情弱巫女田舎変 『くまみこ』 1巻

古くからの契約により、人語を喋る熊と共存してきた東北山奥のとある村。
そんな村で巫女として仕える多感なお年頃な中学生の少女・まち。
都会への願望は留まることを知らず、
どうしても都会の高校へ通いたいと懇願するが・・・

思考が昭和レベルな情弱巫女と、
中に人が入ってるんじゃないかと疑いたくなるほどに人間臭い熊が織り成す、
ゆるくもシュールな日常が今ここに開幕です。
現在アニメ版が放送中ののんのんびよりのように、
近代的な暮らしとは全く無縁な田舎を舞台としているのですが、
本作は更にド田舎感が満載。
一応電気とか水道くらいのインフラ程度は整っているようだけども、
文字通り山奥と言うにピッタリな感じですね。
都会こそ正義、田舎に住んでるなんてわけがわからない、
まちさんの考えが終始一貫しているため、
キャラに対して感情移入してしまうが故に、
この手の作品を読む度に感じるノスタルジックな感覚とか、
住んでみたいと逆に憧れるような気持ちが全く起こらないのが逆にすげぇ・・・
やっぱりこれくらいの年頃で地方に住んでると東京とかに対する憧れってすごいからなー。
帯書きの時点からして田舎はクソとか全力でdisってるし。
と、是非とも都会行きの夢をかなえてほしいと思うと同時に、
絶対この娘は地元から出ちゃいかんと心配になってしまう危なっかしさが共存し、
空回りし続ける願望は一体どこへと向かうのか実に楽しみです。


都会の常識は田舎では非常識。
とにかく凄まじいのが憧れている割には知識が皆無な、
まちさんの頭の中で描かれるズレまくった思考の数々。
マルイのロゴの読み方とか、
確かに住んでる場所に係わらず同意できることもあるんですけどね。
「○I○I」とか何も知らなきゃ「おいおい」って読んじゃうよなー。
ロゴとセールの年を掛け合わせた「2○I○I」なんて今でも解読不能だし、
言われてみるとソシャゲのレアリティ「SSR」が
「ダブルスーパーレア」って読むくらいに難解だと気付かされました。
このあたりはマジギレしちゃう気持ちもわかるかも。

一話目からしてそんなやり取りでインパクト十分なのに、
そもそも巫女としてもかなり際どいという見た目以上に壮絶なまちさん。
ダイエット用のエクササイズで神楽はあかん・・・
そう言えばどこぞのアイヌ巫女は、
現代社会では淘汰されて生きていけないってプロフィールがあったなー。
絶対都会に馴染めそうにないのは何となくそれに通じるものがあるかも。
どことなく見た目がアイヌっぽかったり、相方が熊だったりして、
妹の氷使いが背景モブだった時代を連想しちゃったりもするし。
でもまちさんの場合、某アイヌ巫女と言うよりも昭和のおばあちゃんに近いかも。
ユニクロヒートテックを買いに行くミッション(中学生版はじめてのおつかい)で、
まず最初に着て行く服が無いとか哀れすぎるなんてレベルじゃない。

名前の語感だけで電気行火のこととか本気で思い込んじゃう、
そもそも「行火」なんて発想すること自体相当キてますって。
何とか買えたら買えたでサイズのシールもはがさないまま、
超ドヤ顔で巫女装束の下に着込んで完全にババシャツ状態。

人って自分の身の回りの生活に根付いてないことってどこまでも無知になれるんだなぁ。
同じ国のはずなのに外国が舞台のような感覚さえ覚えましたよ。
方言とかが出てきてるわけでもないのにここまでギャップを感じさせるのはすごいです。


見た目は猛獣、中身は常識人。
とても年頃とは思えないまちさんのぶっ飛んだ思考のナチュラルボケに対して、
冷静に受け止めてツッコミを入れたりするナツさんが何気に頼もしい。
普段は漫才のような掛け合いを見せてくれる中において、
まちさんが無謀な行動を起こしたときにはしっかりと諭したり、
時には保護者のように接する一面もあったりするし、やだ、何この熊格好いい。
その実行力たるや冬の間会えないのが寂しいからと、
望まれたので冬眠しなくなったとか自らの生態をも捻じ曲げるほど。

ここまでカリスマ性を備えた熊のキャラって、
某プニキくらいじゃないですかねぇ。
言葉を喋るのみならず文字の読み書きもできるし、二足歩行だってできちゃう。
しかもプニキほどデフォルメもされてなくてややリアル寄り、
むしろ鉄拳シリーズの世界に近い光景。
絵面だけならとんでもなくシュールな光景なのに、どこか和んでしまう。

最近アメリカでグリズリーを赤ちゃんの頃から10年間育てて、
2メートル超の巨体となった今では立派な家族になってるってニュースを思い出した。

ああいう話が現実にあるなら本作みたいな光景もあながち有り得なくもないのかな。