【第91話】 デジタルラジオのかたち・私論 (その12)

■ ラジオの衰退の原因は何か!
 前項では、民間放送全体の事業背景に、利益追求と制作力の低下が根底にあったのではないか、ということについて触れた。ここでは、ラジオ衰退の要因であるラジオ広告費減少の推移とリスナーのラジオ離れについて、どのような経緯を辿ったかについて見てみたい。

(1) 民間ラジオ広告費減少の推移
 民間ラジオの広告推移が前年度を低下した事象は2度あった。1つ目は1962年以降、ラジオがテレビを下回った時期。これは民間FMラジオが登場する前のことである。戦後の苦しい生活を乗り越え所得倍増の掛け声の下に、国民が経済成長に向けて動き出した時期でもある。この時期1962年から1965年まで対前年度を下回り続けた。テレビの登場によるラジオの聴取変化に、ラジオは対応できなかったからだ。2つ目は1991年以降である。この年のラジオ広告費は2406億円とピークを迎え、その後長期的に減少を続ける。前年度比プラスとなったのは3回ほどあったが回復の兆しは訪れず、大幅な減少は2005年ごろからで減少幅が大きくなり、2007年(△8.6%)2008年は1549億円(△10.4%)、2009年は1370億円(11.9%)となっている。1992年のピーク時の56%まで減少している。(数字は電通「2009年日本の広告費」より)

 このラジオ広告費の減少はなぜ起こっているのか。2000年以降インターネットの普及により、ラジオ広告費がネット広告へ移行した、というのが最大の理由となっているが、単にそれだけであろうか。どんな事業でも栄枯盛衰は世の常であるが、この10年間、ラジオはデジタル時代の中心であるインターネットへの対策をどのように取ってきたのだろうか。また、メディアの多様化が進行するなかで、「ラジオ離れ」が進行してきた現象にどのような対応をしてきたのだろうか、ラジオの衰退に結びついた原因はいろいろあると思う。次に「ラジオ離れ」について触れてみたい。

(2) NHK調査にみる「ラジオ離れ」
 リスナーの「ラジオ離れ」が言われ始めたのはこの5~6年ではなかろうか。営業成績の大きな減少時期と重なっている。この「ラジオ離れ」をラジオ業界は主に若者層であると認識していたようだ。確かに若者層の「ラジオ離れ」は著しいが、若者だけではないことを放送従事者は充分認識していたか。ごく最近首都圏における聴取率調査でSIU(セントインユース)が7%を割るというこれまでにない調査結果も出た。「ラジオ離れ」はNHKラジオを含めて全体的な傾向のようだ。

 2010年6月に実施されたNHKの「全国個人視聴率調査」では、NHKと民放合せたラジオ週間接触者率は41.1%で10年間の平均より2.1%下がっている。民放ラジオだけでは29.3%で10年平均31.1%より1.8%下がっている。しかし、10年間での推移は各年浮き沈みがあり、減少傾向とは受取りにくい。2010年以上数字が下がっていくようならはっきりするが、この調査による時点では判断しにくい。一方、若者のラジオ離れはこの調査でも出てきている。10代20代の男性ではラジオ全体でこの3年間減少している。10代が25%・24%・19%、20代が38%・30%・27%と急激に下がっている。ビデオリサーチによる調査でも若者の減少は明確に現れており、ラジオにとっては危機的状況になってきた。

 もう1つ、「若者のラジオ離れ」について独自の捉え方を提示し、これからのラジオメディアについて考えさせてくれる発言を紹介しよう。当ブログ第89話で取り上げた「グーグルに勝つ広告モデル」(岡本一郎著/光文社新書)のラジオの章で、著者はこう指摘している。現在“若者”といわれる世代が過ごした時代(1980年代半ば以降)の子供部屋はテレビゲームに占拠され、盟主であったラジオの座が奪われていき、「何となくラジオを聴く」「何となく聴いてしまうラジオ」の習慣が消えてしまった時代であった。そして「非常に恐ろしいのは、子供部屋におけるアテンションのシェアが奪われているということが、(ラジオ)経営上インパクトの大きい数値としてすぐでてこなかった、ということでしょう。変化が表面化したときは、すでに致命的な構造的問題になっていた、というのがこの問題の難しさです。」と。構造的問題として「ラジオ離れ」が進行していた現実を、これからどのように変えていくのか、ラジオの背負っている課題は大きい。

 この「ラジオ離れ」という現実に、ラジオ全体で取り組む姿勢が2010年7月に始まった。「NHK・民放連“音声メディアの将来に関する意見交換会”」である。その概要によると、喫緊の課題として「若者を中心とするラジオ離れ」と「端末普及を含む送受信環境整備」を取り上げ、双方が具体的実施案を検討することとなった。このほか「地域の安心安全に向けた災害時の放送対応」「デジタル環境の中での新たなサービス」などにも取り組むこととなった。NHK・民放が共に、「デジタル時代の音声メディアの独自の機能と社会的使命」や「リスナー・地域住民の多岐多様なニーズへの対応」を検討し、デジタル時代の音声メディアのあり方を模索していくことは遅ればせながら非常に大切で、速やかに推進し早く実りある成果を上げていてほしいものである。

 正しく「ラジオ離れ」として表面化した現在、どのように対処対応していくのか、NHK・民放連ともに早急な動くが開始されたことは喜ばしいが、全国のラジオに携わる経営者・スタッフもわが社のこととして取り組んでほしい課題である。当ブログのレポートが少しでも役立ちたいと願っている。(つづく)