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2009-11-06

トヨタのF1撤退の意味するもの

遅きに失した感はあるがやっとトヨタがF1撤退を表明した。F1レースの本家ホンダはすでに昨年撤退している(ホンダショック)。 これで日本の自動車メーカーは完全にF1レースから姿を消した。これは自動車産業にエポックを画する象徴的な出来事であると思う。

目一杯爆音を響かせ排ガスを撒き散らしてスピードを競うカーレースがエコの時代に逆行するのは誰の目にも明らかである。今やそれは悪と言ってよい。これからのカーレースは燃費競争、二酸化炭素排出低減競争、航続走行距離競争へとシフトして行くことだろう。


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私は11年半も前にトヨタから生まれたばかりの世界初のハイブリッド車プリウスを手に入れて未だに愛用している。今ではプリウスは時代の寵児で近く三代目が登場すると言うが、当時は自動車保険のセールスマンですらプリウスを知らなかった。私のプリウス10年についてはホームページに数編の記事としてまとめている(私のプリウス)。

三代目プリウスはプラグインと称して家庭用の電気で充電出来るという。これはある意味画期的なことである。何故なら家庭用の太陽光発電と組み合わせればプリウスのバッテリーは非走行時には電気貯蔵庫として使えることを意味している。電気は電力会社、工場、オフィス、家庭を結ぶネットワークであるから、将来的に家庭やオフィスの発電の余剰電気を電力会社が買い取る仕組みを作ればCO2削減に大いに貢献することになろう。

ハイブリッド車はガソリンエンジンを共用するが、バッテリーの性能がより良くなれば将来的に電気自動車(EV)に移行するだろう。そうなると自動車の概念は一変する。製造も簡単だし自動車はテレビや洗濯機と同じ家電製品の一つとなる。自動車メーカーは家電メーカーと同列に置かれるわけである。これは静かな産業革命と言ってよい。未来への楽しい夢でもある。いや夢ではなく現に中国やインドでも電気自動車が市販されていると言う。

しかし非効率な化石燃料に頼る火力発電では意味が無い。夢への鍵はより効率的な太陽光発電装置の開発であり、効率的に電気を蓄える軽量電池の開発である。現在パソコン、携帯、カメラなどの電子製品にリチウムイオン電池が普及しているが、より効率的でより小型大容量の安価な電池の開発は必要条件である。生き残りをかける自動車メーカーは今やその方向へと技術開発をシフトしているに違いない。

化石燃料の時代は終った。これからは太陽、風、水力、風力、地熱などクリーンエネルギーの時代がやってくる。グリーンエネルギー(バイオ燃料)は太陽エネルギー利用の一形態と位置づけられよう。これは大きな産業革命である。鳩山内閣が打ち出した25%削減宣言には産業界を始め国内で色々な批判があるようだが、私は先見性のある野心的な提案だと評価したい。さすがは理科系出身の総理大臣である。

電気自動車が加速する! ―日本の技術が拓くエコカー進化形― (Tech live!)

電気自動車が加速する! ―日本の技術が拓くエコカー進化形― (Tech live!)

電気自動車は日本を救う

電気自動車は日本を救う

2009-04-03

ハイルブロンの怪人

ドイツ南西部のハイルブロンで2007年夏に女性警察官が殺害された事件を含め、オーストリアなど隣国にも及ぶ計40件のさまざまな犯罪現場から同一女性のDNAが検出され、「ハイルブロンの怪人」と呼ばれていた。ところが今年2月以降、少年らが窃盗目的で学校に侵入した事件からもこの女性のDNAが検出されるなど、明らかにつじつまの合わないケースが続出。当局が改めて調査した結果、問題のDNAが、綿棒を納入していた業者の女性従業員のものであることが先月27日明らかになった。DNAの採取に使った綿棒がこの女性のDNAで汚染されていたのである。

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はてな?何処かで聞いたような話だが・・・ああ、思い出した。

昔研究所にいた頃の話だが微生物の培養液からある生物活性をもつ物質を抽出するのに成功した。ところがその物質の構造を分析してみたところ何とそれは培養基に使った大豆粉に含まれるフラボノイドというありふれた化合物だった。それだけではない。実験に使った器具のプラスチックから滲み出した微量の可塑剤に騙されたこともある。こんな失敗が科学の世界でも往々にしてあるのだ。

ちょっと古くなるが今もって決着していない政治にからんだ問題もある。北朝鮮に拉致された横田めぐみさんの遺骨のDNA鑑定である。日本の鑑定ではめぐみさんのものではないという結論が出されたが、何分にも非常に鋭敏なPCR法を使っているので骨を取り扱った人の汗などで汚染されたものである可能性は否定しきれない。この問題については以前に「なみへいのサイエンス」に書いた。

