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なにさま日記

2017-02-23 現代伝説考05「特異な空間」

damasie

現代伝説考05「特異な空間」】

 

 ここで取りあげるのは、明確に仕切られた閉鎖空間ではないが、ほかとは違った特異な現象がみられるような空間である。まずは、荒唐無稽な噂の引用からはじめてみよう。

 

超能力研究所

《 所謂「深夜ドライブネタ

 「狭山湖周辺を深夜ドライブしていると、道端に[超能力研究所→]という朽ちた看板を見つけることがある。矢印の方向に車を進めると、

*突然の豪雨に襲われるが雨が止むと車は乾いたまま とか

*『ドーン』という車の屋根になにか大きなものが落ちた音と衝撃を感じるのだが、車は何ともないし別に大きなものも落ちていない

とか

*細い一車線の道で向こうからヘッドライトが見えるのに、いくら走ってもその対向車に近づかない

とかの不思議体験ができる。別に身の危険はないし、引き返せば元の道に戻れる」

 これは5〜10年程前に東京学生免許を取って深夜のドライブをしたくなる年頃)の間で結構広まっていた噂話です。》

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 この話のおもしろいところは、「超能力研究所看板」というひとつ創作だけで、不思議現象のおこる空間ができてしまう点であろう。なにしろ原因が「超能力なのだからいくらでも不思議現象の話はつけ加えていくことができるのである。そういう意味では、きわめて発展性の大きい噂であるといえる。

 

 このような超能力ではなくても、電磁力放射線といった目に見えない力のはたらく場が噂の原因となっている話は多い。

レーダー電磁波で』

《 成田空港開港前の話だったと思います。どこで聞いたのか、読んだのか忘れてしまいました。正確な話があったら教えてもらいたくもあります

 開港準備に取り掛かっているころの事だそうです。木枯らしが強く吹き付ける中、一日の仕事が終るった鳶職人さんが、コントロールタワー近くのビル屋上にやってきました。夕日が真正面に見える、眺めの良い場所です。そこで沈む太陽を見ていると、身体の芯からあたたまってくるようで、なかなか居心地が良かったのです。

 その後突然、一週間ほどして、その鳶職の人は亡くなったのだそうです。鳶職息抜き場所は、レーダーアンテナの正面。普段立入禁止区域です。言うまでもなく、レーダー電子レンジ類似の強い電磁波を使った機械です。そこは危険区域でもあったのです。》

 

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 われわれのまわりには、目には見えない電磁波が飛びかっているのは間違いない。しかしその人体への影響は、素人にはよくわからないしまたその量も測定しようがない。そんな不安が噂をつむぎだすのであろう。次のような、プラスにはたらく影響の噂もある。

 

『高圧電線で賢い子ができる』

《 私の前すんでいた町は,小さい町なのに,賢い子がようけでてます医者が2人に大学先生。これは,町の上を通っている高圧電線磁気の影響です。》

 

 また、放射線の脅威は一般に知れわたっている。したがって、原子力を取りあつかう機関についてはその安全性が強調される。それが逆に不安あおり噂の発生源にもなる。そしてまた、その内部情報がほとんど表にでてこないことも、噂を増幅するようにはたらくであろう。

 

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原発銀座道路遮断機

《 福井県若狭地方国道には、やたらと積雪用の遮断機が充実しているのは、原発事故の時に封鎖をするためだそうだ。(2年ほど前、国道27号線を走る車の中で、運転しているデザイン会社社員に聞いた)》

 

 かつての伝統社会では、内と外を明瞭に区画する結界があった。ところが上にしめしたような現代伝説では、そのような結界が目に見えなくなり、いつのまにかその結界を踏み越えて危険領域はいり込む不安を物語っているようにおもわれる。現代都市空間にも、そのような目には見えない結界が張りめぐらされているのではないだろうか。

 

 また、ファクシミリパソコン通信ネットなど情報伝達媒体の発達により、物理的には遠くへだたった地域も瞬時につながれることになり、独特の特異空間形成されている。この論考もパソコン通信で集められた噂が素材となっているが、つぎの例はファクシミリで全国に広がっている噂である。「電子伝説」とでも名付けるべき、あらたフォークロアであろうか。

