Mystery Paradise

2017-02-26 【heiji】027 貧乏同心? 長谷川卓「高積見廻り同心御用控シリーズ

間がずいぶんと空いてしまった。その間に、齢をさらにとった分、好みの変化もきたして、書くつもりのメモがたまってたのを、デリートするはめになった。haha

池袋と有楽町の三省堂で、スマフォで在庫を確認できますよ・・・・とレジで教えてもらったけど、本屋に足を運ぶのは欲しいもののためだけではないんだよね。別になくてもいいんで、絶対に読みたければアマゾンで検索かければいいんだしね。読みたいものを探しに行って、それまで視界の外にあったものを見つける楽しみはスマフォやPCからの検索にはないものなんですね。

[]027 長谷川卓「 高積見廻り同心御用控 百まなこ 」「高積見廻り同心御用控 犬目」「戻り舟同心」「戻り舟同心 夕凪」「戻り舟同心 逢魔刻」「戻り舟同心 更待月」

長谷川卓は最近流行りのTV脚本家あがりの時代物作家ではない、ちょっと硬派の作家です。硬派とはつまり、こう設定してこう書けば受けるだろうなという(まあ、職業としての作家なら大なり小なりあるんだけど、TV時代ドラマつくりにかかわってると、「受けねらい」計算が巧になる)計算をあまりやらないでプロットを仕立ててくるという意味。

したがって、けっこう調べぬいて書いているけれど、リアルさにこだわって話を損なうようなこともない。でも、奉行所同心=庶民の味方=金にこだわらない=賄賂はとらない==清貧ごのみ=貧乏同心図式というのをきれいにあっさりと4行でフっ飛ばして見せてるのが「百まなこ」。このシリーズは「百まなこ」「犬目」「目目連」の三部であっさりと完結しているし、最初にブックオフで見つけたときに三冊買わなかったために、一年以上「犬目」が新本屋でも古本屋でも見つからなかった。そのうちに「戻り舟同心」シリーズが出始め、そちらと比較して、なんかつまらなく思えてきて、「目目連」なんかは年末大掃除で捨ててしまった。「百まなこ」は4行の資料分だけの保存価値で手持ちに残していた。

世過ぎの現場が池袋で、その帰りに「じゅんく堂」「三省堂」をのぞけるので毎夕30分ほど、本棚をのぞいてたら、「高積見廻り」シリーズが三冊そろっていた。「犬目」を速攻でゲットしたのはもちろんであるが、しかし・・・・まあ、こっからは一冊ごとの記事で語ろう。

長谷川卓「 高積見廻り同心御用控 百まなこ 」祥伝社文庫 2007年 祥伝社 360円 定価638円+税

一応、筋を書いておこう。探偵役は南町奉行所高積見廻り同心・滝村与兵衛、39歳。組屋敷に母と妻と長男と暮らしている。禄高は同心であるから30俵二人扶持。年番方与力(奉行所のナンバー3で、内与力と奉行は移動するから、移動しない奉行所員としては筆頭の実力者)から、定廻り同心が盗賊の隠れ家に打ち込むのだが、一人だけやっかいな軽業にたけた幹部泥棒がいる。以前にも囲んで逃げられたので、隠れ家周囲の町に詳しい高積見廻りの知恵を貸してくれと頼まれる。アドバイスだけでいいならと気楽に、ここをこう囲んで人をこう配置すれば、ターゲットはこう屋根を逃げるはず。そうして、最後はここに出てくるはずと読んでみせた。これがまさに、三国志の諸葛孔明の戦指揮みたいな名調子なんですね、定廻りの腕っこき同心の占部は出役に付き合えと与兵衛を引っ張り出す。で、その夜、与兵衛の推理通りに展開して、見事全員御用となる。(ここまで立ち読みして、お、これはおもしれえと買ってしまったんです)で、定廻りも奉行所幹部も、こんな腕っこきを半ば行政官みたいな役より、刑事部同心へ引っこ抜こうと、そのテストを兼ねて迷宮入り化しかけている、暗殺人「百まなこ」を調べさせる。極悪の岡っ引きというか目明しを針状の武器で心臓をひと突きして殺して、現場に子どもの玩具の「百まなこ」の面を残していく・・・・始末人みたいな奴。(長谷川が白色テロリストみたいなTVドラマの暗殺人を「人殺しは人殺し」と硬派ぶりを見せてるんですね。)

ま、見事、正体をつきとめて、犯人を法権力のさらし者みたいに処刑させずに、自死の結末にするところが長谷川流。

与兵衛は、定町廻り同心になるのを辞退して、そのまま高積見廻り同心を続けるというのがストーリー。もちろん、チャンバラ、殺陣の新鮮なものも極上の上なんですが、なんといっても、同心は正義の味方の清新な貧乏ぐらしというのを、4行で片付けてしまうのが一番の魅力。

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高積見廻りに限ったことではない。定廻りを筆頭に、それぞれの役目に応じて、それなりの額の付届けが届けられた。同心個人宛に来た付届けはその者のものになったが、奉行所に届けられたものは、蓄えられ、年末に平等に分けられた。何やかやで少ない者でも、二、三百両に達したという。

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つまり、奉行所勤めの同心(南北で240人がいろいろな役でいたわけで与力が50人)の一番年収が少ないものでも200両はあったというわけです。今の金額に直すと1両8万円として1600万円です。現在の警察官の年収が警視クラスで1000万円、全体平均で800万円(宝島社 犯罪捜査ハンドブック)なのだとか。でも、今の警察官の場合は手取りじゃなくて、税金保険年金積立エトセトラに住居費もかかるんだけれど、江戸時代の場合はいっさいかからない。

普通に30俵2人扶持という時、1俵は大体、0.3両。この30俵は0.3両×30=9両=72万円。で2人扶持というのは使用人の食べる分の米代だから、30俵とは別。いくら税保険住宅費がかからぬとは言え、年収72万円で5,6人の家族を食わせるのは大変。ゆえに、同心は貧乏という論理なんですね。しかも、普通の御家人なんかとちがって、出世の可能性がないわけだから、出世のために上役に金を贈るひつようもない。手取り最低で1600万円あったら、ましてや、並の同心の3倍と見積もっても、定町廻り同心なら手取り五千万円クラスでしょう。当然、衣食とも不自由してないし、いいものを選べるわけだから、男ぶりもいいだろうし、毎日見廻りに歩いているわけで運動も足りてる。相撲取り、火消しと並んで江戸のもてる男と言われた理由でしょう。

