「世界史」に投資する:「難しいことはわかりませんが、お金の増やし方を教えてください!」山崎元・大橋弘祐

いまの日本はようやくデフレから脱しようとしているところで(それも緊縮財政、とくに来年の消費増税で頓挫しかねないが)、銀行にお金を預けても金利はごく小さく、預金の他に債権や株式でお金を運用してみたくなる。しかし、素人が債権や株式に手を出すのはなかなか敷居が高い。本書は、お金の素人に、現在の日本でうまくお金を運用する方法をわかりやすく教えてくれる。素人の共著者が、専門家の共著者にわかりにくいところを一つ一つ丁寧に質問して教えを受け、自分で実践していく内容が良い。

本書においてくりかえし強調されるのは、「ノーフリーランチ」という経済の基本である。生き馬の目を抜くような経済の世界では、少しでも簡単に利益が得られそうな機会があれば、誰かがすぐにその機会を使って利益を得てしまう。投資の世界ではこれは特に当てはまり、素人にとってうまくみえる話には必ず裏があると考えておいたほうが無難である。

たとえば株式投資の場合、本書で勧められていることは、特定の株を売り買いすること(アクティブファンド)ではなく、国内と世界の株式の平均値(インデックスファンド)への投資である。日々の株価は素人には予想不可能であり、投資のプロでさえもわずかに残されているフリーランチを探して利益をあげるのは至難の技である。ただ、平均的な株価は、ある程度長い期間でみれば数パーセントは上がり続けている。素人にできることは、数年以上の長い期間の平均的な株価の上昇に投資することくらいである。それでも、預金だけに資産を置いておくよりは利益が得られるだろう(ただし一時的に1/3くらいは一気に減るというリスクは見ておかなければならない)。

本書でも触れられているが、数パーセントの平均的な株価上昇というのは、ピケティが実証した資産価値の全世界平均的な上昇率(4〜5%)に他ならない。これは「世界史序説」でも述べられているように、西欧資本主義が始まって以来の世界史的な趨勢である。現在は本書で詳しく説明されているとおり、インターネットの発達によって、一般人でも世界の平均的な株価に投資することができるようになったのであり、いわば「世界史」に投資することができるようになったと思うと面白く感じる。

本書で最後に示される重要なメッセージは、増やしていくべき資産はお金だけではなく、一人ひとりがもっている能力や経験(人的資本)だということである。ピケティが示しているように、人的資本の増加率(賃金の伸び率)は資産価格の上昇率よりは落ちるが、それでも2%くらいはあるのである。したがって、人的資本にも投資しておくのは十分に意味のある選択なのだ。

どんな状況になっても働く術を持っていることは最強の保険になる」(本書、p235)