関西当たり屋ファックス1』

《 また、「例のFAXネタ」に関しては、わたしがかつて勤務していた会社にも同じFAXが流れてきたことがありましたので掲げておきます

 2〜3年前でしたね? あれが流行ったのは。どなたかがおっしゃっていたと同様の文面「関西方面からクルマの当たりや集団関東方面首都圏?)に進出してきているので十分気を付けましょう」が、送付者名なしで流れてきました。 車種は忘れましたが、「白いクラウン」「泉州ナンバー」(こんなのありましたっけ)などと特定されていたと記憶しています。総務の女性東京下町に生まれたときから住んでいる)が、さかんにいろいろな人に宣伝して回っていました。》

 

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 まずは、首都圏方面からみた関西という土地柄のイメージの特異性を指摘しておきたい。このあたり異界性については次項以下でふれる。このファクシミリを使って流される噂も、つぎつぎと追認情報がよせられた。

 

関西当たり屋ファックス2』

《○ 時期を置いて、色々なところで(小)流行するらしい。私が最後に見たのは、***さんの説明よりももっと最近です。

 ○ 車のナンバーや車種がもっともらしい。和泉(いずみ)とか難波(なんば)とか河内(かわち)とか、いかにも「ヤバそうな(族車に多いとされる)」ナンバーが並んでいる。

 ○ この手のファックス総務部門に届いた後(黙殺されなければ)、各部門に現物コピーを添えて回覧されます各部門に回覧されるコピーが、また、新たな怪ファックスの元になるように思います。私が見たのはファックスとしてもかなり不鮮明でしたから。黒い斑点がぽちぽちしていてコピーを繰り返した感じでした。

 ○ 後、差し出し人は実際には不明であるにも関わらず、コピーに付く前書き(総務が作った説明書き)では、いつのまにか、『所轄警察署から通達』になっていたりします(本当)。》

 

 ファクシミリだけではなく、つぎのようにパソコン通信ネット上でも確認もされているようである

関西当たり屋ファックス3』

《 これって、再FAXされるだけではなくって、ネットワークにも流れてくるんです。旧 junet でも数ヶ月に一度この種の情報をみかけたらしく、今ログを調べて見ると、1990年11月ごろの記録がありました。》

 これがデマではなく、信用できる情報としてあつかわれているることも多いようだ。

関西当たり屋ファックス4』

《 実はこの部屋を覗くまで、流言だとは思っていませんでした。というのも、この記事、以前勤めていた会社で、堂々と社内回覧板の中に閉じ込んで対応策まで朱書きしてあったものですから・・・(^_^;。ここでログを読んだ時、一瞬、まさかうちの会社の人が面白がって外部にFAXで流していたのではあるまいな?と、思ってしまったほどです。》

 このような新しい情報空間をながれる噂と、従来にみられた流言飛語などの噂とを比較対照してみるのも大きなテーマとなるとおもわれる。それにはあらためてふれる機会もあるだろうが、ここでは独特の噂空間形成する可能性を指摘するだけにとどめておこう。

 

 生き馬の目をぬくとも言われる株式市場金融市場では、日常生活感覚とは異なった金銭感覚雰囲気支配しているようである。そのような世界に生きる人たちの間でも、利害が密接にからんだ噂やデマがみだれ飛ぶであろうと想像される。ここでの噂は、もっぱら意図と狙いをもってながされるのが特長であろうか。この世界もまた、特異空間といっておかしくはない。

兜町に流れる噂』

《 俺は 株やってないけど,日本資本市場本拠地兜町では,噂がしゅちゅう.意図的であったり. 例えば,今では,「JT株で多量の失権株が発生する」なんて,まことしやかにささやかれるし.》

 この世界では、多くの自殺者を出した噂やデマも多いにちがいない。しか自殺はいったん死んでしまった以上、利害で動くこの空間ではもはや噂の種にもならないのかもしれない。ここでは、戦後もっとも大きな噂で幾人もの死者も出したとされる、いわゆる「M資金」の話も忘れるわけにはいかないであろう。