二千石の旗本だとすると、これは知行だから、取り分は35%で、700石。35石で100俵だから、

700×100÷35×0.3=600両=4800万円。多分、定町廻りはこのクラスの実収となりますね。でも、旗本の場合、使用人の数が多い上に、出世のための付届け金額が馬鹿にならない。役料がついても、奉行所の同心や与力に比べたら自由の利く金額はかなりに少なくなるでしょう。貧乏大名の家臣と違って、町奉行所勤めは激務で合っただろうけど、報酬は十分以上にあったはずです。

ついでに書いておくと、与力の方は上は3000両、2億4千万円という数字もあるそうな。このクラスの金額となると、知行地で1万石以上必用なわけで、もう大名なみ。

(と、この記事の続きは、また再編集して続きます。)

2015-08-15 【heiji 20】銭型平次捕物控

[]026 野村胡堂「銭型平次捕物控 傑作選1」「銭型平次捕物控 傑作選2」あだち充「虹色とうがらし 4巻」土橋章宏「超高速参勤交代」

盆休み中である。やりたいことは一杯あるのだけれど、crack attack! という落ちものゲームにはまってボーイスカウト時代の一週間キャンプの後半に子ども達がはまった垢こすりみたいなもので時間がつぶれている。こまったものです。

野村胡堂「銭型平次捕物控 傑作選1・2」文春文庫2014年 (株)文芸春秋 各310円定価各490円+税

最近はbookoff も値上がりして、以前は定価の半値から並べだしたのが、60%強の値付けである。これもアホノミクスの成果だろう。アルバイトにその分高く払ってやってくれてるならいいんだが。

中学校の1年生から小遣いで新潮文庫、角川文庫を買い集めて文庫になったのは全部持ってたので、題を読むと犯人だけは覚えているので、謎解き(といったって、フェアプレイのクイズタイプのものではなく、シャーロック・ホームズが説明するのを読む楽しみ同様)すなわち平次の絵解きを楽しみながら、江戸情緒を楽しむのだけれど。

傑作選1には[金色の処女」「お珊文身調べ」「南蛮秘法箋」「名馬罪あり」「平次女難」「兵粮丸秘聞」「お藤は解く」「迷子札」とバックステージエッセーの「平次身の上話」が収めてあり、2には「身投げする女」「花見の仇討」「九百九十両」「火遁の術」「遺書の罪」「第廿七吉」「五つの命」エセーで「銭型平次打明け話」に安藤満の解説「平次、八五郎は生きている」が入ってる。

記憶にないのは「兵粮丸秘聞」だけだった。

まあ、こどもごころに面白かったという記憶があるのは「花見の仇討ち」くらいだけれど、江戸時代入門としてはなかなか悪くなかったと思う。「金色の処女」は家光暗殺未遂事件で、あるから、少なくとも1651年以前から、平次は名探偵をやってたはずなんだが、大岡越前守も出てくるので、え?1717年町奉行就任なんで、うわあ、なんだ?これは?でも、ちゃんと胡堂先生上記「身の上話」で「挿絵の勝手」都合により、作者の我がままで幕末化政度の風景として・・・・はなはだ済まないことではあるが、ほお冠りのままで押し通している・・・・らしい。つまり言わない約束でしょうってわけですね。で、平次は永遠に31歳でお静さんは23歳のままというのは、「大衆文芸の面白さはそのコツ」だと、やはり「身の上話」で言い切っております。

子どものころには読み飛ばしてしまった刀の使い方も、後ろから人を斬るときは、やくざは刀を引くように斬るが武士は押しこむように斬るから、刀傷は大きくなる。これはやくざの刀使いではなく、武士が犯人だというようなことを見つけると、うん、あ、そうか。とエアちゃんばらをやったり。

文春版の、あ、やっぱりそういう時代かと思うのは、用語解説がついてることです。「藍微塵」「弥造」「奉行」「老中」[南町奉行」「与力」「鷹狩」「三代将軍家光」「征矢」「定紋」「箆深」「お側の衆」「岡っ引」「御用聞」「本草家」「府内」「霄壤」「永楽銭」「鍋銭」「へちまの水」「水茶屋」「黄八丈」「大束」「鳥目」「御家人」「同心」etc.

新潮角川はルビふってあったんだったかなあ?子どもにはほとんど読めなかったような気もする。ま、わかんないのは感じの雰囲気でわかった気になってたのかもしれない。でも「箆深」「霄壤」なんて、今でも読めないし意味もわかんないぞ。

この「同心」だけみておくと、「与力の配下で庶務・警察の業務にあたった。『一味同心』から出たことばで、もとは武家に付属した兵卒のうち、とくに徒歩の者をいった」

うん、確かに同心というのは戦場では「足軽」身分だったわけで、明治に入って羅卒、今巡査なんだよね。だから袴を着けずにぞろりと長着で、上に羽織を羽織ってるけど、いつでも長着を尻まくれる。その格好は足軽。八王子千人同心というのも、八王子に屯田した千人槍足軽だったわけだし。最下位の武士身分。一応武士身分だから、小者をつれて、捕物装束道具類を持たせて街を巡回してたり、事務仕事をやってたんですね。

お金の換算は、至極あっさりで、一両10万円と野村先生は計算してたようです。

野村胡堂は、2つのエセーでも「武士嫌い」を公言してます。平次の反骨は、ほぼ7割の犯人を「しくじりました」と見逃す態度に表れますが、その背景には胡堂の武家社会構造への嫌悪と批判が現れているわけです。まして、刀は武士の魂はともかく、日本人の魂なんてうっかり口にする失言議員なんかが訪れたら、玄関からたたき出したにちがいないようです。(あ、やらないか。野村の紳士的行動生活態度は有名だものね。そんなチンピラめいた無粋な断り方はしないだろうなあ)

安藤満は慶応の学生仲間に広まっていた『小話』を紹介している。「平次の恋女房お静はフランス人だ

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平次が捕物に出かけるとき、お静は切り火をきりながら、≪Je t'aime, et toi?≫と囁くというのである。平次、答えて曰く、≪Madame, moi tant.≫

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絵解きは本屋で2巻目の該当ページをさがしてみてくださいな。(今の慶応生にそんなにフランス語ができるのがいるかどうか、都市伝説かもね)

あだち充「虹色とうがらし」4巻 2005年各巻500円 小学館

初出がいつだったのか、もう忘れたが、コンビニで過去作品を合巻リバイバルするという企画本で、中高年がターゲットらしい。それに引っかかって買うほうもいいカモかも。

あだちは大昔・・・・ほとんど太古の昔、「陽当たり良好」というコージー下宿ラブコメマンガを読んでファンになった。今も単行本は持っている。今の少年サンデーはBirdmen(田辺イエロウ・・・・彼女が主婦作家だったとは知らなかった。「彼女」であることすらも。だから、子育てや家事がいそがしくて、月一連載ペースになってるのはちょっとさびしい)以外は老人の目にはみな同じストーリーと絵にみえる。閑話休題。

