堂宣伝製作部にいたデザイナーの、
「新入社員の仕事は撮影現場でのお弁当手配」について語ったことばから。

   質問 「おいしい飯のひとつも用意できないやつにデザインはできない」
      っていう格言は、あながち間違いでもなさそうですね。
   澁谷 我々は女性のモデルさんやタレントさんと
      やることがほとんどなんですけれど、そういう方から
      「資生堂の撮影って、ほかと全然違いますね」って言ってもらえたり、
      来るのを楽しみにしてもらえたりすることってすごく大切なんです。
      (慌しいスケジュール変更などがあっても)事前に打ち解けたおかげで、
      結局ものすごくリラックスした表情が撮れたりする。 
      素敵な表情っていうのは、企業にとって何十万円のお金よりも
      価値があるわけです。
      一瞬の表情を得るためには、一流のカメラマンも使うし、お弁当にも凝る。
      そうやってみんなでホスピタリティを尽くすんです。
   平林 食べることってみんな興味があるし、最大の共通の話題ですしね。
                     
お弁当一つとっても、それはホスピタリティの表れ。
「数だけ間違えずに」というだけだとタダのパシリ。
日常の中の一つ一つが、クリエイティブにつながっている。
そう考えると、雑用にも「わくわく」が潜んでいることに気づくかもしれない。