『M資金の謎』

《 現代日本フォークロア(??)と言えば、よく、色々な詐欺事件やら有名人自殺やらで名前が出てくる「M資金」を忘れるわけにはいきません。と、いいつつ、この関係の話を直接聞いたという話もないし .... (^^)。誰か、M資金の話を本当に誰かから*直接*聞いた人はいませんか?》

 

*『現代伝説考(全)』はこちらから読めます

http://www.eonet.ne.jp/~log-inn/txt_den/densetu1.htm

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2017-02-22 現代伝説考04「劇場系」

gekijo

現代伝説考04「劇場系」】

 

 劇場ライブハウスといったパーフォーマンス空間には、やたらに霊や怪異現象の噂が多い。ほとんどすべての劇場ひとつやふたつの怪異譚があるといってもいいだろう。とりあえず「でる」といわれる劇場の報告を羅列してみよう。

 

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東京青山劇場に*でる*』

《 その1。東京青山劇場は、以前、墓地があった所に建っている。その柿落としの時には、打ち上げ劇場の中でやった。すると、外部からは誰も入って来ないはずなのに、なぜかカウボーイ・ハットをかぶった見しらぬ人たちが大勢参加していた。以降も、ここには、よく出るそうな。》

 

サンシャイン劇場に*でる*』

《 その2。サンシャイン劇場も、以前に墓地だった所であり、よく出るそうな。商業劇場では、深夜に仕込をすることは普通だが、ここは、よく出るので禁止されている》

 

新橋演舞場の回り舞台に*でる*』

《 その3。新橋演舞場には、廻り舞台の下で見かけたという話がたくさんあるそうな。》

 

明治座に*でる*』

《 その4。明治座は、改装前、舞台袖の奥に建物の都合で隙間があいていた。そこは薄暗く、よく出たそうだ。》

 

こまつ座小道具部屋に*でる*』

《 その5。劇場ではないが、こまつ座小道具室は、幽霊のたまり場になっているという話。》

 

 ここまでは同一人の報告であるが、これを見ただけでも劇場にはやたらに「でる」という気がする。なにはともあれ、劇場という場所の特異空間性を確認しておかなければなるまい。

 まず舞台劇場の中心であり、文字どおりハレの場であることはいうまでもない。すべてのスポットライトフットライトがあつめられ、演者・観客ともに全員の意識が集中される場所であるしかも、演者にとっては聖なる場所でもある。

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 ところが一歩舞台裏にはいると大道具小道具部屋、舞台の袖、さらには地獄想像させるところから名付けられた奈落と呼ばれる場所まで、とたんに妖しげな雰囲気のただよう猥雑な空間になる。このような極端な落差こそ、幽霊たちにとってはそれこそ恰好舞台装置であろう。役者舞台に登場するのと同じように、幽霊たちも自分たちの「舞台」に登場する。

 また、舞台演者たちが変身する場所でもある。役者たちが、その架空役割に神憑り的に魂を入れこむ霊的空間でもある。他方観客席は、普通の人々がさまざまなパーフォーマンスを楽しみにくる娯楽の場である。このような両者の対照的心理の落差もまた、異様な雰囲気をかもしだす。

 さらには、興行がうたれているときの熱気と対比すれば、観客のいない劇場はがらんとした虚空間であろう。ハレの舞台ときのために黙々と稽古というケのときをすごす役者舞台関係者たち。そしてひと気のすくない舞台裏の薄暗い空間。こういった状況から劇場伝説は生成してくるのであろうと考えられる。

 青山劇場サンシャイン劇場の噂に指摘されているように、もと墓地であったりという立地の因縁怪異現象がむすびつけられることも多い。あるいは、劇場舞台裏というのはさなざまな事故のおこりやすいところでもあり、過去事故死者や自殺者の霊が伝説に登場したりもする。こうして舞台関係者あいだでささやかれ出した噂が、外部にひろがるにつれてさらに尾ひれがついていくことであろう。

 

 このような劇場伝説と似たようなシチュエーションで、ライブハウス音楽関係者あいだでも同様の噂が発生すると考えられる。

 