ずっと少年サンデーで「スポーツさわやか根性ラブコメディ物語」みたいなものを書き続けて、汗は描いても血は流れない作家で、政治的なものも社会的なもにデガジェな作家だった。

ところが、いきなり江戸時代風環境SFマンガを連載し始めたことがあった。けっこう人気が出たらしいが、それ一作でまた、ラブコメスポーツ物語に戻っている。

「未来の話であり、時代考証無用」という断り書きの立て札がくりかえし出てくる。「つまり、なにがいいたいかというと、この風景が昔の地球のある国のある時代に似ていたとしても、それはただの偶然だということなのである」

「時代考証に口出し無用 奉行所」

わはは、銭型平次の設定「大衆小説のコツ」がもっと徹底されています。

「念のため、もう一度。 これは未来の話である。」

かなりに江戸時代ふうの世界で、後に将軍になった男が若いころに、日本全国を女漁りの旅でまわって、七人の子どもがオトシダネとして散らばった。次男絵師にして、埴輪念流免許皆伝未来予言者麻次郎、長男落語家胡麻、三男怪力無双の破壊坊主芥子の坊、長女菜種、五男天才発明家陳皮、六男忍者幼児山椒の六人が暮らす「江戸」のからくり長屋へ、最後の七人目の火消し「七味」15歳がやってくるところから話は始まる。同時に、別宇宙の既に環境汚染と戦争で破滅した地球らしき惑星から、怪しい天才科学者バン艦長が宇宙船でたどりつき、将軍から賓客と迎えられる。その将軍の弟はひそかにこのバン艦長の科学力でクーデターをもくろみ、バン艦長はこの穢れなき星で旧地球の復活と旧世界で相手にされなかった実験をもくんでいる。悪役はこの二人で、その弟の息子が最終的に主人公七味と対決するのだが、どちらにつくのかわからない剣の天才浮論がからんで、2000ページ近い疾風怒濤コメディアクション時代劇が展開する。

兄弟愛と遊び人の父とのコメディ葛藤がテーマであるけれど、兄弟側が守りぬく科学文明汚染以前の自然環境。血が大量に流れる戦いという、へえ、あだちもこういう問題意識を持ってたんだと感嘆してしまった。

でも、結末はいつものラブコメなんだよね。

(え、次男長男三男の順が変?それは言わない約束!武士の情け!)

土橋章宏「超高速参勤交代」2013年講談社2015年講談社文庫750円税別

ストーリーは、いきなり幕府から5日以内に江戸へ参勤せよと命じられた、今の福島県の太平洋側にある湯河原藩は参勤交代のたびに藩庫が赤字になるような貧乏藩のドタバタコメディ。将軍への参府みやげは特産大根。当然、幕府閣僚への献金なんて出したくても無理無理。おそるおそる大根献上。そりゃあ、閣僚からの憶えはめでたくないだろう。

そんな貧乏内藤家が参勤交代から地元へ戻ってきたばかりのところに、いきなり江戸へ出てきて説明せい!と来たわけである。期日まで間に合わなければお取り潰し必至。藩主だけ馬の一人駆けで上府しても、非礼失礼でやっぱり取り潰し、というので、藩主以下知恵と体力を絞って、ない袖を絞りきっての高速参勤交代ゲームをするはめになる。もちろん、利権ねらいの幕府閣僚の仕掛け大名はお庭番を動員して妨害に出る。

時は将軍吉宗のころ。

まあ、話としてはそれだけで、活字でマリオをゲームするような・・・・大衆小説だから、思いつく限りのバラエティ風エピソードをつらねてもよいという路線のお話。長距離電車の中で読むのに最適かもしれない。読み出すとやめられない疾風怒濤感あふれるお話。

2時間ドラマとか映画の原作ですね。まちがいなく。

2015-05-22 まだ半年たってないlol

[]上田早夕里「妖怪探偵・百目1朱塗りの町」「妖怪探偵・百目2廃墟を満たす渦」西条奈河「世直し小町りんりん」武内涼「妖草師」東郷隆「定吉七番の復活」「センゴク兄弟」

上田早夕里西条奈河東郷隆も新本で買ってしまう・・・贔屓の作家です。武内涼はたまたま立ち読みして新本で買ってしまい、つい先週に妖草師シリーズ第二作がでたのを、上田さんの百目シリーズ2と西条の「世直し小町」と一緒に新刊コーナーで見つけてどうしようかと迷いましたが、まいいか、古本を待とうと見送りました。懐具合がよかったら四冊目につみあげてしまったかも。

半年近く書くつもりで積上げておいた文庫が27冊。読んだけど、書くに及ばずと燃えるゴミに出したのは同じくらい。フランス語文法の復習練習やってた割には、数はこなしてましたね、数だけは。それと「こちら葛飾区亀有交番前派出所」もやっと全巻そろって、それも書くつもりだけど、いつになることか。lol

上田早夕里「妖怪探偵・百目1 朱塗りの町」光文社文庫2014年600円税別、「妖怪探偵・百目2 廃墟を満たす渦」2015年680円税別

人間なんかいなくたって妖怪は妖怪として存在するはずという考えの妖怪・人間混在世界物語というのはめづらしい。妖怪・妖精・精霊・幽霊等は別に存在しなくても人間世界はあるという考えの物語の方が圧倒的に多い。陰陽師の時代、陰陽師が街の片隅にでも看板を上げて商売してた時代は遠くなっても、この国にはまだいるらしいが、全て「怪」は払うべしといの裏警察思想で行動しているらしい。(舞踏派はまだその手のお払い家業の人にはあったことがない)ところが上田さんのこの世界、妖怪も精霊もちゃんと人間と混在していて、一方的に人間の方がなにやら狂信の宗教集団のごとく妖怪を付狙う存在なのです。妖怪の方は、人間はいたって別に問題はない、食料になるんだから、魚や獣と同じでいなければ別のものを食うまでで、いなくたっていいから、いてもいいという哲学でいるのに、人間の方は「有害存在」とは共に天を戴くわけにはいかないと陰陽師やら対妖怪アイテムを警官にもたせている。

舞台になっている『真朱街』という地方都市は妖怪を閉じ込めると信じた朱の壁で囲んだ対妖怪実験都市みたいなところで、妖怪もサファリパークをもらったようなつもりで集まって住んで自由に出入りしている。人間も、一様化を強制する社会からはみ出したものが集まってきて、食われるのをスリルとして住民になっている。

