シンガポール通信ー日本はシンガポールでどう思われているか

さて最後に、日本という国はシンガポールでどのように理解されているのかを、アンケートに基づき調査してみよう。

グローバル化の重要性の議論と同時に、よく言われるのが日本特殊論である。しかもこの場合の日本特殊論は、どちらかというと否定的なもしくは内向きの議論に片寄っているようである。いわく、日本は閉じた国である、日本人は国際化されていない、などなど。そしてその典型例が、日本ガラパゴス化論である。ところがガラバゴス化という言葉自体、日本で作り出されたものであって、海外で日本がガラパゴス化していると言ってもなかなか理解されない。第一ガラパゴスがどこにあってなぜ有名なのかを知らない人が多いのである。つまり日本ガラパゴス化論自体が日本人向けの閉じた論理なのである。

というわけで、日本特殊論はある意味で日本人が自分たちを卑下した論理になっている事が多い。それではシンガポールでは、日本という国はどのようにとらえられているのであろうか。これを調査するために、以下のような質問に答えてもらった。

・あなたは日本文化が好きかどうか。具体的にはどのような文化が好きか。
・日本は特殊な国と思うか。またその理由はなにか。
東日本大震災の際に被災地の人々のとった行動は日本人に特殊なものだろうか。

特に3番目の質問は、東日本大震災のときの被災地の人々の行動(お互いに助け合ったり食料の配給を辛抱強く待つなどの、組織全体を考慮した統制のとれた行動)に対し全世界からあのような行動は日本人にしか出来ないという賞賛の声が多く寄せられたのに対し、本当にそのように思われているのだろうかという疑問を私自身が持ったためである。

これらの質問に対し、以下のような結果が得られた。


1.あなたは日本文化が好きかどうか。具体的にはどのような文化が好きか。
好きです:     24名
(内訳)日本の伝統文化:   13名
    日本のポッブカルチャ:14名
日本をあまり知らない:3名


27名中24名が、日本文化が好きであると答えた。残る3名はあまり日本に関して知らないので答えられないというものである。ということは少なくとも、日本に対する悪感情というものは、この結果からは読み取れない。最近の竹島問題・尖閣諸島問題などを見ると、中国や韓国で同じ調査をすると異なった結果が出る事が予想されるし、シンガポールも戦時中には日本による統治を経験しているので、年配の世代は異なる感情を持っているかもしれない。しかし少なくとも若い世代は、純粋に日本文化が好きなようである。
また伝統文化とポップカルチャのいずれに惹かれるかという質問に対する答えは、ほぼ拮抗している。具体的な答えとしては、伝統文化に関しては日本料理、日本の着物、歴史的遺産、さらには日本の人間関係などに惹かれるようである。特に人間関係に関しては、テレビドラマ「おしん」をいまだに話題にして、このような古い時代の日本における人間関係に惹かれると答えた人が数人いた事が特に印象に残っている。

対してポップカルチャに関しては、やはり日本のキャラクタやアニメーション、コミックなどが好きだという意見が多かった。具体的には、日本のキャラクタが持つかわいさやアニメーションやコミックのストーリーが、ディズニーのそれに比較して複雑で深さを持っている事を指摘する答えが多かった。また一方で、斬新なストーリー展開を評価する人も多く、たとえば「ドラえもん」のようなストーリーを持ったコミックが日本以外ではほとんど見られないことを指摘する声があった。


2. 日本は特殊な国と思うか。またその理由はなにか。
特殊な国だと思う:  21名
(内訳)ポジティブな意味で:16名
   (礼儀正しい:9名、独自技術と伝統文化の融合:8名、勤勉:4名)
    ネガティブな意味で: 5名
   (英語が通じない:4名、クローズな文化:1名)
特殊な国だとは思わない:6名
(内訳)いずれの国も特殊性を持つ:  2名
   十分西欧化しており特殊ではない:2名
   日本特殊論は欧米的見方:    2名


さて最初にも書いたように、私達日本人はどうも自分で自虐的に「日本は特殊である」と思い込んでいるふしがある。果たしてシンガポールではどのように思われているのであろうか。答えを見ると27名中21名が特殊な国であると答えている。これだけ見ると「なんだ、結局海外でも日本は特殊と思われているのか」ということになるが、興味深いのはその内訳である。内訳を見ると16名がポジティブな意味で特殊であると答えている。具体的には、日本人の礼儀正しい行動様式、伝統文化を維持すると同時に独自技術を生み出す力、また日本人の勤勉性などを指摘している。つまり、日本人は良い意味で特別な国であると思われているのである。これは自信を持っていいことではないだろうか。

一方で、ネガティブな意味で日本が特殊であるという意見が少数ながら(5名)存在した。その大半は「先進国の中でほぼ唯一英語の通じにくい国だ」というものである。ホテルなどでは英語は通じるが、それ以外では東京・大阪などでも英語が通じなくて困ったという人が多かった。私はこの状況は急速に改善されつつあると感じているのであるが、実際のところはどうだろうか。


