なみかわみさきの日記 このページをアンテナに追加 RSSフィード Twitter

2009-01-10 「空から女の子が降ってくる」小説を書いてみた

[]空から女の子が降ってくる

これは、人力で「【降臨賞】空から女の子が降ってくるオリジナルの創作小説・漫画を募集します。」(question:1231366704)というのがあって、書いたものです。*1 *2

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そのMDケースは、あとで「みちる」の部屋の小さなレターケースから見つかった。レンタルショップで見つけて、適当なMDにダビングしたけど、初めて聴いた時に、1曲目からすごくびっくりして、それでもう、何度も聴いている−−まだみちるや僕が、お揃いのMDプレイヤーに買い替える前に言っていた話を、また思い出した。

らん、ららん……、らん、ららん……。みちるは最初の方をそう歌いながら、僕があげたビー玉をカツカツとモスのテーブルで叩いた。何度かはそのまま転がして、僕はポテトの塩をあわてて拭いてから、こぼれるビー玉を拾った。ふふふ、みちるは笑ってくれた。

かなり前のことなのに、はっきり覚えているのは、やっぱりアニメだったからかな? 悪役のメガネが無くなったところとか、よたよたしながら盗賊一味が全員無事だったこととか、そう、あの朝のラッパとか−−みちるとあの話になると、みちるはいつもそう言った。海に行った時も、「捨てないけど、」とぶんとビー玉を投げるふりをした。その手がほどけそうで、僕はまたあわてて飛び出して−−ひざまで波をかぶってしまったこともある。その時もみちるは、ふふふ、と笑ってくれた。「楽しいことばっかり覚えて、嫌なことは全部、ここへ置いて行きたいけど、ね」

らん、ららん……、−−みちるは、家人から、時おり暴力を受けていてひどく落ち込むことがあった。新しく貼ったばんそうこうを、また見つけた。みちるの鼻歌が、とても軽く、海へすべっていった。

男として、守ってやらなくては、助けなければという思いと、みちる自身の強さを期待する思いとが、バイバイを言った後でいつも苦しく交差した。夏は蒸した息苦しさで、冬は肺が裂けるような息苦しさになって。就職してまだ1年だけど、結婚ほどの重さじゃなくて、みちるくらいなら一緒に暮らせる、という社会人っぽい青臭い自信がある一方で、みちるこそもう成人しているんだから、現状から逃げ出す術はいくらでもあるだろう、ここで僕が救いの手を差し出すことが、偽善だとか、みちるのこれからに影響を与えかねない、とちゅうちょもした。

「ん?」

何気なく僕が名前を呼んだと思ってふりかえってくれるみちる。−−家を出て、僕と暮らさないか、みちるが”おちつく”まで−−その日、低気圧が雨をいっぺんに雪にして、僕らの鼻先は冷え切っていた。

のどまでかじかんで、結局、そこまでは、言えなかった。「みちる、しんどい時は、ぜったい僕に電話して。ぜったい、ひとりで思い詰めちゃだめだからね」「……ん」

これが、最後の会話になってしまった。

ガシガシとどこまでも凍り付いた砂浜を走った。ふらついて転んで、それでも砂まみれになりながら、僕は”おえつ”をもらす。みちるはぽんと怖さとかつらさとかを越えて逝ってしまった。そんなところにだけ大人しい判断力なんて、いらない。

ふた月ほど経ってから、あらためてみちるの家を訪ねた。家人は僕がみちるの”近く”にいた男だとわかっていたようだった。だから葬式の時には言えなかった事も話してくれた。


つい魔が差して、と、今更反省してもみちるは戻って来ないですが、という失意を含めながらその人はみちるについてしばらく教えてくれた後、みちるの部屋に通してくれた。

手つかずのままで、わずかに開けた雨戸の間から、冬の終わりの明かりがほこりを浮き上がらせる。いつかみちるは、ここから小声で夜中に電話をくれた。その時部屋にあるものを紹介してくれたことを思い出した。まずドアの後ろには大好きなバンドのポスターがあって。買い換えたばかりのMDラジカセはベッドのそばにあって。そう、この前海で撮った写真、やっと現像したから机に飾ってみたよ。−−その通りに、みちるのものは、みちるのにおいを残したまま部屋にあった。

苦しかった? 僕は写真のみちるにきいた。どうして僕に最後に電話してくれなかったの? ちょっと目の下のくまを気にしていたみちるに問いかけた。机の上にきちんと並べられたガラスの小瓶に、ビー玉が入っていた。

−−静かな夜の海にも、花の香りが届いてきていた。夕方の小雨で、砂浜はさくさくと少しだけ混ぜ始めたクッキーの生地みたいに変わっていた。海風は、足下からゆらりと水気をとばしにかかる。

僕はポケットから小瓶を出した。

ここでいろんなことを話したみちるが、今ようやく海に来て、夜空に還って行った、ような気がした。−−これも僕が勝手に決めただけかもしれないし、みちるがほんとうに苦しかったのかどうかも、もう知る手段は無い。ただ、小瓶のなかのビー玉は、あの曲のような、固い音を鳴らした。


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  • 2009/01/11 一部修正しました。

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*1:文字数が1000字程度までとのことで、ここから削りに削ったのですが、結局1500字を超えている状態です。

*2:さらに、執筆時にしっかり見てなくて、同じ表現手法で投稿されている方がいらっしゃることにぎりぎりで気づきました。ごめんなさい。