上田さんは書く:ここでは妖怪と人間の境界は限りなく曖昧である。人は妖怪に近づき、妖怪は人に近づく。

その街で政府の陰陽師能力者の対妖怪能力研究機関から被実験者の子どもと逃げ出してきたもののその子どもからも見捨てられた研究員相良邦夫が住み始めた。職業は、百の目を人造皮膚の下に隠した絶世の妖怪美女探偵百目事務所の調査員。所員にもかかわらず、邦夫が依頼者の調査に百目に協力してもらおうとするたびに、この美人妖怪は恐ろしく長命の命を持っているという邦夫の寿命を調査報酬として要求する。彼女にとっての邦夫は歩く保存食料というわけである。邦夫にしてみれば人間世界になにも未練がなくなっているので、自分の寿命が明日に吸い尽くされてもどうでもいいのである。妖怪の舌はそれぞれで、百目は邦夫の命がおいしく感じられるのだが、最初の事件に登場したぬらりひょんは、人間らしい明日を信じている明るさ甘さ皆無の砂をかむような不味い味と酷評したくらいである。二つめの事件は、行方不明になった母子家庭の幼い息子を探してくれという依頼で、これは見つからなかったという報告を母親に上げて邦夫には一円にもならなかった。三つめの事件はヒューマノイドタイプのロボットに恋したかまいたち(風鎌)の依頼。ここで、この物語の人間側英雄(妖怪からしたらヒール)の陰陽師播磨遼太郎が登場して依頼人=妖怪を土に還してしまう。4番目の事件というか出来事は、この播磨遼太郎が妖怪を滅ぼしまくり始めて、妖怪側が実力者を集めて反撃にでる。その中に、邦夫に百目を紹介したバーの主人の牛鬼(ごき)がいて、彼だけが妖怪側で生き残り播磨遼太郎と相打ち気味に引き分け、播磨は一年ほど傷の療養と呪力回復に専念するはめになる。牛鬼を傷つけた播磨遼太郎の魔よけ短刀は邦夫の守り刀として、牛鬼と百目から押し付けられてしまう。というのが『1 朱塗りの街』

『2 廃墟を満たす渦』では、『1』での脇役の県警妖怪対策専門第5係の忌島刑事が、いよいよ人間側が対妖怪戦争意思を明らかにして、5係から課に昇格した特殊安全対策課長に指名されてしまった。心の内では妖怪・人間共存主義者の忌島にしては面倒なことになったが、辞職しても同じだけ稼げる職もないと引き受けて播磨の呪文を刻み込まれた対妖怪銃(これもとんでもないアイテムで、撃つ人間にもダメージが還ってくる。いかにも役人根性の上役は忌島に押し付けて触ろうともしない)の汎用廉価版銃を持たされた部下を率いることになった。

百目以外の登場キャラクタの過去が語られていくのがこの『2』です。牛鬼の依頼の妖怪の敵・播磨調査に百目と邦夫が日本中を旅することになり、その播磨の過去から生まれた恐るべき妖怪の存在も明らかになる。妖怪も人間も食らい尽くす「」という妖怪がまるで妖気の台風みたいに真朱街へ向かってくるところで『3』へ続く。妖怪とその共存主義者にとっては前門の播磨に後門の濁みたいなエライコッチャになってしまったのですねえ。

『1』『2』もSF作家の上田さんらしい科学的説明のついた細部描写が楽しいですね。たとえば、忌島がバーに来て牛鬼がその席は予約席だから座らないでくれという。その理由が、

「座席が暖まっていると嫌がる客なんでね」「珍しいタイプだな」「雪女の姐さんなんだよ。だから席を冷やしておく必要がある」

とか、電気製鉄炉にすむ「たたらの主」と、その火をツマミ食いに来る「火取魔」の会話。

「なぜここから火を盗る。人間の家へ行って、蠟燭やライターから火を盗ればいいだろう」「最近の人間は、あまり火を使わなくてなあ・・・・家はオール電化。練炭火鉢もガスコンロもない。ホットプレートも電気製品だ。重力発電なんてものを使うから、蠟燭すら置いてない。煙草を吸う人間が減ったせいでライターも持たん。提灯や行灯はLED。誕生日やクリスマスのケーキくらいしかもう火を盗る先がないんだ。火事の現場に行って火を盗ったんじゃ人助けになってしまう。それではつまらん・・・・・」

文庫書下ろしだから、年内に『3』が読めるかなあ。楽しみです。

西条奈河「世直し小町りんりん」講談社文庫2015年690円プラス税

デビュー作「金春屋ゴメス」以来の贔屓なのだけれど、最近はファンタジー抜きのリアルな人情物ばかりだった。達者だなあとは楽しむんだけれど、今一つ、羽目をはずした想像力の味を加えてくれもいいじゃないかと思ってたら、ちょっぴり加えてきた。主人公は裏長屋住まいの高砂弁天と評判の長唄師匠の十八歳、お蝶で、実は兄がいてそれが一見頼りなさそうな南町奉行所町方与力の榊安之。つい最近までお蝶の父の隠居した与力の安右衛門も生きていたのだけれど、急病で頓死してしまったので、お目付け役兼保護者として兄嫁の沙十が三日とあけずに長屋へたずねてくる。この姉は老僕の作蔵をおともに八丁堀から歩いてくるのだけれど、とんでもない方向音痴で右にいくところは必ず左、左に曲がるところは右に歩いていくというので1.5キロくらいの路を四時間くらいかけてくる。老齢の作蔵は杖をついて、いい運動と付き合ってるらしいのだけれど、実はその杖は二つに割れて、その先に懐剣を付けられるようになった仕込み薙刀になる。で、沙十は薙刀の免状持ち。作蔵はその薙刀持ちというのが実の役目。一応稽古場の用心棒には幼馴染の枡職人の千吉とその知り合いの三十男の坊主の杖使い雉坊が外の床机についているが、主人公二人は、頭脳というか直感力のお蝶と武力の沙十なのですね。

沙十と安之のなれ合いは、安之が襲われていたとき沙十が助けに飛び込んできてというのが、安之ののろけで、お蝶には剣道場をあまりの見込みなさに破門されたということにしているが、実は、これが怪力の天性を制御できない剛剣のせいで、道場生を次々に怪我させたが故の出入り禁止であったとは、お蝶以外のものには有名な事実。夫婦で最強のギタリストはDerek Trucks と文学博士Suzan Tedeschiだと思うのだが、この安之・沙十夫婦も似たようなものかな。(あ、脱線。lol)

