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黎明期フラストレヰション このページをアンテナに追加 RSSフィード Twitter

March 17(Wed), 2010

[]「神を見た犬」ブッツァーティ

神を見た犬 (光文社古典新訳文庫)

神を見た犬 (光文社古典新訳文庫)

 とつぜん出現した謎の犬におびえる人々を描く表題作。老いたる山賊の首領が手下にも見放され、たった一人で戦いを挑む「護送大隊襲撃」……。モノトーンの哀切きわまりない幻想と恐怖が横溢する、孤高の美の世界22篇。

 イタリアの作家の作品を読むのはこれが初めて。

 後書きにもあるようにここに収められている22篇は多種多様で、「七階」や「神を見た犬」、「小さな暴君」など心理描写巧みに人々を描く作品や「アインシュタインとの約束」や「秘密兵器」、「一九八〇年の教訓」といったショートショートっぽい作品、「戦艦《死》」や「護送大隊襲撃」など破滅への憧れに満ちた作品など様々。平凡なアイデアと言ってしまえばそれまでだが、どれも読んでいて楽しいと思える短編ばかりで良かった。

 司祭は、文字通り体を震わせている。そして、わがままをいう子どものように、大理石の床で地団太を踏んだ。

「それで、私は? 私は?」

 司祭は、絶望に打ちひしがれ、懇願した。この連中が、自分の魂を救済するチャンスを奪っているのだ。どいつもこいつも悪魔に連れていかれるがいい! どうやってここから逃げ出そうか。どうしたら自分のことを考えられるんだ? 司祭は、いまにも泣きだしそうだった。

「それで、私は? 私はどうすればいいんだ?」

 千人は下らない数の、懺悔を請う天国に飢えた者たちに向かって、司祭は問いかけた。だが、一人として司祭に構う者はいなかった。(「この世の終わり」より)

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