謹賀新年 台湾のパンダ

明けましておめでとうございます。
本年も駄文にお付き合い下さいますよう、お願い申し上げます。

恒例により、というほどではないのだけど、今年も新年を台湾・台北で迎えた。宿泊先は1年前と同じ「朝夕食つき」の民泊である。気に入ってしまった。

日本は今、「上野動物園」のパンダの赤ちゃん「シャンシャン」で大いに盛り上がっているそうだ。聞けば、当地の「台北市立動物園」にもパンダが3頭いるとか。さっそく見に行ってきた。

台北動物園の入場料は60元(1元≒3.8円)。上野動物園の600円に比べて随分と安い。半分以下である。しかも、入場券売り場の掲示を見ると、65歳以上は無料である。窓口のおばさんに僕の年齢を伝えると、証明書を見せろと言ってるみたいだ。パスポートを見せた。たちどころに、英語で「ノーディスカウント」、日本語で「60元」という返事が戻ってきた。掲示をよく見たら、無料は台湾人に限るとのこと。台湾では、老人優遇は国立の施設だと外国人もOKのところがあるが、市立などでは台湾人限りが普通のようだ。
 
入り口で紙切れを渡された。「大猫熊館参観券 入場時間14:40ー 14:49」とある。「大猫熊」は「ジャイアントパンダ」のことだ。まだ正午過ぎで、パンダ館入場まで2時間半も待たなければならない。日曜日のせいもあって園内は随分と混んでいる。入り口から遠くはないところにパンダ館はあった(写真上)。2008年に中国から贈られた「団団」「円円」の夫婦がいるそうだ。

パンダはその愛くるしさとは裏腹に、中国政府が政治的に利用したがる動物でもある。ネットのフリー百科事典「ウィキペディア」の受け売りなのだが、中国から台湾へのパンダ寄贈は親中政策をとる国民党の馬英九政権の時だった。団団と円円の頭文字をつなげると「団円」になる。これは中国主導の統一のプロパガンダだとして、台湾では反対も多かったそうだ。

パンダ館のすぐ隣、道路わきの野外の檻(おり)にも1頭のパンダがいた。2013年に生まれた雌のパンダ「円仔」で、人だかりがしている(写真下)。僕も結構パンダ好きなようで、その前を30分ばかりうろうろしていた。ただ、人だかりと言っても、みんながみんな押し寄せてくるといった感じではない。横目でパンダをチラと見ながら、あるいは全く無視して、通り過ぎていく人も少なくない。「反中国」の気持ちも影響しているのだろうか。

そのパンダのことを大陸の中国では「熊猫」、ここ台湾では「猫熊」と呼ぶのが一般的なようだ。僕が以前に聞いた話では、中国でも本来は「猫熊」と呼んでいた。確かに、図体から言えば、猫熊がふさわしい。ただし、昔よくあったように、それを右から左に向かって書いていた。つまり、左側に「熊」、右側に「猫」である。

そこへ西洋人の学者がパンダの調査研究にやってきた。彼らは文字が右から左へ書かれているとは考えず、左から右に「熊猫」と読んだ。おかげで、本来は「猫熊」であるべきパンダが「熊猫」になってしまった――納得できるような、できないような話で、真偽のほどは分からない。

台北動物園ではパンダ館入場までの間、園内をうろつくことにした。この動物園は都心からそう遠くはない丘陵地帯に広がっている。感心したのはその広大さだ。上野動物園の十数倍もあるとか。2時間ではとても回り切れなかった。

また、園内を歩いていて、動物たちの檻を巡っている感じがしなかった。どう表現したらいいのか。例えば、密林の中に人が通る道があり、そこを歩いて行くと、道のわきに動物が現れる。そうとでも言ったら、いいのだろうか。動物たちはしょせん、囚われの身ではあるけれど、上野動物園などの連中に比べると、少しは自由を謳歌(おうか)している印象を受けた。広大さのせいでもあるだろう。

やっと入ったパンダ館。ガラス越しのパンダの夫婦はどうってことはなかった。野外で子供のパンダをたっぷりと眺めたからだろう。さっき見てきた象や虎など他の動物たちに比べると、室内に束縛されているのも気の毒だった。

パンダを見ながら、ふと思い出した。日本に留学などで来ている中国人の教え子から聞かされたボヤキである。「『中国にはパンダはいるの?』って、尋ねられることがあるんです。仕方なく『ええ、たくさんいるわよ』と答えると、『エッ、中国には動物園もあるの?』ですって」。笑って済ませられる話でもない。

たかがパンダ、されどパンダ。人間たちのせいで、何かと話題に事欠かない動物である。