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ライブハウス幽霊

《 目黒駅前のライブハウス「SONOKA」は、日本ジャズクラブ草分け的存在だそうですが、友人から聞いた話。彼女同居人活躍中のドラマーですが、SONOKAには「出る」というのがミュージシャンの間で定説になっている。0時を過ぎると聴こえる、ライブが終わって掃除をしていると聴こえる(ピアノの音など)、というのがその内容。

 前のオーナーの何かである、というようなことを言っていました。幽霊ネタは埒外かもしれませんが、話者が音楽関係者であること、場所ライブハウスであることなから並べてみました。

 劇場などでも同様の話があると聞きます。聞いたのは去年、友人はやはり音楽をやっている20代女性です。》

 さすがにライブハウスだけあって、ピアノなどの音が重要役割をはたしているのが特異なところであろうか。

 

 墓地という因縁のかわりに、もと監獄という歴史が反映された奇っ怪な劇場伝説をも紹介しておこう。あの極東軍事裁判でさばかれた、A級戦犯たちの記憶につながる巣鴨プリズンとむすびついた話である

 

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監獄跡のサンシャイン劇場に*でる*』

《 池袋にあるサンシャイン劇場は、墓場ではなく、軍隊関係施設かなにかがあって(正確なものを忘れてしまった。ごめんなさい)、「でる」というのは有名です。

 スーパーエキセントリックシアターゲネプロで、幕をあけたら、誰もいないはずの客席に軍服姿の方々がずらっといたというのが、私の聞いた話です。

 ああ、思いだした。巣鴨プリズンがあったんだ。そうそう。たしか、そうだったと思います。昔のことはよくわからない世代なので、(なにせ東京オリンピックもしらん)もしかしたら、違う施設かも知れませんが。》

 

 もうひとつ建物そのものの外観の異様さとむすびついた話を引用して、つぎの稿にうつろう。京都大学西部講堂という、大学の講堂とはおもえない寺院の本堂のような瓦葺きの木造建築での伝説である。かつての大学紛争舞台にもなり、その屋根瓦には色とりどりのペンキが塗られているという不思議な外観からしても、噂のひとつやふたつあってもおかしくないとおもわれる。

 

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京大西部講堂の怪』

《 それはともかく、京都大学西部講堂怪談の話はもう出ましたか? とにかく、この話がしたくてはるばるやってきたので、まあ聞いてください。

 実名は出しませんが、これをぼくに語ってくれたのは、友人の女性ピアニストです。ぼくはちょっと芸人のまね事もやるので、彼女と一緒に西部講堂イベントをやったこともあります。その時は、講堂の客席真ん中にコンクリートの台みたいなものがあって、そこでぼくは演技をしたのです。さて、そのコンクリートの下には、何があると思います

 西部講堂中世寺院の一部をどこかから移築したものだとか。だから、昔から居ついた幽霊がいっぱいいるんですね。講堂でお芝居をやると、そういう幽霊が見物に出てくるので、もぎりを通った人は少ないのに、暗い客席の中は静かな観客たちでいっぱいになっていることが、しばしばあるそうです。また、そういう時は、悲しい場面でもないのに、俳優の声がみんな泣き声になってしま現象も起きると聞いています

 その西部講堂に、ぼくもよく知っているパフォーマーが、ある時出演しました。この人は語り手であるピアニストのご主人で、パフォーマンスの分野では世界的に有名な人です。

 その彼が出演した時、客席、といっても土間ですが、そこに穴を掘り、幽霊を穴に封じ込める儀式を演じた後、そこにしっかりと杭を打ち込んだのだそうです。終演後、その講堂を管理している学生たちに彼は「この杭は抜かない方がいいよ」と、なにげなく言ったのだとか。しかし、学生たちはそれを気にとめず、杭をぽいっと抜いてしまいました。

 その夜、学生たちが講堂の中で眠っていて、一人がふと目覚めると、その穴からぶわーっとものすごい勢いで、たくさんの幽霊たちが飛び出してくるではありませんか。わわわわ・・・! そして、学生に「こっちへおいで、こっちへおいで」と手招きするんですって。ふらふらとそっちへ行きかけた学生。その彼をからくも止めたのは、最後に穴から出てきた学生祖母幽霊でした。彼女生前キリスト教徒だったのですね。「こっちへ来てはいけない」。制止する祖母の姿に、学生ははっと我に返りました。間一髪、彼は救われたのです。