事件はお蝶に付きまとう影から始まる。長唄の弟子の女の子が誘拐されて、その二人を囮にお蝶がつかまるところへ沙十が乗り込む。

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「どこのご新造かしらねえが、そんな小刀であっしらとやり合おうってんですかい」

「いえ、これは、小刀ではありませんの」

にっこり笑った沙十が、まるで別人のような凜とした声を放った。

「作蔵!」

「へいっ!」

勢いよく応じた爺やが、杖の頭に手をかけた。ぱかりと蓋があき、中から細身の棒を二本取り出して繋ぎ合わせる。たちまち長柄となったものを、阿吽の呼吸で沙十が後ろ手に受け取って、反りのつよい懐剣の刀身を先にはめた。

びゅおん、とひとふりされたものは、見事な薙刀だった。

・・・・

わずか三つ数えるほどの早業である。

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さすが十人を越えるやくざもんを相手に圧倒はしても、やくざもんも粘ります。数を頼みに弱そうな作蔵とお蝶と弟子たちをねらうので、もてあましかけたところに、杖を振り回して雉坊が現れる。作蔵が「あっしなんざ、いつ迎えがきてもおかしくねえ歳だが、こうしてお嬢の艶姿を見るたんびに、寿命が一年延びちまいやしてねえ」と笑う大活躍で拍子木がちょん。

まあ、こんな調子で事件も解決するのだけど、事件はけっこう深刻で、お蝶が狙われるわけは、病死ではなく何かを捜査していた隠居の安右衛門は殺されて、その原因になった「物」の行方をお蝶が知っていると思われたことによる。実際はお蝶はなにも知らなかったのだが、襲われたのに逆襲するうちに真実を突き止めると、安之の上司の南町奉行から、幼馴染の千吉、雉坊まで巻き込まれている新興宗教の倒幕陰謀を暴いてしまうことになるのである。で、この陰謀の行方も西条加奈流の大仕掛けなどんでん返しが用意されていて、読み出すと読み終わるまで引っ張られっぱなしということになる。Tedeschi Trucks Band のブルースを聴くようなもんです。

えどうしてスーザン・テデスキかというと、ブルースシンガーでギタリストって現代の長唄師匠みたいなもんですから。lol(Derek 坊やは年上の長唄師匠にほれ込んじまった天才三味線少年みたいなもんです)

東郷隆「定吉七番の復活」講談社文庫2015年850円プラス税

1985年の「定吉七番(セヴン)は丁稚の番号」を「定吉七番は殺しの番号」と覚えていた。lolそれに「さだきち」を「じょうきち」と記憶していた。lololol

後頭部に十円ハゲがあり、鳥打帽をかぶり、柳葉包丁を武器に、「関西人に納豆を食べさせる」文化革命を目指す関東の秘密結社NATTOを相手に大坂商工会議所発行の殺人許可証をもった丁稚が東京とその周辺を歩き回る。テロリストとしては既に八十人以上暗殺している物騒なやつ。よく、当時の日本政府と警察は放っておいたもんである。好物はワケギを刻んで一杯に散らしたケツネウロン。ジャマイカに見立てた江ノ島を舞台にした、イアン・フレミングの「ドクター・ノー」のパロディだったような記憶がする。

なんかけっこう、笑えた記憶があるけど、筋書きは全く覚えてない。

面白かったけど、一作読めば十分とシリーズがどうなったか、定吉が番頭に昇格したのどうかも確かめないまま、全く知識がないままに30年がすぎた。

作者の東郷の方はいつの間にか歴史小説の方で佳品を積み重ねてお気に入りの作家になっていた。

それが、いきなり日野市豊田駅そばの啓文堂で棚に積上げられているのに出くわした。思わず買ってみると、定吉はいつの間にかスイスアルプスの氷河の谷間に落ちて行方不明になっていたらしい。お、それが発見されて氷付けから解凍されて25年の冬眠から目覚めたという設定で復活してきた。(25年も氷付けで凍死もせずに復活する、そんな馬鹿なというような・・・・読者は最初から想定外、この手のアクションフィクションを手に取る輩にとっては、「ジュラ紀の恐竜と共に発見された氷付けの人間ピクルが復活して現代の最強格闘者と戦う」という、板垣恵介という格闘マンガ家のお話も読んでるに違いない)登場人物もなんと本人も知らぬ間に娘が生まれていてそれが、大坂商工会議所の新秘密会所OSKエージェント岡田真弓として(もろ虎の名前ですね)登場してくる。敵の設定は田中角栄をモデルにした闇将軍なのだが、こちらも頭脳移植手術で若返ってスイスのハンサム肉体派男に変身しているという荒唐無稽。パロディの元にする原作もないので、スター・ウオーズもネタ元になって、定吉はこの闇将軍のオトシダネだったというおまけ設定までくっつけるからワヤクチャデんね。

旧作同様続きが出てもよう買わんと思う。

東郷隆「センゴク兄弟」講談社文庫2010年108円定価629円

けっこう時代考証がしっかりとしているなあと思って立ち読みしていた青年マンガ誌週刊ヤングマガジンの宮下英樹作画「センゴク」は、それもそのはず、考証役に東郷隆を迎えていたらしい。で、取材旅行にも同行していたという東郷はそのマンガからスピンオフ作品として物語をつむぎ上げた。

マンガと同じく主人公は木下藤吉郎時代から仕えて一時は十万石大名へと出世したものの、島津攻めで大失敗して浪人、小田原北条攻めで浪人部隊を率いて参戦活躍して5万石に復活、その後家康について勝ち組に生き残った仙石権兵衛秀久が織田信長の美濃攻略戦の間に信長に織田家二つ紋許可を得て、木下旗下の武将の卵と認められるまでの話。

東郷は、織田・斉藤鼎立時代の郷士の仙石家が生き残りをかけて、両てんび戦略のため長男の新八郎久勝を弟の権兵衛秀久に挿げ替えるところから話を始める。戦国時代の兄弟相戦う風潮の中であっさりと弟に家を譲って家を出、弟の人生の節になる合戦には必ず顔を出して助勢した兄とそれに感謝続けた弟の物語を、弟を迎えに出てそのまま家臣として使えた老武人源五左衛門と青年武人三郎の目から描いている。書いてるうちに新八郎の魅力に捕まったらしく、今度は新八郎の戦国武芸譚を書こうかなんて後書きをつけているくらい。楽しみだなあ。とにかく、考証がしっかりしてるから、虚構ではあるけれどリアルな臨場感を生み出せる稀有な作家です。

