なんのこっちゃ 台湾人の「親切」と「不親切」

台北から台中、台南を経て高雄まで、台湾を縦貫する高速鉄道(台湾版の新幹線、略称は高鉄)には、外国人向けに「3日間、乗り放題2200元(1元≒3.7円)」という割引切符がある。外国人観光客を呼び込むのが狙いだろう。台北から高雄まで1回往復すると3000元以上だから、随分とお得である。見にくくて申し訳ないけど、下の写真の赤い線がその鉄路で、台北―高雄の所要時間は早い列車で1時間半ちょっとである。

そこで、「乗り放題」を使ったケチな旅行を計画した。まず、1日目は台北―台南を往復する。民泊先に戻るのだから、ホテル代が助かる。2日目は台北からまた台南に行き、夕方にさらに南の高雄に行く。台南から高雄までは10分ちょっとだ。でも、夜になって台北に戻るのも疲れるから、高雄で1泊800元、日本円で3000円ほどの安ホテルに泊まり、3日目に台北に戻ってくるという計画だ。

旅行の数日前、駅まで切符を買いに行った。民泊先の奥さんが親切にも付き添ってくれた。申し込んだ切符は1日目が台北―台南往復、2日目が台北―台南、台南―高雄、3日目が高雄―台北の計5枚の指定券である。

けっこう時間がかかったが、女性の駅員が渡してくれた5枚の切符を見ると、すべて車両は「7号車」、座席は「11E」で統一されている。外国人の老人が毎回、車両や座席を探し回らなくても済むようにと、気配りしてくれたみたいだ。いざ、列車に乗ってみると、11Eは窓側の席で、そばには「緊急出口」の表示がある。窓をたたき割る金づちもそばに置いてあった。

2日目に訪れた高雄で夜、ホテルに薦められた人気の牛肉麵の店に行き、牛肉麵と瓶ビールを注文した。.まずやってきた台湾ビールを飲み始めると、隣にいた相席の男性が僕のビール瓶を指差し「賞味期限を2カ月も過ぎているよ」と言う。

もちろん、その北京語(当地の国語)がはっきり聞き取れたわけではないが、「2カ月」だけは分かった。そこで、瓶の下のほうにある小さな表示を見ると、確かに賞味期限を2カ月あまり過ぎている。でも、この男性はなぜ、ビール瓶のこんなところにすぐ注目したのだろうか。ちょっと不思議でもある。

あたりを見回すと、アルコールを飲んでいる客なぞはひとりもいない。あまり売れないので、ついビールが古くなってしまったのだろうか。この店は客がいっぱいで、席を見つけるのが大変だったが、お姐さんが親切に案内してくれた。そんなこともあったので、古いビールについて、文句は言わなかった。

3日目の夕方、戻りの高雄駅で食堂に入り、ここでも牛肉麵を注文した。ほどなく、どんぶりは運ばれてきたが、箸がない。お姐さんに「箸は?」と聞くと、黙って店の隅のほうを指差す。見ると、台の上に箸がまとめて置いてある。そこまでに10メートルやそこらはあるのに、自分で取ってこいというのだ。

店には客はあまりおらず、閑散としている。こんな不親切な店だから、客がこないのも当たり前だ。そう思ったのだが、食事を終えてから他の店を1軒、2軒とのぞいてみると、やはり箸はどこか1カ所にまとめて置いてある。どういう事情があるのだろうか。ただ、列車の出発時刻が迫っているので、取材はまた今度のことにした。

鉄道の話に戻ると、台湾には高鉄と台湾鉄路(日本の在来線にあたり、略称は台鉄)がある。どちらも65歳以上の老人は運賃が半額だが、対象は台湾人だけで、外国人には適用されない。鉄道の経営状態も影響しているのだろうが、こんなことで外国人の老人を差別するのは、いかがなものであろうか。

一方で、さっき書いたように、外国人でさえあれば、「3日間、乗り放題2200元」という高鉄のサービスもある。台湾の鉄道は親切と不親切が同居しているみたいである。

ところで、僕の経験だと、高鉄のほうは外国人に対して老人割引お断りを厳格に守っているけど、台鉄はそうではない。今回の台湾滞在中、僕は台鉄に7回乗ったが、切符売り場ではいつも「私は65歳以上です。老人割引でお願いします」と言ってみた。すると、7回のうち2回は「老人割引は台湾人だけです。外国人のあなたはダメです」と、わざわざ手でバツ印まで作って断られたが、5回は「ああ、いいですよ」と気軽に半額の切符を売ってくれた。5勝2敗といった感じだった。

たどたどしい北京語を話すのだから、僕を台湾人だと思うはずはないし、おそらく日本人だと思ったことだろう。でも、まあ、いいや、お客さんだから・・・と、規則を曲げてくれたのではないだろうか。外国を旅行していると、いろんな親切と不親切に出くわす。そして、台湾の場合は、それらの親切と不親切を差し引きすると、親切のほうがずっと多いみたいだった。