 翌朝、彼から事の次第を聞いた学生たちは驚き、神社から神主を呼んできて、おはらいをしました。そして、そこをぶ厚いコンクリートでしっかりと塗り固めたのでした。あのコンクリートの台はそうやって、できあがったものなのです。それから幽霊たちはどうなったかって? さあ、その後のことは知らないのですけどね。》

 

*『現代伝説考(全)』はこちらから読めます

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2017-02-21 現代伝説考03「医学伝説」

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現代伝説考03「医学伝説」】

 

 いうまでもなく医学関係は、病気という生死の境界をとりあつかう世界であるしか現在では、大半の人間がその死を病院でむかえるような状況となっている。とすれば、そのような死とむかいあう病院医療関係に、多くの怪談があるのに不思議はない。

 そのうえ医療世界は、われわれ一般人には閉ざされた密室空間でもある。診察をうけ検査をうけ治療をうけるとしても、自分カルテになにが書かれているか知るべくもないし、薬をもらってもそれがどのように機能するのかよくはわからない。患者はひたすら、医師という専門技術者の指示にしたがうしかすべをもたない。

 生死の境界位置しながらその内実にはふれられない密室、このような医療世界もつ境界性と密室からさまざまな噂話が生まれでてくるのであろうか。まずは、もっともよく知られている医学伝説からとりあげてみよう。

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死体洗いのバイト01』

《 さて、養老先生の本を読んでいる途中ですが、「死体洗いのバイト」について記述がでてきました。わたしもこの話と言うか、そんなものがあるというのは聞いたことがあります

 この話の仕組みは、とても常人には出来ないようなことをさせるバイトがあるが、それだけに料金も高い、という仕組みになってますね。お金の欲と、恐怖心とのせめぎが、ポイントになるのでしょう。》

 

 大学病院などで、解剖用の死体を洗うという高給のアルバイトがあるという噂で、自分も聞いたことがあるというたくさんの証言があげられている。いくつか引いてみよう。

死体洗いのバイト02』

《 高校時代の事ですが、同級生の悪友が実際に大学病院に尋ねに行ったことがあります。向こうの人いわく、「あんたもだまされて来やはったんどすか。そんなもん、おまへん。だいたい、死体関係は、おたくらみたいな若い人には扱ってもらいまへん。1日やったらうなされて寝られんようになりまんがな。」

 同級生の話しだと、「死体洗い」ではなく、解剖用の死体水槽ホルマリン処理する仕事だそうです。時間が経つと死体がプカ〜と浮かんでくる。それを、竹竿かなんかでつついて沈めるだけでいいらしい。「楽そうな仕事なんやがな〜」と残念そうにほざいておりました(^^;。》

 大江健三郎小説『死者の奢り』の一シーンが噂の発生源だという説もあるが、それはともかく実際にそのアルバイトをしたという人はいない。

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死体洗いのバイト03』

《 京大付属病院バイトということで伝わっておりました。また、他に、人間モルモットバイトの話も、ワリのいいバイト話として伝わっておりました。》

 このように、地元の有名な大病院名前をかぶせてまことしやかにささやかれる。

 

死体洗いのバイト04』

《 高校生の頃、友人から加藤という奴だった)死体洗いのバイトしないかと誘いがありました。聞くと、恐いがかなり高額のバイト料なるらしく、実際にK大学付属病院にで募集してると言います。それじゃ、やろうと言う事でその友人と、申込にいって、そんな話しはデマだって言われた経験があります。25年程昔の事です。》

 

 外界からは見えない密室で洗浄される死体、あるいはホルマリンの浴槽に浮かぶ死体といった情景は、だれも見たことのないはずなのに不思議現実感をもっている。このリアリティがこの噂の浸透力の強さなのであろう。

 実際にはありえないのがあきらかな噂が多いなかで、医学伝説にはひょっとしたらと思わせるものが少なくない。これは実際にはのぞけない密室的な世界出来事であるだけに、逆に現実的可能性を感じさせるのであろう。つぎの話も、奇妙な現実感をもってつたえられる現代医学伝説ひとつである

