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2007-10-22

[] ウィキペディア初音ミク」項削除騒動の法的分析

これは私的なメモです。公権的な法解釈を提供するものでも、標準的な法解釈であることを保証するものでも、日本語版ウィキペディアコミュニティウィキメディア財団の公式見解を表明するものでもありません。

初音ミク」項の当時初版が著作権侵害であったかどうか自体、疑義のありえるところですが、以下の記述は、すべてそれがあったことを前提とします。


著作権侵害者は誰か?

まず、前提として、「ウィキペディア著作権を侵害している」とか「○○項の○○版が著作権を侵害している」ということはできますが、厳密に考えれば、「著作権侵害」とは著作物の無権限使用(複製など)という行為であって、これをなし得るのは「ウィキペディア」という著作物の集合体や「○○項の○○版」といった著作物ではなく、(自然人・法人)です。

また、「日本語版ウィキペディアコミュニティ」は日本国上、おそらく法主体性が認められないため、著作権侵害を行いえません。ウィキメディア財団は日本国上、法主体性が認められ、著作権侵害を行いえますが、ウィキメディア財団自身は個別のアップロードに対して、その対象を認識しての複製などの著作物使用を行っていませんので、(著作権者からの通告があるなど)特段の事情がない限り、直接的な著作権侵害を行っていないといってよいと思います*1

では、誰が著作権侵害者かというと、著作物使用(複製と自動公衆送信可能化?)を無権限で行った投稿者ではないでしょうか。


事後的な著作物使用許諾の効果

この反面として、事後的に著作権使用許諾を与えるというのは、投稿者の無権限だった著作物使用を追認する、という意思表示であると考えられます。無権限行為の追認は、民事上、法律行為及び事実行為*2に一般的に認められています。そのため、この意思表示は、有効にその意図した効果を発生させるものと考えられます。

したがって、事後的な著作物使用許諾があれば、その行為の当時にさかのぼって違法性がなくなり、もはや著作権侵害の状態は消滅します。


伊藤社長の転載許諾*3の効果

これを「初音ミク」項のケースに当てはめるとき、伊藤社長は当初GFDLを意識していらっしゃらなかったため、伊藤社長の「転載許諾」の意味の解釈は難しい作業になります。それはどうしても、伊藤社長の当時の事実的な意思の推察ではなく、その法的意味の合理的再構成にならざるをえません。

たしかに、伊藤社長は単純な著作物の無権限使用を追認することは意思表示されたが、GFDLへの同意を伴う著作物の無権限使用を追認することは意思表示されなかったため、投稿者の著作物無権限使用は追認されておらず、著作権侵害の状態は維持されていた、と考える余地もあると思います。

しかし、GFDLへの同意によって生じる法的効果と著作権は性質が異なること、GFDLへの同意と著作物の無権限使用の両方を追認することGFDLへの同意は追認しないが著作物の無権限使用は追認することも自由に選択できる権限を伊藤社長はお持ちなこと、「初音ミク」項の初版投稿者の責任を追及する意思はまったくなかったようにお見受けすることから、少なくとも著作物の無権限使用を追認する意思は表明されたものと解するべきではないかと思います。

よって、伊藤社長の転載許諾以降、「初音ミク」項の著作権侵害の問題は消滅したと理解します。


存続する問題

しかしながら、このことは、伊藤社長が投稿者が行った無権限のGFDLへの同意まで追認する意思を表明された、ということとは別の問題です。むしろ、伊藤社長の転載許諾が投稿者の無権限著作物使用を追認したと理解するにせよ(私の立場)、それを否定するにせよ、伊藤社長はGFDLを当初意識していらっしゃらなかったのだから、投稿者による無権限なGFDLへの同意は追認されていないと解するべきです。

そうすると、初音ミク」項の当時初版が無効なライセンス表示の下公開される、という問題は存続します。


削除の理由(1)*4

初音ミク」項の当時初版が無効なライセンス表示の下公開される、という状態はウィキペディア・プロジェクトの基本方針*5から許容しがたいため、これが解消されないかぎり、「初音ミク」項は削除せざるを得ない、という結論を私は支持します。

