東京の家主は「外国籍」がお嫌い? そして名古屋は?

大阪で勤めていた知人の中国人女性が東京に転勤になった。早速、東京に日帰り出張して、会社が紹介した不動産の仲介会社を訪れ、引っ越し先のアパートを探した。払える家賃は限られているから、そう便利なところには住めない。かと言って、通勤時間は片道30分くらいに押さえたい。やや難しい条件だったが、仲介会社の社員はなかなかに親切で、次々に候補のアパートを示してくれた。

このアパートはちょっと見てみたいな。あ、ここも・・・彼女も次々に候補を絞っていった。社員はそのひとつひとつについて家主側に電話している。まず「外国籍の方ですが、日本語は大変にお上手で・・・」と切り出している。が、社員の反応を見ていると、「そうですか」とやや元気のない声を出して電話を切っている。「外国籍は駄目」と断られたのだ。たまには「ありがとうございます」と弾んだ声を出し、「頑張ります」と、電話機に頭を下げている。「外国籍でも構わない」との返事があったのだ。

だいたいの感じで、候補のアパート10軒のうち8軒は断られている。彼女は日本で働き出して3年ほど、これまでは会社の寮に住んだり、会社がアパートを探してくれたりしたので、こんなことには遭わなかった。今度初めて自分で探すことになって体験した苦労だ。彼女の仕事はいわゆるインバウンド関連。日本は外国人に対して「ぜひ旅行に来て下さい」と誘っておきながら、一歩進めて住んでみようとしたら、「外国籍お断り」。ちょっと「変」ではないか? 最終的にはまずまずのアパートが見つかったのだが、彼女は涙が出てきそうになった。

――そんな話を聞かされて、僕の中国での体験を思い出した。彼の地では外国籍を理由に入居を断られたことは一度もなかった。また、日本で外国人がアパートを借りようとしたら、法務省発行の在留カードを見せたり、何かと面倒だが、中国での僕にはその種のものは何もなかった。持っていたのは6カ月の観光ビザだけ。それも見せなくていい。こんないい加減なことで大丈夫だろうか、テロリストにどう対処するのだろうか。そう心配になったくらい、おおらかだった。

日本の家主が外国人を嫌うのには、それなりの理由もあるだろう。外国人1人にアパートを貸したら、なんと8人が住んでいて、家主がたまげた、といった話を聞いたことがある。多分、それは中国人ではないかと思うが、僕も中国で似たことをやっていた。広西チワン族自治区の南寧にいた時のこと、借りたアパートが広間1つに部屋が3つと広かったので、うち2部屋を塾の生徒4人に貸していた。家賃もちゃんともらっていた。家主のおばあさんが時々、孫を連れて遊びに来ていたが、何も言わなかった。そもそも中国では言うはずもないことなのだ。

また、中国では日本のように、1人暮らしの若者に向いた1Kとか1DKといったアパートがあまりない。アパート、マンションと言えば、たいてい広間が1つに部屋が2つか3つという奴だ。若者がこれを1人で借りるのは無理だから、家主も1部屋ずつ貸し、そこに若者が1人か2人ずつ住むという形になる。台所やトイレ、シャワーは共用だ。別々の部屋に住む若者たちは顔見知りのこともあるし,そうでないこともある。こちらの部屋には女の子、隣の部屋には男の子、なんてこともある。

ちょっと目先の利く若者なら、まず自分でアパートを1軒借り、自分の使わない部屋は他人に貸して家賃を取る。自分はカーテンで仕切って広間の一角に寝てもいい。うまくやれば、自分は実質ただで住める、あるいは少しながら儲けられる。現に、僕の塾の生徒にもそんなのがいた。

話が少し脱線したけど、家主の外国籍嫌いは全国共通のことだろうか。僕は塾の生徒が「留学したい」と言い出したら、だいたい名古屋の大学を薦めてきた。同地には親しくしている教授もいるせいだけど、その名古屋ではまだ「外国籍お断り」に遭遇したことがない。4年近く前、留学生2人を連れて不動産仲介会社に行った時も、そんな話は全くなく、すぐにアパートが決まってしまった。

その際、同行してくれたのが、ずっと前にハルビンの大学で教えた女性で、名古屋で大学院を出た後、そのまま名古屋で働いていた。今は名古屋を離れているが、最近、東京で会って食事をした。その折、「外国籍お断り」の話をしたら、「えっ、東京ではまだそうなんですか?」と驚いていた。

この春、やはり名古屋に留学させた教え子の女性に「アパート探しに困らなかった?」と聞いてみた。返事は「名古屋も外国人にはあまり貸したくない傾向かも知れません。ただ、私の場合は教授が保証人になって下さったので・・・」と前置きしながら、「4年間、借りると言ったら、月に1000円、安くしてくれました」との返事。あまり苦労はしなかったみたいだ。

例が少なすぎて、確かなことは言えないが、プロ野球中日ドラゴンズの最下位、サッカーの名古屋グランパスのJ2落ちと、最近はいいことのない名古屋だけど、決して捨てたものではない。東京よりずっと「普通」ではないだろうか。