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到着した由、軍奉行に報告することを侍言葉で、「着到をつく」というのは以前にも書いた。祐筆が目録に記入し、参加者はその早い遅いを忠勤の基準とするのだが、織田家の着到法は、斉藤家のそれよりも数段厳格だった。

祐筆は小判の越前紙に、切れ目から右三寸七分(約十一センチ)開けて着到の日時、名前、

率いてきた人数や装備の数を記入する。

「途中往還にて三人討死。当家総勢十七名。以上」

と権兵衛が言うと、祐筆はうなずいたが、以上という文字は書かなかった。陣中では、人数に必ず異同があるからという。

「一見状を出すゆえ、しばし待たれよ」

軍奉行は権兵衛の蝕状を持って奥に入った。着到目録の記入証明書を一見状と称し、文面そのものの記述は素っ気ない。

美濃国黒岩住人 仙石権兵衛慰秀久

右四月十三日伊木山着到 不可有相違者也、仍状如件

文末に一見了とあり、信長自身の花押がはっきりと付いている。

押しいただいて帰りかけ、権兵衛はあることに気付いて愕然とした。

(織田殿は、これだけの人数へ即座に一見状をだすのか)

全ての着到者を己自身の目で確認し、花押を押しているのである。並みの武将は、これを面倒がって、一見状も合戦終了後に発行する。

(尾張の殿は、気紛れ、うつけ、気短かと人はいうが、さにあらず)

恐るべき小まめさであり、気働きであった。

kokomade-----------------------------(P.312-323)

まあ、よくここまで調べてあるものです。博覧強記とはこの作家のためにある言葉ですねえ。ミステリ舞踏派としては、「名探偵クマグスの冒険」も早いところ手に入れて読まねばと思ってます。

(追記 5/24/2015) 昨日、久々に高田馬場の現場に列見に出て、帰りにブックオフに寄ったら、この「センゴク兄弟」のマンガバージョンがあった。最後のクライマックス場面の新八郎と美濃方の「鬼蔵人」斉藤蔵人(当時としては巨人の180センチの背丈に加え、三尺近い大太刀を使う)の描き方を見たら、ああ、やっぱり、これを振り回して打ち合うのはいいとしても(頭に当たれば脳震とうを起こす、それを小刀で首を切り取る)それで鎧ごと胴を斬り首をはねるなんて描写になっている。東郷も映画やマンガは絵の見栄え効果が命だから、しょうがないと思ってるのだろうけれど、マンガの「センゴク」シリーズの合戦描写につき合っていて、この時代考証の達者は多分無意識のストレスが溜まって、どれ本物の合戦というものを書いて見せようとスピンオフを書いたのかもしれない。大太刀は鎧等具足を身に着けている相手には脳震とうや打撲、骨折を起こす武器であり、突きを顔面や喉や具足のスキマに差し込んで致命傷を与える武器なんですね。今見る日本刀より、はるかに身幅も厚く頑丈だから重い。ま、工事現場のバールの先を尖らしたものみたいな重さ大きさなわけです。したがって、これで相手をノックアウトしようとするには、肩に担ぎ上げ、そこから振り下ろす、振り回すわけで、どうしても、前に構えたところから突き出す槍や大太刀の速さは出ない。東郷は最初に立ち向かった権兵衛が槍を叩き折られてしまう場面を描いたときに、「大太刀の手間はこれである。刃先の勢いをつけるためにはどうしても一動作多く必要になる。権兵衛はその隙に逃げればよいのだが、足が竦んで動けない」と描写した。ま、その絶体絶命の瞬間にやはり大太刀遣いの新八郎が飛び込んでくるわけです。決着は、新八郎の大太刀の突きが物打あたりまで鬼蔵人の胴のスキマに入って動きが止まったところに権兵衛が飛びついて打刀を腰に構えて体当たりして抱きつき草摺(太ももや下腹の防護具)の間を三度突き刺してしとめるんですね。で、そこで精魂つきてる権兵衛に代わって、従者の三郎が「自分の鎧通しを抜き、蔵人の首筋に突き刺して左右に引きまわした」・・・・なんかイスラム国のビデオみたいな描写だけど、まあ実際の戦場ってのはそういうもの、リアルに絵にしたらかなりに吐き気もので、普通のお気楽マンガ読みはそこでげんなりして読むのを止めるでしょう。イスラムビデオをほとんどの人が見ないように。文章で書かれればなんとか読めても・・・・・うん、書いてて気持ち悪くなってきたので、追記もこの辺にしておこう。

武内涼「妖草師」徳間文庫 2014年 660円プラス税

上田さんの妖怪に比べると、アイテムでしかない妖しの草の数々を使って戦う陰陽師ものと言えるかな。京都の陰陽寮系の公家くずれの庭田重奈雄と後世文人画人として有名な池大雅、同じく後世化け物画家として時代を先取りしていると評価される曾我蕭白の三人組が京都のあやかし草事件を解決していく話です。

池大雅と蕭白の人物造形がたくみすぎて、タイトルロールの庭田重奈雄がかすんでるような気がするのは、まだ一作目で魂が入りきってないせいかもしれません。lol

事件は、売れる前の池大雅の世過ぎの骨董店の壁に赤い苔が繁殖し始めたことから始まります。この苔、ほうっておくとそのうち実際に火事になるという妖草。この事件を解決して池大雅と庭田重奈雄のつきあいが頻発する妖草事件の中で進んでいくという趣向。そのうち、庭田個人のかなわなかった恋物語の相手の紀州家への復讐妖草事件へと妖草師はまきこまれて江戸まで出かけるはめになるんですが、ま、それよりも、江戸儒学のゆがみというか、現在のブラック企業風土体質の元みたいなものに、武内が言及するところの方が面白いです。

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徳川幕府は朱子学を支配原理としてもちいた。

・・・・・・・

(真の儒学は、主君が誤った時−−−主君に反抗し、正しい道をしめすことこそ−−−忠だと教えている。主君の命令に盲目的にしたがうことが・・・・・忠ではないのだ)

だが、当代の侍には・・・・自分の頭で物事を考えず、主君の命令を機械的に実行することが忠だと勘違いしている輩が、多い。

(主君がどれだけ間違えていても、臣下は鉄の忠誠をつくさねばならない−−−このような思想は、儒教の本場、中国では異端の教え、隋の時代につくられた、ろくでもない書物・古文考経孔子伝の中に出てくる、ろくでもない思想なのだ)

隋の時代−−−漢の時代の書物として捏造された、書物・古文考経孔子伝には・・・・・次のような、思想が書かれている。

君君たらずとも臣は臣たらざるべからず−−−お前の主君が、どれだけ非道な人物、どれだけ残虐な暴君であっても、お前はその主に、絶対の忠誠をつくさねばならない。

父父たらずとも子は子たらざるべからず−−−お前の父親が、どれだけ異常な暴力をふるってきても、どれだけはちめちゃな父親であっても、お前はその父に、絶対の服従をしなければならない。