 

『解剖教室の壁に耳あり01』

《 <壁に耳あり>って,解剖教室実験して,退学させられた医学生ってのは,(出典は永井明)やっぱ噂なんでしょうね。誰か,当人をしってる人がいるのでしょうか?》

 

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 ここにあげられた出典が噂の起源になったのか、それとも先行してあった噂が書物を経由してさらに広がっていったのかはさだかではない。いずれにせよこの話も、噂として聞いたことがあるという人がつぎつぎにあわられる。

『解剖教室の壁に耳あり02』

《 うーん。そうかあ。「壁に耳あり」の話には出典があったのですね。でもそれ、いつの本ですか?私は10年以上前にこの話を知り合いから聞きましたよ。私の聞いたヴァージョンは「ある医大で、解剖実習の最中に、学生のひとりが、御遺体の耳を切り取って壁に叩き付けて『壁に耳あり!』と言った。秀逸なジョークで実習室の雰囲気は和んだが、その学生は退学になった」というものです。》

 

『解剖教室の壁に耳あり03』

《 壁に耳あり、のネタは、どこの大学でもあるらしく、どこの医学部生も、「それは自分学校の話だ」といってはばかりません。本当はどこなんですかねぇ。》

 

『解剖教室の壁に耳あり04』

《 壁に耳ありネタ 現役の看護学生さんから聞きましたが、「献体なんかやめた方がいいよ」といってこの話をしてくれたんです。つい最近聞きました。一般論であるかのような口ぶりでした。》

 

 まさにこのように噂が広がっていくのかと思われるぐらい、投稿連鎖は興味ぶかい。死体の解剖という常人からすれば異様な光景と、死体をただのモノとして取り扱う当事者とのあいだにあるイメージの落差からこのような伝説がつむぎだされるのであろう。

 主人公医学生は、遺体をモノとしてしか感じられなくなって玩具にするという、常人感覚麻痺した医療関係者代表としてとらえることもできる。また他方では、そのような感覚になじみきれない初心の学生の異常行動として、噂を伝えあう一般人批判感覚をあらわしているともみなせる。そのようなイメージのねじれがこの話にリアリティをもたせている。いずれにせよ、噂の伝達者にとってこの解剖教室は、かいまみることのできない異空間としてグロテスク想像されることはまちがいない。

 

 治療現場では患者はすべてを医者にゆだねるほかはなく、あなたまかせの密室でどうされるかわからないという不安を、極端に拡大した噂話をひとつ紹介しよう。歯科医での話である

歯医者での怪』

《 小学生時代に見聞した噂を思い出しました。当時住んでた地方の市の私のテリトリィには2軒の歯医者がありまして

誰言うとなく□□歯科は善い歯医者で、○○歯科は悪い歯医者だ、ということになっておりました。

 どうしてそうなのか子供目には識別できなかったものですが、あるとき、悪い歯医者の擦硝子窓の下をクラスメイトと通りがかりました。すると級友は徐に、最近あったことだがと断りながら次の話をしてくれました。

 何事が起こったものか、突然恐ろしい悲鳴が通りまで聞こえ、なにやら金槌か木槌でゴンゴン打ちつける音が聞こえ、

続いて「助けて〜」の絶叫が聞こえてきた。ゴンゴンという音は次第に凄みを増し、ついにはグオングオン鳴り始め、

と、急に病院玄関の戸がばたんと開かれ、顎を両手で押さえたおじさんが裸足で飛び出してきて脱兎のごとく逃げていった。》

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 医学関係者常人生理感覚を超越しなければやってられない、といった主題の噂も多くある。つぎの話も、一般人感覚とのギャップ伝説エッセンスとなっている。

医学生は尿もなめる01』

《 ある教授学生の前でコップを手に語ったそうです。医学者には旺盛な好奇心必要だ。このコップには糖尿病の疑いのある患者の尿が入っている。簡単に確かめるには、こうすればよい。と言ってコップの液に指をつけ、ペロリとなめた。そして、君達の中で、誰かやるか。次の試験10点、上乗せしよう。と言ったので、一人の学生が手を上げ、やってみた後、その教授は言ったそうです。医学者には冷静な観察力も必要だ。私がコップに入れたのは中指で、なめたのは人差し指だ。  20年くらい前、京大医学部学生に聞いた話。》

