2013-01-24

「『映画　鈴木先生』…『普通』と格闘する教師」（読売新聞）
　→　http://www.yomiuri.co.jp/entertainment/cinema/creview/20130111-OYT8T00729.htm

　教師と生徒が互いに教え合いながら、成長する。そんな教育現場の理想を描こうとすると、どうしても、教訓的になり、現実離れしがちだ。
　中学教師を主人公にした本作もそうだろうとたかをくくっていたら、予想は見事に裏切られた。
　中学校で国語を教える鈴木先生（長谷川博己＝写真）は、自身の教育理論に沿って、理想のクラス作りを目指している。注目するのは、一見普通に見える、真面目な生徒たち。彼らは内面を抑制しながら、いい子であろうとしている。しかし、鈴木理論によれば、決して、それはマイナスに作用しない。真面目な生徒という役割を引き受け、演じきることで、世界を変えることができるというのだ。
　意表を突かれたようだが、なるほどと思う。これまで教師が向き合ってきたのは、素行不良の生徒たちで、映画もテレビドラマも両者の葛藤と和解を描いてきた。それが今や、表からは見えにくい、子供たちの内面と教師は格闘しなければならなくなった。犯罪を犯した若者を、「おとなしくて目立たない子だった」「あの子がそんなことをするなんて」と振り返る声をよく耳にするのは確かだ。
　このような、「なるほど」の連続が、本作を見応えあるものにしている。生徒会長選挙と学校立てこもり事件が軸になっているが、投票システムを巡る生徒たちの主張も犯人に立ち向かう生徒の訴えも真摯で、人を納得させる力がある。特に、人質になった小川という女子生徒の凛とした態度と彼女に共感する生徒や教師の姿には胸が熱くなった。
　堅苦しい教育映画ではない。長谷川が好演する鈴木先生は、危うい妄想を抱けば、喫煙室にこもりもする。聖人君子でないから、その言動も「なるほど」と思える。小川を演じる土屋太鳳を始め、生徒役の俳優も皆好演。教師役の富田靖子、でんでんらもいい。クライマックスは、狭い教室から屋上に場所を移し、映画的な運動感覚にあふれた、素晴らしい結末を迎える。
　本作はテレビドラマの続編にあたり、共に原作は武富健治のコミック。勉強不足を恥じながら、ドラマをＤＶＤで見て、コミックを読んだ。両者とも面白い。ドラマは視聴率が低迷したというが、果敢な挑戦が少数の人の目にしか触れられないのは惜しい。映画は多くの人に見られたらと思う。河合勇人監督。２時間４分。角川シネマ新宿など。

『映画「鈴木先生」』　http://www.tv-tokyo.co.jp/suzukisensei/

たまには邦画でも観に行くかな。

ドラマ版より。

今の学校教育は、我々が普段思ってる以上に手のかからない生徒の心の摩耗の上に支えられているんだ。
どんな生徒に対しても手が足りない中、教師たちは結局目立った問題を起こす生徒に多くの力を割かざるを得ない。
問題のない生徒は、おそらく潜在的に問題児への嫉妬心を抱いてるに違いないんだ。問題児の心の中に優等生への妬みが存在しているのと同じようにね。

さまざまな事情から多くを体験してしまった者はな。その分頑張って学習率を上げ、立派で素敵な大人になればいいんだ。
お前は、たくさんの教材を手に入れた。それを放りっぱなしにして、生きていく上での邪魔な重荷と考えるか。あるいはそこから多くを学び、人間性を磨く上での糧にするか。
すべてはお前次第なんだ。

「学び÷体験=学習率」

現代は、多様性の時代といわれている。
だが、果たしてそうだろうか？
確かに様々な価値観を自由に選択することが許されてはいる。
しかしその結果、ひとりひとりが自分に都合の良い意見に閉じこもり、他人の異なった意見に耳を貸さない。
個々の胸の中は結局、偏った考えに凝り固まって貧しくなっているんじゃないだろうか？
ひとりひとりがたくさんの価値観を胸に抱き、面倒で苦しくても向き合い、葛藤し、回りの価値観との共有を一生懸命探れば、
僕らには別の道が開けてくるはずなんだ。