この思想、儒教の本場、中国ではすぐに消えてなくなった。ところがなぜか・・・・・江戸時代の日本の侍たちの間で、流行っていた。

(勿論、孔孟の書をちゃんと理解し、このようなまがい物の思想が儒学ではないとわかっている侍は、しかといる。だが・・・・・それがわかっていない侍、自分の頭で何も考えられん侍が、ふえてきているのだ。

これほど−−−命令を出す馬鹿殿連中に、都合のいい事態はあるまい!)

kokomade-----------------------------------------(p.164-166)

現代は忠の見返りにはした金みたいだけどね。lolol

蕭白論も面白いのだけれど、もう書く根性がない。久々に長く書いたらバテてしまった。

蕭白・池大雅と庭田が東海道を上るくだりに書かれてあるのでそこを読んでくださいな。

272ページから273ページにかけてです。

2014-12-31 1年経ってしまった

[]都筑道夫「都筑道夫のミステリィ指南」都筑道夫「漆の壁に血がしたたる」

まあ、冷や汗ものの書き込みですね。

今も、Opera16起動しようして他のユーザが使ってますとエラーメッセージが出て、開かないので、タスクマネージャーから終了させる解決法を実行したら、そのタスクマネージャーのリストに出てこない。これは一回シャットダウンと思ったら、そのシャットダウンも延々と続いていつになったら終わるのか分らない。これでは、ここの1年ぶり更新ができないじゃないかと、ノートをひっくり返し、電源引っこ抜いて、さらに電池を強引に抜き去るという荒芸でリセットした。Operaは時々ゾンビ化して、メモリに居座って、ホラーフィルムに出演するというのは、最新版を使わず古いOpera(こっちの方がブックマーク操作がこなれていて使いやすい・・・・最新版は、なんか、ぶっくまーくなんかやりたくねえよとふてくされているような社員と仕事してるような感じなのだ)に半年前から起きることなんで、慣れてしまった。

ま、この一年、読んだのはいっぱいあるんだけど、歳とって気難しくなった老人の運命か、皆、今一つなんですよ。ですが、6月に急に引越しする羽目になって、片端からゴミを棄てまくった時に、あ、これは読んだはずだが内容忘れたとか、うわ、これ多分読んでないってのが出てきまして、それは新居へまた積上げて読み直し。年取ると、既読も初回みたいなモンで、これも悪くないですね。

都筑道夫「都筑道夫のミステリィ指南」1990年講談社文庫420円

冒頭で都筑はミステリィはエンタテインメント(entertainment)

小説であると定義します。enntertainment の辞書第一義は「おもてなし」であるから「小説の書きたい人間が、同時に、人を楽しませる目的を持って、それによって報酬を得ようとして書くものである」と説明する。続いて、「ことに、エンタテインメント・ノヴェルの中で、いちばん大切な『おもしろい話』という部分、つまりストーリィを考える技術というのは、これはもう絶対といっていいくらい、他人にその秘訣を伝えることが不可能なものであります.....その一番重要な部分が、おもしろい話を考え出す技術であるとすれば、残りの部分は、それを『文章でいかに語るか』ということになると思います。その『いかに語るか』という部分は、つまり小説を書く技巧ということですが.....いろいろな作家たちが長い間試みた結果の最大公約数のようなものができておりまして.....そういう、ひとつできあがった『おもしろい話』を『いかに文章で語るか』-----その部分だけに限定してお伝えする.....それが、この本の目的とするところであります。」

うん、これ以上にこの本をまとめ紹介しようがないなあ。lolol

で、怪奇小説の実例書き方から初めて、パロディ推理小説、SF、ファンタジィと都筑自身の実作品のバックステージストーリィみたいな話が続くので、これから作家になろうとする人には役に立たないかもしれないが、都筑ファンにとっては、バックステージとかメイキングをYoutube で見るような楽しさがある一冊なのです。

都筑道夫『朱塗りの壁に血がしたたる』2002年光文社文庫、160円定価457円税別 初出1977年、1980年角川文庫。

解説を新保博久が書いている。

「若い熱心な本格推理ファンにとって、名のみ高く、しばらく入手困難だった物部太郎&片岡直次郎コンビが活躍する『七十五羽の鳥』(昭和47年)『最長不倒距離』(同48年)に続いて、この『朱塗りの壁に血がしたたる』(同57年)でめでたく、三部作の新版が出そろいました。」

都筑の書く「本格推理」というのは完全フェアプレイで、エラリー・クインの「国名シリーズ」並みに挑戦状がはいってないのが不思議なくらい。さあ、解けるなら解いてみよ。

謎は橋が嵐かなんかで両端が破壊されて中央部分だけが残っている、その上に轢殺された男の死体がある、橋板には四輪車のタイヤ跡が残っている、という読者から出された状況でミステリを書くはめになった紬志津夫という作家が、いろいろ調べていると実際に昭和24年にそっくりの事件が日本海側の宇賀神橋というところであったという情報提供があった。そこで当時事件の記事を書いた新聞記者へのインタビューと現地調査を物部・片岡コンビの探偵事務所へ依頼するが、ものぐさ太郎という異名をとる物部は動かず、片岡が出かけるのだが、インタビュー後に元新聞記者は殺され、片岡も宇賀神橋事件関係者の家の朱塗りの部屋の密室殺人事件に巻き込まれ、犯人として逮捕されるはめになる。

うむ、最後まで犯人をあてずっぽうすらできなかった。

都筑もこういう読者とのハードなパズル問題エンターテインメントを書くのはくたびれたのか、これ以降は短編(退職刑事シリーズとかナメクジ長屋シリーズとか)か、もっと軽い味の物語(紅子シリーズ)を書いたのだった。

ふう、ここまで書いて都筑道夫「西洋骨牌探偵術」を書く気力が尽きた。今年はここまでにしとうございます。よいお年を。LOL

気力がもどったら元日にでもつづきを書こう。

2013-12-27 【heiji】019 時代物探偵たちの設定工夫もいろいろありますね

[]019 吉田雄亮「居残り同心 神田祭」沖田正午「手遅れでござる やぶ医師天元世直し帖」小杉健治「からくり箱 質屋藤十郎隠御用 二」野口卓「闇の黒猫 北町奉行朽木組」