3. 東日本大震災の際に被災地の人々のとった行動は日本人に特殊なものだろうか。
そう思う: 27名
(内訳)本来そうあるべきだが実行困難:16名
    心構え・訓練が出来ている:   3名
    家族・地域とのつながりが強い: 3名
    仏教の影響による強い精神性:  3名
    献身の態度に感動した:     2名
そう思わない:0名


さて最後に、東日本再震災の時に被災地の人々のとった行動をベースとして日本が特殊かどうかを聞いてみよう。そうすると興味深い事に、この質問に対しては全員があのような行動は日本でしか見られないと答えたのである。質問2では少なくとも5人は日本は特殊ではないと答えておきながら、東北大震災の際の日本人の行為を見ると日本は特殊な国であると答えたくなるのである。

内訳を見てみると、本来あのような行動は人間としてとるべき行動であるが、実行が困難であるという答えた人が16人ともっとも多かった。これは理由を明確には述べていないのであるが、ともかくもテレビで流される映像などを見て素直に感動したということなのであろう。これは私が、この調査以前にもシンガポール内外で多くの人の意見を聞いて見た結果とよく一致している。

つまり辛抱強く配給を待ったり、体育館などのプライバシーのない空間で助け合いながら避難生活を送るという行為は、人間としてとるべき正しい行為だけれども実際に大災害のような緊急時には実現困難であり、それが日本において実現されている事に人々は感動したのである。その意味では全世界から賞賛が寄せられたというのは、日本人として素直に受け取り誇りにして良い事なのである。

具体的な理由に関しては一部の人が答えている。多い答えとしては、「日本では大災害に遭う確率が高いので普段から心構えや準備ができている」、「家族やコミュニティとのつながりが非常に強いので震災のような非常時にも絆に基づいた行動をする」「古くから仏教文化に接して来たため、高い精神性を持っている」などが得られた。いずれも一理ある意見であるが、それにしても今回の調査でもシンガポールの若者が口を揃えて日本人の震災時の対応を賞賛するというのは不思議と言えば不思議である。

震災からの復興もまだまだ不十分であり、経済状態も決して良くなく、日本全体にある種の閉塞感が存在していると言われている。日本の世界における地位はこれから低下の一途であるという意見も聞かれる。しかしこの調査結果からも明らかになったように、海外の人たちは日本人の精神性の高さを高く評価している。今後将来の日本が世界の中で果たすべき役割を考える時考慮しなければならない点であろう。

シンガポール通信ー桂離宮訪問

先週帰国した機会を利用して桂離宮を見学のため訪れた。桂離宮の名は小学校時代から社会科や歴史の授業でよく耳にした。いわく、日本で最も美しい庭園、建築家のブルーノ・タウトが絶賛した、などなど。しかしこれまで桂離宮を訪問する機会がなかった。

私はNTTに勤めた後、関西に移り住んで15年以上になる。5年前からシンガポールに主な居住地を移しているとはいえ、一ヶ月に一度は帰国しているのでまだ京都の住民のつもりである。ということは、大学時代を入れると20年以上京都に住んでいる事になる。20年以上京都に住んでいながら桂離宮を訪問した事がないのは、まあ言ってしまえばなかなかそのような機会がないからである。

桂離宮宮内庁が管理しており、見学するためには事前に申し込む必要がある。京都に住んでいながら桂離宮を訪問した事がないのは、事前の申し込みが面倒で、それがなかなかその気になれない理由かもしれない。

ところが今回、私の10年来の友人であるオランダのアイントホーベン工科大学のMatthias Rauterberg教授が来日する事となった。これは京都大学との学術交流協定締結が主な目的であるが、たまたまお盆休みで私が帰国している時期と合うため、京都を案内しようという事になった。とは言いながら本人は何度も京都に来ているので、普通の観光地はほぼ訪問済である。

何か特別な場所はないかと思っているうちに思いついたのが桂離宮である。何でも外国人が訪問する際は、外国人特別枠というのがあって直前に申し込んでも大丈夫らしいと言う事も聞いた(これは本当かどうか知らないが)。ということで無事私の帰国の日に合わせて桂離宮を訪問する事ができた。



桂離宮の入り口で記念写真。左からアイントホーベン工科大学のMatthias Rauberberg教授、京大の土佐先生のところにインターンで滞在しているMITのLaw Smith君、そして私。



約20人が1グループとなって、案内してもらう。案内者は宮内庁の職員と思われるが、大変ユーモラスな説明で楽しめた。ただ、日本語であり外国人は録音された説明をイヤホンで聴くだけである。Rauterberg教授に聞いてもとおり一遍の説明だとのこと。改善が求められる。



これは庭園の中央付近にある松琴亭という茶室の内部。市松模様のふすまが美しい。



松琴亭から池と対岸の書院を見る。桂離宮でも最も美しい風景の1つだろう。



これは笑意軒という名の茶室。



笑意軒で説明を聞く見学者。この日は大変蒸し暑い日で気温は35度近く。見学者はすでにかなり疲れ気味のようである。



笑意軒から圓林堂という仏像を安置するための堂を望む。



桂離宮の中心となる建物である書院。残念ながら見学者は書院の中には入れない。



書院から見た池と庭園。これも大変美しい風景である。



見学を終わって記念撮影。左から京大の土佐さん、私、Prof.Rauterberg。