連載小説「VS〜Vengeful Soldiers〜」

Site1−1 復活〜Wake Up Ghost〜

 ぼんやりと、視界が光に包まれる。
 目を開けると、天井の木目が見えた。
「気分はどうだ?」
 低い男の声で問われる。視線を転じれば、黒い着物を着た男がこちらを見ていた。
「お、俺……」
「まずは感謝の言葉だろう、狼坂亮介(ろうざか りょうすけ)」
 自分の名を呼ばれ、驚く亮介。
「な、何で俺の名前を……」
「調べる手段は幾らでもある。それよりも、感謝の言葉は無いのか」
「感謝って……」
 一体何に感謝すればいいのか分らない、というよりも、自分の置かれた状況もよく把握していない。
「せっかく、お前を死の淵から呼び戻してやったのだ、礼ぐらい言え」
「死の淵……?」
 この男は医者なのだろうか、と見遣る亮介。しかし、男の雰囲気から察するに、医者という訳でもなさそうだった。
「まあ、黄泉還ったばかりだから、記憶が追いついていないのだろうがな」
「黄泉還ったって、何が」
「お前が。ほら、自分の手を良く見てみろ」
 言われた通りに自分の手を見て絶句する亮介。
「な、何で透けてんだよ……」
「まだ “反魂” が完了していないからな」
 ハンゴン、という聞きなれない単語に首を傾げる亮介。しかし、自分の体が半透明になっているのは事実。
「んでよ、おっさん」
「おっさんとは失礼は、俺は赤金波哉(あかがね なみや)」
「名前はどうでも良いけどよ、俺はどうなっちまったんだ?」
 亮介の態度に少し不満顔の波哉だったが、すぐに表情を引き締め、亮介を見る。
「な、なんだよ」
「まずは思い出せ。お前が何故死んだのか」
「な、何で俺が死――」
 ――怒号、そして悲鳴。
「っ……」
 記憶の欠片が、亮介の頭を駆け巡る。しかし、はっきりとした像を結ぶ事はない。
「思い出せないなら、これを見せてやろう」
 波哉が、懐から新聞の切抜きを差し出す。受け取ろうとした亮介の手は、綺麗にすり抜けていった。
「まだ “反魂” が完全ではないと言っただろう」
「そのハンゴンって何なんだよ」
「 “反魂” とは、死者の魂に肉体を与え再び現世に呼び戻す術」
 床に切抜きを置きながら、説明する波哉。
「それがよく分んないんだけどな……」
「文句を言うな。とりあえずこれを読め」
 切抜きを指差す波哉。仕方なく、それに目を通した亮介の表情が変わった。
「俺が……路上の喧嘩で死んだって?」
「その通り。ちなみに、ここに書いてあるように犯人は不明。今も捕まっていない」
 波哉のありがたくない補足を聞きながら、呆然とする亮介。
「俺が……死んだ」
「その通り」
 肯く波哉を、まだ信じられない、といった表情で見つめる亮介。
「じゃあ、今の俺は何なんだよ」
「俺が、お前の魂を “反魂” させた」
 先程言われた“反魂”の意味を思い出し、波哉を睨みつける亮介。
「……何でだよ」
 死んだのなら、静かに眠らせてくれ。亮介のそんな視線を感じ取ったのか、波哉が笑みを浮べる。
「復讐したくはないか?」
 復讐。波哉の声がズンと亮介の心に響く。
「復讐……出来るのか?」
「条件がある」
 すっ、と指を立てる波哉。
「この世に居る間は、俺の配下となり、命令に従う事」
「おっさんの手下になれって事か?」
「嫌なら別にいい。お前が復讐できなくなるだけだ」
 波哉の視線が、亮介を射抜く。それを、ぐっと見返す亮介。
「復讐出来るんだな」
「それはお前の努力次第、だな」
「……分った」
 ゆっくりと肯く亮介。それを見て、ニヤリと笑う波哉。
「契約成立だ。夜月(よつき)、後は頼んだ」
「はい」
 そこで初めて、背後にもう一人居る事に気付く亮介。首を回すと、優しげな微笑が見えた。
「魂の契約はしかと見届けけり。さあ、目覚めよ屍人兵」
 見惚れるような黒髪美人の口から、静かに呟かれる言葉。同時に、亮介の体が確固としたものになっていく。
「おぉ……っと」
 半透明だった手が、ちゃんとした実体を持っている。ぐっっと握ると、ちゃんと感触もあった。
「……これで、生き返った?」
「あぁ」
 波哉が肯く。それを見て、次いで自らの体を見て、自分が黄泉還った事を認識する。ただし、死んだこともあまり認識できていなかったので、感動は無かったが。
「これで、お前は屍人兵となったのだ」
「シジンヘイ?」
「屍に人、それに兵士の兵とかいて屍人兵」
 静かな声で、夜月が説明してくれる。声の綺麗さが気になって、内容はよく分らなかったが。
「……つまり、俺はおっさんの兵士になった訳?」
「まあ、そうとも言うな。それで、まず基礎知識なのだが」
 言いながら、波哉が亮介の手を指差す。視線を落とすと、いつの間にか愛用の武器がその手に嵌められていた。
「俺のメリケンサック……」
「それが、お前の魂と肉体を繋ぐ“怨霊器”となる。それが壊れると、お前は二度と復活できない」
「……分った」
 怨霊器、なるものはよく分らないが、とにかく壊さないようにすればいいのだろう、と考える亮介。
「まあ、お前の精神力がある間は、防壁に護られているのでそう壊れる事は無いと思うが、万が一壊されないように、常に持ち歩け」
「あぁ」
 言葉を返しながら、ゆっくりと立ち上がり、体の動きを確認する亮介。何となく、生きていた時よりも体が軽い気がする。
「体の捌きが素人ではないな、格闘技でもしていたのか?」
「あぁ、親父が武道家でね」
 決して仲がよいとは言えなかった父子だったが、武道の腕だけは受け継がれていた。ただし、息子の方はそれを喧嘩に使っていたのだが。
「んじゃ、俺はさっそく仇を倒しに行くぜ」
「まあ待て、その前に色々案内する場所がある」
 波哉が夜月に目配せする。肯いて、夜月が亮介の手を取った。
「赤金荘に案内しますね」
「赤金荘?」
「お前がこれから住む事になる場所だ」
 座ったままの波哉が説明する。
「いや、俺には家が……あ」
「その通り」
 表情を曇らせる亮介に、肯いてみせる波哉。
「家賃その他は後で話す、まず住人に会って来い」
「おう……って、取るのか家賃?!」
「まあまあ、細かい事は気にしてはいけませんよ」
叫ぶ亮介にそう言って、笑顔で引っ張っていく夜月。女の細腕とは思えない力に少し驚きつつ、素直に引っ張られていく亮介。
一人になった部屋の中で、波哉が一人微笑を浮べていた。

後書き、とか

考え無しに始めてしまった連載小説。
一日10枚ずつで、一月で一冊分、とか考えてますが、さて、どこまで続くやら。
とりあえず、用語説明もろくに無く進んでいますが、まあ、その内明かされるという事で。