ミステリの時代物といえば捕物帖。古典なら、半七捕物帳に始って、銭形平次捕物控、右門捕物帖が古典のビッグスリー。半七と平次は目明し(岡ッ引)で右門はお役人探偵役の始めで、役人から逸脱し一般町民(貧民か)が探偵役を務めるものの始めは久生十蘭の「顎十郎捕物帖」なんだけど、さすが、半七登場いらい百年ちかくたつと(1917年だもんね)目明し、岡ッ引、下引き、同心、与力だけじゃあ新味を加えられないと、探偵キャラクタに作家は工夫を凝らしだす。最近じゃあ、ありとあらゆる職業から探偵役が登場してきて、上は将軍、殿様、若様、姫様、子どもから下はスラム住人の乞食砂絵師、人外の猫から幽霊、物の怪、妖、まで、一億総探偵状態。(江戸時代は4千万人だったかな)ひどいのは、探偵の設定だけに凝って謎もなにもない、単なる江戸人情コージーミステリ風読み物まで、次々と文庫になってでてきてます。ご盛況ですねえ。なんか、普通の銭形の親分と八五郎みたいなのんびりしたものが逆に新鮮に読めたりしますが、この4作、今風の工夫ですねえ。

吉田雄亮「居残り同心 神田祭」祥伝社文庫 2013年 280円 定価638円プラス税

北町定町廻り同心30歳前の水木弦太郎が探偵役。町廻り同心なんですが、二人の手下と事件を追ってる最中に神田明神の境内の群集の中で二人の手下と容疑者が殺される。手下がいなくなった弦太郎は、明神の辰蔵という香具師の元締めに強引に十手を持たせて、岡ッ引にして、その上、神田、本郷、小日向、湯島、上野、下谷、谷中、浅草をまわるために、辰蔵の家に住みこみ出す。もちろん同心は、毎日奉行所に顔を出して小者をつれ、岡ッ引、下引きをつれて巡回しなければならないのだが、奉行所へ立ち寄る時間が無駄と上役の与力を説得してしまう。それでついたあだ名が居残りの旦那。「ちょっぴり悪そうで、それでいて、どことなく小粋な感じがする。もっとも、おれだけが、そうおもっているのかもしれぬが」と弦太郎もまんざらでもない様子。部下は小者の老人の孫助。下引きについたのが、辰蔵の子分の伊佐吉。

事件は捕物帖ではありきたりの抜け荷事件。敵役は、手裏剣使い。設定の居残り同心というのだけが目新しいので、この後シリーズはどう展開していくのか、興味深深。

沖田正午「手遅れでござる やぶ医師天元世直し帖」ハルキ文庫2013年定価660円プラス税

浅草で医療所を開いてる元某藩御殿医の天元、願人坊主の朴念、早桶職人の竜次という、医者、坊主、葬儀屋というトリオが、勝手に「世直し組」と称して、陰始末するシリーズの第三作目。前の二作と異なって、天元は「世直し」に意味が見出せなくなり、組を解散しようかとスランプ状態。朴念と竜次は小遣い稼ぎにもなるので、まだまだやる気まんまんなので、チームワークが崩壊寸前。そういうところに、天元が御殿医をやめたきっかけになった、大名家の取り潰し事件にかかわっていたと見られる別の元御殿医が土左衛門でみつかることから、天元は陰謀事件へと巻き込まれる。その登場人物に朴念が願人坊主に落ちた事情に絡んでいた坊主がやはりからんできて、三人そろって戦うはめになる。再び「世直し組」再結成。天元を狙う闇の仕事師とか、毎回毎回、事件の度に竜次が手を怪我して、桶職人の仕事を休むはめになるとか、ドタバタ進行のおもしろさで読ませます。

小杉健治「からくり箱 質屋藤十郎隠御用 二」集英社文庫 2013年280円 定価620円プラス税

質屋「万屋」の主人の藤十郎は、質入された箱根細工のからくり箱の重さに首を捻る。調べてみると、二重底から五十両出てきた。藤十郎は元通りに入れなおして、あずかって置くように手代に指示した。そのうち、岡ッ引が近所の店に押し込んで主人を殺して五十両を奪った犯人捜査で現れる。押し込んだ二人組みの一人は既に捕まって大番屋にいたが、殺しはしてないと主張しているという。どうせ五十両も盗んでいるのだから、死罪は確定してるのに、何故認めないのだろうと、藤十郎は首を捻り、ひそかに調査を始めた。

この藤十郎の店は、実は旗本御家人相手の金貸しをして、武士階級の経済的困窮から幕府の屋台骨が傾くのをふせごうという家康からの極秘任務を代々遂行している店だった。それが、最近、殺された男の店から借りて、万屋からの借金を完済する旗本が出てきていた。実は殺され男は西の金貸し鴻池の江戸支店として、幕府の勘定奉行へ工作をしていたということも明らかになる。

押し込み犯の主犯の男は死病にかかっていて、幼馴染の経済困窮を救い、やはり古い知り合いの女を助けて、幼馴染と結び合わせて、二人が幸せになるようにと強盗を企んだのだったが、それを利用して、金貸しを殺したものがいたことを藤十郎は明らかにする。ついでに、死につつある男の願いもかなえてやるのである。まあ、しみじみとした、小杉節とでもいう世界です。それにしても、裏鴻池という関西集団はなにを企んでいるのか、この二巻目でもあきらかにされてはいないのですね。

野口卓「闇の黒猫 北町奉行朽木組」 新潮文庫 2013年 定価550円プラス税

正義の定町廻り同心というのは、町奉行所に五ツ(午前八時)に出仕して、同心筆頭から通達次項を聞いて、五ツ半(九時)に、手先の岡ッ引らを従えて、市中見廻りに出、決められた区域を巡回するのだと、野口は書く。

定廻り朽木勘三郎に従うのは、岡ッ引の伸六とその手下が二人、御用箱持ちの中間が一人の四人で巡回する。この伸六の手下は、減らず口の安こと安吉、巨漢の地蔵の弥太、独弦和尚の和助、ぼやきの喜一という、21歳から15歳までの若いものばかりであり、勘三郎以下7人を『朽木組』と奉行所の者も町衆も呼んでいた。南北奉行所きっての捜査チームだったわけです。

そのチームがぶつかる最初の事件は、商家の百両盗難事件の「冷や汗」、商家の結婚したばかりの若旦那が三日目に姿を消した謎を追う「消えた花婿」、文庫の題にもなっている二十年間正体不明の怪盗を追う「闇の黒猫」の中篇三つがはいってます。まあ、刑事ドラマみたいな若い手下たちの会話が雰囲気をだしているんですね。

登場人物が熟れてくる、三作目あたりからが楽しみですね。