楠田祐 大島由起子『破壊と創造の人事』
周囲の業務との連携が必要になってくる中堅や、
人事業務の一連の流れについて俯瞰・ビジョン形成が必要となるマネジメント層にオススメの本。
- 作者: 楠田祐,大島由起子
- 出版社/メーカー: ディスカヴァー・トゥエンティワン
- 発売日: 2011/06/16
- メディア: 単行本
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第一章で人事の歴史と展望、第二章で浅く広く人事業務全般の方向性について触れていく。
第三章ではグローバル人事、人材ポートフォリオ、コーチングの活用、MBAの意義などのテーマを
やや深く対談形式で考察しているため、人事におけるホットな話題をそうざらい出来る。
個人的には第四章が特にオススメの内容。
中堅が戦略人事として育つ為に何を学べば良いかという良い指針になるのではないかと思う。
一般企業では「直属の上司は俯瞰性に欠け、更に上の上司は時流に疎い」という状況が発生しがちであり、
人事として何を吸収すれば良いかを広い視野で指導してくれる上司はそう居ない。
(本書でいうところの「紺屋の白袴」状態である)
人事としてキャリアを積んでいく上で正しい道を歩めているのか、悶々と悩んでいる人は多いのではないかと思う。
会社任せのキャリアでは先細りの可能性もある。
本書は今後の激しい時流の変化に対応出来る、どんな企業でも通用する人事としてのキャリアを自ら形成していく助けになると思う。
面白かった部分を少しだけ紹介。
■人事にはどのようなスキル・知識が求められているのか?
(1)労働法規の知識
いわゆる労働三法の基礎知識、判例等は知っておいた方がもちろん良い。
人材開発系に居ると必要性を感じないが、労務に異動するととたんに「同僚・上司の共通前提」になってしまう。
「何となく分かってる」「規制があるのを知っている」だけでも武器。
(2)産業心理学の知識
人事は異動や転勤などセンサティブな話題で従業員に接する事が多いので、基礎対応くらいは絶対学んでおくべき。
直接相談にのる事は無くとも、そうした人の扱い方・症状や薬の副作用・復職の際に出やすい症状など把握しておくと職場からの相談に乗りやすい。個別労務問題と密接に絡んでくる事も多い。
また経験から言うと判例を押さえておく事も重要。
職場上司の本人に対するケアが不足していると感じた時など、方向性と根拠を伝える基礎になる。
(3)統計学の知識
余談めいた話になるが、
線がはみ出たり文字が重なったりしている資料同様「何を分析したのか」「何が言いたいのか」が明確でないグラフは
人事というより社会人として幼稚な印象を与え、説得力が無い。
逆にいうと、体裁が美しくデータ分析が意味を持っている資料は大抵ポイントを抑えているというのが私の実感。
見た目じゃない!と言われるかもしれないが、優秀な人ほど偉い人に資料を見せる機会に恵まれており、先輩や上司に資料の作り方を叩き込まれるので「美しい資料を作れる人は優秀」というのは当然の帰結だと考えている。
少なくとも私の周囲はそう。
(4)経営陣との連携
人事の考え方は技術畑のから上がっていった役員の方にはわかりにくい場合も多く、説明が必要な場面も多い。
人事施策の過不足について指摘された場合には、時事ネタ・経営の数字あたりを絡めたりCSR的側面を強調して話すと理解してもらいやすい。
また一般的な事だが、新しく絡む経営層に関しては事前に決裁経験者から情報収集するなどして思考のクセを掴んでおくと上記の方向性が明確になって良い。
この他にも現場との関係、異業種の人事との関係等のトピックが載っていて参考になります。
目次
第一章:バブル崩壊からリーマンショック直前まで、人事部門を巡る環境はどう変化してきたのか?
■1998年という転換期
・バブル崩壊以降にやってきた2つの大きな転換期
・売上至上主義から利益至上主義へ
・アリバイとセレモニーになっていった教育研修
・従業員の「心の問題」の表面化
・新しい「社員の動機付け」の必要性
■2008年という転換期
・経営が株主市場主義へと大きく舵を切る
・人事に求められるものが変わった
・疲弊する現場組織
■2010年代を乗り越えていくために、人事に何が求められているか
・人事に求められる「マーケットイン」の発想
・長期的視野をもって人事戦略を考える第二章:「戦略人事」で成果を挙げていくためのキーワード
■企業の人事部が置かれている状況
・管理部門における人事部の位置づけ
・紺屋の白袴になっていないか
keyword1:教育・人材開
keyword2:コーポレートユニバーシティ(選抜研修)
keyword3:採用
keyword4:グローバル化
keyword5:グループ人事
keyword6:メンタルヘルス
keyword7:多様化推進
keyword8:シェアードサービス/BPO
keyword9:人材データベース/人材マネジメント支援システム
keyword10:PDCA発想
keyword11:事実ベースのマネジメントとバリューチェーン第三章:専門家に聞く これからの人事部に考えて欲しいこと
・グローバル「スピード感をもってグローバルビジネスリーダー」を育てることがグローバル化成功の鍵
・経済「人事を考えるなら、経済・経営・人事の三層構造で考えて欲しい」
・コーチング
・ビジネススクール「ビジネスや仕事の型を学んだ人材を企業で活用する意義とは?」第四章:戦略人事になるために
■戦略人事になるために
・戦略人事はじめの一歩
■戦略人事に求められる人物像
・人事担当者に必要な3つのビジネスリテラシー
・人事担当者に必要な3つの資質
・人事担当者に必要だが掛けている資質
・人事としての「ソーシャルキャピタル」第五章:現場の人事に聞く、今考えなくてはならないトピックス
・対談1:日本企業の女性活躍推進から多様化推進まで先進事例を学ぶ
・対談2:急成長する企業が直面する課題に対して、人事部はどう応えるのか
・対談3:従業員一人一人のちからをのばしてサービスの質を工場させる施策を学ぶ