「女性手帳(仮)」への批判大合唱に感じる違和感の原因は何だろう

 ITともエレクトニクスとも関係ない、いわゆる「女性手帳(仮)」の問題です。名称がキモい、という批判には激しく同意なのですが、「女性の生き方の問題に、国が口を出すな」という主張には、どうにも納得できないのでポストします(執筆時間:30分)。


 まず議論の整理から。今回、「女性手帳(仮)」の配布について言及したのは、内閣府少子化危機突破タスクフォース(TF)です。このTFでは、出生率アップの阻害要因を結婚・妊娠・出産・子育てに因数分解するアプローチを取っています。そのなかで、女性手帳(仮)はあくまで妊娠・出産に対応した策、という位置づけで、待機児童問題は別に(横浜市の林文子市長のプレゼンなど)きちんと議論がなされています。なので、「手帳を作る前に待機児童を解消しろ」という批判は、あまり建設的とは思えません。冊子配布の費用が1冊400〜500円くらいとして、0歳児保育で国や自治体が負担するコストは1人当たり月額20〜30万円なので、そもそも予算うんぬんで比較できる対象ではありませんし。


 タスクフォースの資料(http://bit.ly/13xR7Pg )を見る限り、女性手帳(仮)のアイデアが生まれたきっかけは、英カーディフ大学のジャッキー・ボイバン教授らが、2009-2010年に実施した「Starting Families」のようです。この調査は、日本を含む18ヶ国、約1万人を対象に実施されたものです。


調査結果についてまとめた記事はこちら:
http://www.ninkatsu.net/jp/info/0003.html

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(引用:)
 不妊症に関する正しい知識を持っているかどうかは、子供を持つことに大きく関係する要素です。この項目でも、残念ながら日本はトルコ、中国とともに最も知識スコアが低いグループに入りました。
 この知識には、不妊症のリスクに関する情報も含まれています。例えば、女性の妊娠率は30代半ばを境に下がりますが、「40代の女性は30代の女性と同じ確率で妊娠できる」と誤解している人は全体の半数ほどいて、「女性の肥満が妊娠の可能性を下げる」というリスクに関しても、知っていたのは全体で3割のみ。日本では2割の認識度にとどまっていました。

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NHKによるボイバン教授へのインタビューはこちら:
http://www.nhk.or.jp/seikatsu-blog/400/125400.html

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(ボイバン教授の日本への提言をいくつか引用:)
 「政府はいま不妊の兆候や年齢などのリスク要因に関する情報を国民に提供することが求められています」


 「今の日本では、正確な知識がないまま妊娠する時期が遅れ、結果的に親になる機会を失っている人がたくさんいるのです」。


 「一つ一つオープンな場で議論し、日本の人たちがこれで良いと思う点に達するまで、個人同士、あるいは社会全体できちんと議論しなければなりません」

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 私個人としては、この提言にはまったく異論がないのですが、皆さんはいかがでしょうか。


 例え不妊治療について国が助成金を増やしたとしても、そもそも診療所を受診する人が少ない、という現状があります。受診してもらうには、その前提として一定の知識がどうしても必要です。今回の「女性手帳(仮)」は、その知識の提供手段について、民間委員を中心としたタスクフォースが「小冊子の配布」というアイデアを示しただけ。配布の方法、対象、文言などはまったく決まっておらず、これからの議論です。(というか、徹底的に議論すべき「本戦」はそこでしょう)


 女性手帳反対!というTwitter上の大合唱をみるにつけ違和感というか、怖さを感じたのは、ボイバン教授の「オープンの場で議論する」という提言とは真逆に、審議会など行政の現場でこうした問題を議論するのがタブーになりはしないか、ということです。


 産む・産まないは個人の自由で、国は不妊の知識提供にノータッチであるべきだ!と言うとすれば、国にかわって妊娠・出産にかかわる知識はいつ、どこで、誰が提供するか、という問題になります。


 NHKや新聞などマスコミに頼る…いやいや、若い人は新聞読まない、テレビ見ないとさんざん言われてますし。親、親戚、友人の口コミに頼る…親戚によってたかって「高齢では妊娠率が低くなるから、早く子供を産みなさい」と言われ続けるのはむしろ苦痛では。


 本筋としては義務教育で教える、という話になろうかと思いますが(もちろんそれも「国はノータッチであるべき」と主張する方には耐えがたい話でしょうが)、出産・妊娠は、主に10代後半〜20代という義務教育の外枠で直面する話で、ここの責任を文科省だけに押しつけるのは酷というものです。なので、家に保管しやすい手帳(冊子)やスマホアプリといった方法で、いわば副教材として配布するというのが、「女性手帳(仮)」の主旨かと思います。


 上にあげたボイバン教授の提言を、日本人として、個人として、どう受け止めるか。まずはそこから議論がスタートするのではないでしょうか。