君と僕のアシアト〜タイムトラベル春日研究所 1巻

過去なくして現在も未来もありえない。


今から12年後にあたる2022年のとある一都市である春日市
ここにはタイムトラベルを用いた人生相談を行う研究所があった・・・
過去と現在を行き来して未来への道標を導き出す、
一風変わったヒューマンストーリーでした。
時間を行き来する話と言うのは過去にも数多くありますし、
現実に実現不可であると実証されても永遠のテーマである『時間』。
『タイムスリップ』ではなくて『タイムトラベル』と言う形で新境地を見ました。
本当に過去へ戻っているわけではないので、
矛盾が生じてしまうタイムパラドックスの問題も解決してますし。

かと思えば、後半になってから迎える意外な展開と、
ただのヒューマンものとも一線を画してました。


忘れていた過去にこそ未来へと繋がるヒントが隠されている。
作中で依頼人としてやって来る人たちは皆過去にワケありな事情を持ち、
現在において行き先を見失ってしまっている人たちばかり。
人間は自分にとって都合の悪い過去を自然と忘れるように
記憶の彼方へと押しやるようですが、
自分にとって思い出したくない出来事こそが
人生の重大な岐路であった場合と言うこともありえるわけですね。
過ぎてしまったこれまでを覆すことはできないけれど、
それを思い出すことで、真実を知ることで、
『これから』を紡ぎだすことはできる。

過去も現在も、全てひっくるめて自分であり、
どんなに悔いてもそれは紛れもない現実でもあり。
いい未来を夢見るのであれば、自身を肯定することからと言う事かな。


ここまでなら蓄積してきた街データと依頼者の記憶さえあれば・・・
と、割と実現可能かもしれないシステムを用いたヒューマンストーリーだったところを、
突如としてSFの世界へと誘ってくれる後半に待ち構えている急展開。
本編が進行している世界は本当に現実なのか。
タイムパラドックス上に存在している並行世界なのか。
徐々に大きくなっていく『記録』として残されている現実との乖離性。

所長の存在とは一体何であるのかと、謎が怒涛の勢いで押し寄せてきます。
全ては10年前、2012年7月3日に東京で起こったとある大災害に繋がっていくわけで・・・

この災害と言うのがこれまた現実でも近いうちに起こりうると言われ続けているものなので、
今から2年半後、或いはもっと近い未来に本当に起こるともわかりません。
そう考えると途端に本作の世界観そのものが恐ろしいものに思えてきますよ。