Mystery Paradise

2011-05-17 【私のミステリな日々】2011年5月17日 柴田哲孝

[]2011年5月下旬 柴田哲孝「KAPPA」徳間文庫 2007年 柴田哲孝「RYU」徳間文庫2009年

柴田哲孝「DANCER」文春文庫2010年を読み終えたばかりなのである。噂にたがわず、読み出したら読み終えるまで眠れない。。。というのは嘘ではないが、雨の中で休みなしに6時間も線路の砕石の上を歩いて帰ったら、やっぱり眠ってしまいlol 翌日にまた読み上げて寝た。

いわゆるメジャー中のメジャーな文庫と言えば、文春文庫と新潮文庫が両横綱だろう。次に来るのが、角川文庫と集英社文庫あたりか。この4社が横綱大関を張っていて、中公文庫と講談社文庫が関脇。ミステリという得意技で売ってたハヤカワと、やはりここがミステリパラダイスであるから、東京創元社の文庫が小結と言えようか。前頭筆頭が徳間文庫と祥伝社文庫あたりだろうか。二枚目に朝日文庫と光文社文庫。三枚目に、岩波文庫とちくま文庫、4枚目に・・・・・・・

まあそんな番付はいいのだが、作家というやつは、この関脇以下の文庫からスタートして横綱大関クラスの文庫入りをすると、垢がついてくる。うまいのだけど、なんか自己模倣マンネリ古典芸能芸人風円熟文藝者になってしまうようだ。宮部みゆきさんみたいな例外はあるけど、たいていはそうなる。

柴田哲孝も講談社文庫時代の二作、実は、釣りの雑誌に連載されたというマイナーもマイナーな二作(ぼくはこれを印刷所のヤレ(印刷汚れや、かすれで反古に捨てるものをヤレと呼ぶのだ)で読んでいた。)なのだが、これに比べると、少し、柴田が調子に乗りすぎているような自己制御棒不足(メルトダウンまではいってないが)をDANCERから感じたのだ。KAPPAもRYUもDANCERも主人公はネイチャー・アウトドアルポライターの有賀雄二郎なのだが、その有賀に「実用品は使えれば何でもいいが、嗜好品に贅沢を怠ると、男は精神が枯渇する」なんて言わせてしまっているのだ。ハードボイルドな有賀に何でこんな陳腐な台詞を振る?ハードボイルドな男は言葉で説明なんかせずに、黙ってバカラのグラスで飲んでいるだけでいいのに。(また後解説で文芸評論家と称する野暮エライお人が、「痺れる殺し文句である」なんて提灯持ちしてるんだから始末に悪い) DANCERは確かに円熟域にはいった旬の芸人の安心して見ていられるエンターテインメントである。ものすごうくおもしろい。でも、KAPPAとRYUにあふれていた、稲見一良の世界に通い合い一歩も劣らぬ透明なものはどこかに揮発してしまっている。

というので、とにかく好きなこの二作を語ることにしよう。

柴田哲孝 「KAPPA」徳間文庫2007年 590円プラス税

冒頭はこうである。

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"彼”は潜んでいた。

浅い沼の底で、ただひたすらに得物を待ちうけ、その瞬間のために備えていた。

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で、316頁後にこう結ばれる。

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ゴツゴツとした岩のような背が、水に浮いているように見えた。その背が、少しずつ小さくなっていった。

やがて、すべてが水の中に消えた。

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舞台は牛久沼である。鰻丼の沼である。。。あ、いや、そんなことはどうでもいい。面積は3.49km。周囲は25.5km。最大水深は3.0m。平均1.0mの水深。「浅い沼の底」です。仙台の小松島の沼だって、もうちょっと深かったような・・・あ、それは自分が子どもだったから深くおもってるだけか。とにかく大利根川水系の小貝川支流の沼である。

そこで、バス釣りの素人が得体の知れないものに飲み込まれ行方不明になる。上がった死体には首と右肩から下と内臓が失われていた。釣会の幹事として同行していたバーのマスターの木元は河童に襲われていたと証言する。木元の見たものは、

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野村(最初の犠牲者)の右手の先にあるモノを、はっきりと目にした。

白く、四角い顔。

尖った鼻先。

耳まで裂けた大きな口と小さな目。

岩のように、ゴツゴツとした背中。

そして頭の上にある、黒くて丸い皿・・・・・・・・・・・・・。

大きな生き物だった。頭部だけを見ても、人間のそれよりもはるかに大きい。その口には野村の右腕の肘から先が、しっかりと銜え込まれていた。

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警察は、木元の証言を信じなかった。あたりまえか。そうすると、犠牲者を最後に見た人物が最有力容疑者というのが警察の論理というもの。ただ一人、身長178センチ、体重82キロの阿久沢刑事だけが、怪物の存在を感じ取った。

ヒーローはそのころ、練馬区の駐車場に止められたキャンピングカーの中で飲んだくれていた。ハードボイルド探偵の条件はまず、酔っ払いであるということだ。禁煙禁酒で定収入のある男はハードボイルドの探偵にはなれない。

バーボンで二日酔いで、酔い覚ましにビールを飲みながらベッドの上の大型犬に朝飯をやり、新聞を広げる。ハードボイルドな男が新聞なんてと思うのだが、職業はルポライターなんだからしかたない。歩き回らない分、次元が低くても情報は情報である。原稿落とすので有名になって仕事にあぶれている33歳である。バツ一で元女房が一人息子の親権を握って離してくれない。そこで、有賀は「釣り人カッパに食われる?」という記事にぶつかった。