人の思い込みは恐ろしい。あくまで謙虚に科学に忠実にとこれらの問題は教えているようだ。それにしても綿棒に製造作業員の汗や唾が付着しているというのも感心出来る話ではない。 

2009-03-25

天の命ずるままに 生物発光と半世紀

昨年10月に「ノーベル賞雑感」を書いたが昨日ノーベル化学賞の下村脩さんの講演を聞く機会があった。標題は講演のタイトルである。講演会は化学関係の三学会と朝日新聞社の共催で東京国際フォーラムで行われた。お隣のビックカメラでは折からのWBCの決勝戦のテレビを見る人だかりで大変だった。

下村さんは私と同世代だし研究の分野も近いので私は特別関心が深い。原爆の長崎で終戦を迎え苦労して長崎医科大学で薬学を学んだ。分子生物学を志して教授に伴われて名古屋大学に江上不二夫先生を訪ねたが不在でたまたま立ち寄った天然物化学の平田義正教授が勘違いで受け入れてくれたと言う。これが発光生物との出会いだと言うから偶然の悪戯に驚く。

平田研究室で海ホタルの発光物質ルシフェリンを結晶として取り出した時の感激を述べられたが、これがきっかけでプリンストン大学のジョンソン教授に招かれフルブライト留学生として渡米し、ここでオワンクラゲの発光機構と取り組むこととなった。ジョンソン教授はこの発光もルシフェリンとルシフェラーゼによるものと固く信じており平田さんはこれを取り出すことを命じられたのだが、下村さんはどうしてもそれを取り出すことが出来なかった。そこで下村さんは原点に立ち戻り素直に一から光るものを取り出すことにして新しい発光タンパク質エクオリンとその脇役であるGFP(Green Fluorescent Protein 緑色蛍光タンパク質)の発見に辿りついた。この間ジョンソンとは気まずい関係になったと回想している。研究には時に思い込みや固定観念から離れ自由な発想を持つことが大事であることを示唆していると思う。

GFPそのものは発光しないがエクオリンの出す青い光を緑に変換するのがGFPで紫外線によって発光するこの性質が後に生物、医学分野で細胞や組織の標識に利用されるようになる。そのためにGFPが持つもう一つの重要な性質は発色団(発色に直接関わる低分子構造部分)がタンパクのペプチド鎖の中に組み込まれている事だった。通常はタンパクと発色団は別分子で一緒にくっつき合って始めて発光する。GFPではタンパクの中のセリンとチロシンの部分が自己酸化により環状になって発色団を形成する。 この特徴的な構造のため後にGFPの構造遺伝子をDNAに組み込み生体内で発現することが可能になったのである。現在ではこの発色団の構造を変えることで緑だけでなく赤や黄の色んな光を出す事が出来るという。

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下村さんは最初の渡米から3年後にいったん日本に帰国している。名古屋で保証されたポジションも悪くはなかったらしいが発光の研究を続けるには難点があったようで再渡米を決意している。随分迷ったが誰もアドバイスしてくれる人はいなかった。最後に奥さんに聞いた。奥さんが行くと言ってくれたので決めたと言う。人生の伴侶とはそういう人なのだろう。

意外にも半世紀もアメリカにいたのに下村さんはご自身で英語が苦手だと言う。80歳でも自宅に実験室を構え研究を続けている。好きだからやるという衰えぬ研究意欲にも驚くがアメリカの生活基盤の強さも羨ましい。日本にも未練はお持ちのようで、でも大学は雑用が多いから行きたくない。日本だったら良くは知らないが理研(理化学研究所)のような所が良いと言う。アドミニストレーションとは無縁の根っからの研究者なのだなあと思う。キノコの発光物質をやるのが次の夢だったが受賞で忙しくなりその夢は叶いそうもないと嘆いていた。

標題の「天の命ずるままに・・・」の”天”はNatureだと言う。 Let's learn from mother nature ! 我が意を得たり。


当日はWBCの決勝戦とかち合ったにもかかわらず会場は若い人たちで満席だった。「難しいことに挑戦して最後まで頑張れ」というのが月並みのようだが若者に対する下村さんのメッセージだった。スマートで目を引くような研究に流れがちな最近の風潮に一老研究者の言葉は重かった。

2009-02-02

人とバッタ

はてな、セロトニンと言えばヒトの脳内麻薬では?