これは、明示的に削除理由が列挙された「削除の方針」に該当事項を探せば、強いて言えば「ケース B: 法的問題がある場合」の「日本語ウィキペディアでは、少なくとも、日本国内法(著作権法など)、アメリカ合衆国法(サーバーアメリカにあるため)および GFDL の全てを満たす必要があります」に抵触しているようにも思います。

しかし、そもそもGFDLに対する有効な同意がなければ、GFDLへの適合も違反も問題にならないはずなので、少なくともGFDLへの違反ではないでしょう。

最終的には、伊藤社長は、不本意ながら削除に賛意を示されましたが、転載許諾を取り下げられたわけではないため*6著作権侵害状態は消滅したままです。仮に、著作権侵害状態が復活していたとしても、だから著作権侵害による削除だというでのは、あまりにも実質を欠く形式論であるように思えます。著作権侵害とは別の、何か削除に至らざるをえなかった実質的理由があるはずです。そうでなくては、なぜ伊藤社長の当初の転載許諾では不十分だったのか、理解できなくなります*7

以上から、最終的な削除理由は、ウィキペディア・プロジェクトの基本方針だと理解することにします。なお、「削除の方針」のケースBにあたるかどうかは、はっきりとした答えを現時点では私は出せません。


削除の理由(2)*8

カテゴライズして対比すれば、私の述べていることが分かりやすいかもしれません。


著作権侵害継続説
伊藤社長の転載許諾が不十分だったため、著作権侵害の状態は継続していた。
著作権侵害復活説
伊藤社長の転載許諾によって著作権侵害の状態は一度解消したが、その後の撤回によって著作権侵害の状態が復活した。
著作権侵害解消-削除正当説
伊藤社長の転載許諾によって著作権侵害の状態は解消し、その後復活しなかった。しかし、別の理由によって、削除は正当だった。
著作権侵害解消-削除不当説
伊藤社長の転載許諾によって著作権侵害の状態は解消し、その後復活しなかった。したがって、削除は不当だった。

このうち、本稿では、著作権侵害解消-削除正当説を支持しているわけです。


何が必要だったのか?

初音ミク」項の当時初版が無効なライセンス表示の下公開されるという問題を解消して、削除を回避する方策として、「削除依頼」ページでは、(1)クリプトン社のもとのページをGFDLに同意していただく、(2)クリプトン社のもとのページをGFDLの下で転載することに同意いただく、(3)クリプトン社のもとのページをパブリックドメインにしていただく、という提案がありました。

しかし、(1)は履歴継承の問題で採用できません。(2)(3)もよくよく考えてみれば、遡ってその効力を及ぼし、投稿者による無権限なGFDLへの同意の追認の趣旨が含まれていなければ、結局、「初音ミク」項の当時初版が無効なライセンス表示の下公開されるという問題を解消できないのではないかと思います。

以上より、「初音ミク」項の当時初版が無効なライセンス表示の下公開されるという問題を解消するために、あのときのウィキメディアコミュニティが必要としていたのは、その初版の投稿者による無権限なGFDLへの同意の追認であり、それだけではないかと思います。

*1:仮に行っていたとしても、本稿の最終的な結論及び論旨に影響はないと思います。

*2:事実行為の追認という概念もあると思っていますが、もしかしたら間違えているかもしれません。

*3:厳密には、転載(複製及び自動公衆送信可能化?)を許諾したものか、疑問があります。しかし、ここでは、その前提で話を進めます;http://blog.crypton.co.jp/mp/2007/10/wikipedia.html

*4:この節は、2007年10月24日22時ころに大幅に書き換えました。

*5:「ウィキペディアは GFDLの条件下でライセンスされるフリーな百科事典です」(Wikipedia:基本方針とガイドライン) 。「すべての文章は GNU Free Documentation License (GFDL) の下にライセンスされており、GFDLに従って配布したり、リンクすることができます」(Wikipedia:五本の柱)。

*6:調査不足の可能性があります。

*7:上で検討したように、当初の転載許諾で著作権侵害の状態は消滅していないという立場がありえ、それに立つと別論になります。

*8:この節は、2007年10月25日6時ころに書き加えました。