記事にならなくても、原稿料を前借させてくれる出版社をなんとか探し出し、牛久沼へバス釣りに住居(トレーラーハウス)ごと、出発する。大型犬ジャックの故郷が牛久沼だった。そのジャックは仔犬時代に野良犬で釣り客や漁師から誰も釣るだけで食わないバスをもらって育っていたところを有賀に拾われたのである。

そこから腕力デカの阿久沢を泥棒と勘違いした有賀と、有賀を木元(この男も、結局カッパの正体を突き止めて仕留めて汚名を晴らさんとして、怪物に片足を食われて失血死するのである)の共犯者あるいは不審者と決めつけた阿久沢のドツキアイが勃発、公務執行妨害逮捕さわぎから友情へ・・・・・オコト臭い(臭すぎるけどね)・・・・お約束展開もあり、釣りの天才不登校少年、70歳のたったひとり残った牛久沼の漁師との出会い・・・・女ッ気はまったくない、硬派推理冒険物語が展開していく。

最後に怪物は捕獲され謎は解けるのだが、カッパの正体は、ぜひ、お読みください。連休に読み出したら間違いなく徹夜ものですよ。

柴田哲孝「RYU」徳間文庫 2009年 350円(定価629円)

最初に読んだのは、こちらだった。阿佐ヶ谷のブックオフで、ちょうど七夕の日だったが、気まぐれで買ったのだった。縁日を冷やかしながらアパートへ戻って、エビスの缶をあけながら、読み出して、はい徹夜。読み終わったときには、冷蔵庫に入れていた取って置きのピルスナー、ウルケル6本が消えていた。ちょっと眠ったあと、本屋を回って、新本で「KAPPA」を手にいれたのだ。

有賀はアラスカでキングサーモンやグリズリーを記事にして飲んだくれていた。相棒はイギリス人カメラマンのコリン。

有賀のもとに、釣り雑誌の編集長から手紙が届き、原稿料を振り込んだことを書いた便箋代わりの一枚の原稿用紙と編集部へ届いた奇妙な手紙が同封されていた。

沖縄県金武町(きんちょう)のナガコ・フレイザーが出したもので、写真の動物の正体を教えて欲しいというものだった。(ひょっとして、エイコかな。柴田は永子・フレイザーという表記法にこだわっている)

写真を撮ったアメリカ軍人は行方不明になっているという。

その写真をみたコリンはネッシーだといった。有賀は首をひねったあと、コリンを沖縄にさそう。

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「日本へ行かないか、おれと一緒に」

「オキナワかい。やだね。金もないし」

「ネッシーがいるぜ」

「あれは金にならない。一度撮ってアメリカの雑誌社に売ったが、たった70ドルだった・・・・・・・・」

「今度は金になる。勘が働くんだ。保証するよ」

「どうだかね・・・・・・・・」

「うまい酒があるぜ」

「酒はイギリスが本場だ」

「釣ができるぜ。トラバリーや、バラクーダが」

「釣はあきたよ・・・・・・・・・・・・」

「いい女がいるぜ」

「・・・・・・・・・・・・・・」

それで話が決まった。

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アラスカを去るのが不満だったのは愛犬のジャックだけだったが、ふてくされながら空輸された。

差出人の永子・フレイザーはいい女だった。

で、もう一人、漢(おとこ)が登場する。やはり、飲兵衛のキャンプ・ハンセンのMP伍長のフランク・ガードナー。

もとは、MPに厄介になるタイプだったのだが、MPの幹部にフランクを取り締まらせる方にまわせば、やっかいな取り締まる必要のある兵士が一名減って、取締効率もあがると考えたものがいて、フランクは、ゴロツキが岡ッ引に成り上がるように、MPになっていたのだった。そのフランクに特命捜査が命じられる。行方不明のアフリカンアメリカン兵を探せと。(シルベスター・スターロンとかアーノルド・シュワルツネガータイプですね。あんまり知性は感じられないが、おそろしくタフなアメリカン)

そのうちに、この正体不明の怪物は、有賀とコリンと永子の住む部落へ不気味に密かに徘徊して、ペット、家畜から始って、小柄な老人まで行方不明にしてくれるのです。有賀とコリンとフランクは共同戦線を張って、オキナワのジャングルと地下洞穴の中で怪物と戦いまくって・・・・・・

こっからは読んでくれい、デス。

連休二晩目の徹夜、まちがいなし。

連休三晩目は大藪春彦賞の傑作(でも舞踏派の好みは前二作)「TENGU」です。

そうして4晩目は くだんの「DANCER」。

5晩目はあるかって、ありますよ。そのうち、紹介しませふ。

あ、有賀さんと恋人と愛犬ジャックは千葉県岬町に住んでいる。例によってトレーラーを海辺の自分の土地に留めて。。。(DANCERのラストのハッピィエンド風景なんだけどね)

こんどの津波で大丈夫だったのか?非常に心配。

DANCER の274頁にこうある。

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時間が過ぎれば、すべてが変わる。人も、街も、食べ物の味も。年寄りは、黙って受け入れなければならない。

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