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空を真っ黒に覆って群れ飛び農作物を片っ端から食べ尽くす砂漠のバッタの映像をご覧になった方も多いだろう。サバクトビバッタは低密度下では孤独相と呼ばれる通常の状態を保っているが、高密度になると個体間の接触によって群生相に特有な行進行動を引き起こし、数世代の後には群生相特有の形態に変化する。

英国オクスフォード大学のアンスティーさん達は混みあいによる後脚の接触刺激で群生相のバッタではセロトニンという物質が胸部神経節に増加しておりこれが群生相行動の引き金であることを見つけた。この論文は米科学雑誌サイエンスの1月30日号に掲載された。

Serotonin Mediates Behavioral Gregarization Underlying Swarm Formation in Desert Locusts

Michael L. Anstey et al., Science, 323, 627-630 (2009)

セロトニンと言えばヒトの視床下部でアミノ酸であるトリプトファンから作られる脳内物質で快感や満足感、幸福感をもたらす物質として知られている。人もバッタも同じ物質でコントロールされているのか?そう言えば人の群れたがる行動、例えば群集の中にいれば安心していられると言う心理はどこかバッタに似ているようにも思える。

でも驚くには当たらない。サイクリックAMPという小分子は人の細胞内の情報伝達をつかさどるメッセンジャーだが何と原始的な粘菌の集合シグナルでもあるのだ。所詮人間もバッタも単細胞のバクテリアから進化したものであり生命の仕組みはバクテリアから受け継がれて来たのである。

なおこのセロトニンによる群生化の仕組みが解明されたことでバッタの大発生を防ぐ方法が生まれるかもしれない。

2009-01-30

もう手遅れ?地球温暖化

はてな、地球温暖化否定論者は喜ぶのだろうか?

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二酸化炭素による地球温暖化はすでに回復可能のレベルを超えており、たとえ今二酸化炭素の排出をゼロにしたとしても今後1000年は地球はゆっくりだが気温上昇を続けるというショッキングな論文が米国科学アカデミー紀要2月10日号に掲載された。著者は著名な気象学者、米海洋大気局研究所のスーザン・ソロモンさん他3名である。論文のタイトルは「二酸化炭素排出による不可逆的気候変動」。ソロモンさんは2007年にアル・ゴアさんと共にノーベル平和賞を受賞している。

Susan Solomon et al., Proc. Nat. Acad. Sci., 106, 1704-1709 (2009)


論文によると二酸化炭素の排出が無くなれば二酸化炭素による温室効果は減少するが海洋による熱の吸収は大変遅いので気温は少なくとも1000年は大きく下がることはない。また今後100年二酸化炭素の排出を今のレベル、容量にして100万分の385ppmv(100万分の385)から450−600ppmvに増加した場合、世界の数箇所で乾期の降雨量を減少させ、海面の上昇は避けられない。21世紀中に排出が600ppmvを超えると海面上昇は0.4−1.0m、1,000ppmv以上だと0.6−1.9mに達するという。さらに氷河や氷床の融解の影響はこの論文では不明だが数mの上昇をもたらすだろうと述べている。

見方によってはむしろ温暖化否定論者を喜ばせるような内容だが、もう手遅れだから傍観するほか無いのか?いや人類の叡智を結集して事に当たらなければならないことは確かだろう。深刻な警鐘と受け止めるべきだと思う。

2008-10-13

ノーベル賞雑感

はてな?湯川さんに始まる日本人の受賞者は何人になったのだろうか。いっぺんに四人もの日本人がノーベル賞を受賞した。おめでたいことである。

物理学賞の対象となった小林誠さんと増川敏英さんの論文は35年前、その研究の先導となった南部陽一郎さんの論文は48年前の発表だった。一方化学賞の対象となった下村脩さんの研究はやはり46年前に発表した論文である。遅きに失したと思う人も少なくないかもしれないが、このことは基礎研究というものの本質をよく物語っていると思う。私は素粒子の理論物理はまったく門外漢だが、クラゲの蛍光蛋白の下村さんの研究については感じるところがあった。

ゆらゆらと揺れながら緑色の妖しい光を発するクラゲ、下村さんはこの光の虜になった。生物発光の研究で名高い名古屋大学の平田教授の研究室でウミホタルのルシフェリンの研究で学位を取った下村さんはプリンストン大学に籍を得てジョンソン教授のもとでクラゲの研究を始めた。ワシントン州の海岸でオワンクラゲを集め1万匹のクラゲから光る物質の抽出を始めた。苦心して精製した末発光タンパク質を発見した。この物質はGFP(green fluorescent protein)と名付けられた。同時に取り出されたエクリオンというタンパク質の出す青い短波長の光をより長波長の光に変換するタンパク質であった。むしろエクリオンの研究の副産物とも言える。その後の発光の仕組みを明らかにする研究に延べ75万匹ものクラゲを使ったと言う。研究の協力者は家族だった。奥様や子供たちも手伝って近くの海岸でクラゲを営々と集めたのである。

「これがこんなに役に立つとは思ってもいなかった」と下村さんは語る。1992年にGFPの合成遺伝子が見つかり、それを細胞に組み込むことで紫外線を当てると細胞が光りその動きが眼で見えるようになった。がん細胞やアルツハイマーの神経細胞などの生体内の挙動が眼で見えるようになったのである。今や医学生物学研究や臨床の欠かせぬツールである。でも研究の端緒は一人の研究者の素朴な自然を見る目だったのである。最初から実用を目指す研究は多い。でも本当に新しい概念や飛躍的な応用をもたらすのはこのようなノンプロフィットの基礎研究である。

現在は大学から引退したが自宅の地下室を実験室にして光るキノコの研究を続けているという80歳の下村さん、奥様は何十年も彼の実験助手を務めているという。何とハッピーな生活ではないか!人は年齢ではないと実感する。

「クラゲは何のために光るのですか?」インタビュー記者の質問に"I don't know. Ask jellyfish !"と素っ気なく下村さんは答え、皆がどっと笑った。推量や憶測はあえて述べない下村さんの控え目な人柄がにじみ出ていると思った。

思い出したことがある。もう故人となったが私の友人が1963年にカリフォルニア大学で綿の落果ホルモンを取り出した。奥様と小さなお嬢さんの三人で毎日綿の実を割ったと彼は語った。論文を書いたら妻と娘に感謝すると書きたいとも語っていた。このホルモンはその後すべての植物に普遍的に存在する植物ホルモンとして世界中で植物研究に使われている。

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物理学賞の三人の日本人の理論もその評価には半世紀にわたる長い道のりがある。今世紀になって彼等の理論を実証する実験結果が出始めたところである。この研究などは宇宙創生を説明するという遠大なものでどんな役に立つのか私には想像もつかない。

意外だったのは増川敏英さんはまだ日本から外に出たことが無いそうでこれにはびっくりした。外国人との交流が無くても本当に独創的な研究は出来るのだなあ。共同研究者の小林誠さんの奥様の談話でやはり奥様は外国旅行は始めてでそれがノーベル賞授賞式とは嬉しいと話しておられた。そんなものなのだなあ。

印象に残ったのは益川さんが「大して嬉しくありません。私の理論が実証されたのは2002年でそれは嬉しかったが、ノーベル賞は社会的なイベントだから」と押しかけた記者たちに人を食った感想を述べた。でも一夜してあらめて記者会見した時、南部陽一郎さんと同時受賞の感想を求められると「南部先生は私の仰ぎ見てきた先生だった。一緒に受賞するなんて・・・」と感極まって涙が溢れた。余程大先駆者87歳のの南部さんを尊敬していたに違いない。1960年に発表された南部さんの論文をしゃぶりつくしたと言う。

2008-10-05

迷路を解く粘菌がイグノーベル賞に!

はてな?粘菌が迷路を解く!ああ、そうそう8年前だった。英科学雑誌Natureで読んで「なみへいのサイエンス」に紹介したのを思い出した。その日本人による研究が今年のイグノーベル賞を受賞したと先だっての朝日新聞に出ていた。

粘菌をご存知だろうか。単細胞のバクテリアだが環境が悪化すると集合して変形体とよばれる多核のアメーバ状の集合体をつくり餌を求めて動き回る。さらに環境が悪化すると子実体となり胞子をつくる。高校の生物で習う粘菌のライフサイクルである。

モジホコリという粘菌の変形体を図のような寒天で作った3cm四方の迷路に一様に生やす。そして迷路の入口と出口に食べ物を置くと、粘菌は行き止まりの壁から体を離して移動し入口と出口を結ぶ最短の道を繋ぐ形になる。この間8時間、実に効率良く迷路の問題を解くのである。「細胞によるこの驚くべき解決法は、細胞レベルの材料が原始的な知性を示せることを意味する」と著者の中垣さんはこの論文を締め括っている。

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イグノーベル賞 (Ig Nobel Prize) とは、「人々を笑わせ、そして考えさせてくれる研究」に対して与えられる賞でノーベル賞のパロディ的な賞で、1991年に創設されたという。ふざけた賞という印象で今まであまり関心はなかったが、こんな真面目な研究に与えられることを知って満更でもない気がした。そう言えばたしか去年も牛の糞からバニラの成分であるワニリンを抽出した日本人女性に与えられたのを思い出した。

ところでこの面白い研究はその後の8年間でどんな進展があったのだろうか?この実験は細胞から細胞へ情報の伝達が行われている事を意味している。急に気になって来た。