 

 これには、ローカル世界で20年間も語りつがれているというつぎのような証言もえられた。

医学生は尿もなめる02』

《 糖尿病患者さんの尿の話は、私も大学の知人に聞いたことがあります。私は現在学生なので、その話は、二十年前から現在まで語り継がれているって言うことですねぇ。あらまぁ、すごい。》

 

 最後に、艶笑小咄ふうの話題ひとつ紹介してつぎの課題にうつろう。

歯垢中の見慣れない菌』

《 折角ですからもうひとつ紹介しておきましょう。これも「或る医大」でのお話。授業で、お互いに向かいの学生歯垢採取して顕微鏡で観察する、というのをやった。

 或る学生の向かいは女子学生だったのだが、その彼女歯垢に見たことのない細菌があったので彼は教授を呼んで質問した。『先生、見慣れない菌があるのですが』

 教授がやってきて顕微鏡を覗いて一言 『君、これは精子だよ』》

 

*『現代伝説考(全)』はこちらから読めます

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2017-02-20 現代伝説考02「学校の怪談」

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現代伝説考02「学校の怪談」】

 

 学校の噂話が、一冊の書物にもなるぐらい(*1)たくさんあることには注目すべきだろう。全国の公立中学校はほぼ同じような造りになっていて、そこに同年齢の同質的な生徒たちが長時間をすごしている。かつての伝説をうみだした閉鎖的な地域共同体崩壊したいま、その疑似的な機能学校がになっているとも考えられる。

(*1)『学校の怪談口承文芸の展開と諸相』常光徹 著(ミネルヴァ書房1993)

 

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 ただし、伝統社会長老から子供へ語りつたえられたような垂直的な関係はなく、子供どうしのあいだで水平的な共鳴現象をおこすような形で伝播していくのが大きな特長であるさらに、TV雑誌などのマス媒体仲介して全国に転移していく。そしてその受け皿となる学校には、全国どこへいっても同じような構造トイレ理科室などが造られていて恰好怪談培養地となる。

 

 典型的学校怪談としては、さきにふれた「トイレの花子さん」「赤い紙青い紙」「赤マントマント」などのほかに、つぎの「こっくりさん」もあげられる。

こっくりさん

 《先にご紹介した『怪談心理学』の中に書いてあったのですが、本当にこっくりさん流行りましたよね。小生が小学生の高学年の頃ですから1970年代なのですが、この本にも昭和48年から流行の報告がされていました。何でも、この流行発信元群馬県だったというのです。群馬県のお隣の埼玉県でも、小生たちがこっくりさんを同じ頃やっていたはずで、どうも眉唾ものですが、どんなものでしょうか。あの頃、こっくりさんをはじめたきっかけは、少年まんが誌に連載されていた『恐怖新聞』や『うしろ百太郎』に載っていたからだったと思うのですが、いかがでしょうか。『漂流教室』も怖かった!》

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 この投稿には具体的な流れは書かれていないが、子供たちが机の上においた硬貨などに指を重ねあわせてじっと神経を集中しているとその硬貨が動いたりするといった話である。その結果、だれかに「こっくりさん」がとり憑いたといって、一種集団催眠のような現象がおこる。このように、同質的集団共鳴現象をおこして恐怖を増幅していくのが学校怪談の特長であろう。

 

 この恐怖の源泉は、閉鎖空間に同質集団が閉じこめられているという状況自体にあると考えられる。同質的集団はその内部自体のみでは活性化しにくいし、また内部にはストレスなどの圧力たまる。外部との直接的な交流があればこのような状況は解消されやすいが、そうでない場合には内部的に「異者」をつくりだしてその代替とする傾向がある。

 特定の仲間を「徴つき」の異者と見なしてしてひき起こされる、いわゆる「いじめ問題」などはそのような構造をもっていると考えられる。積極的に異者をつくりだしかつ排除することで、同質集団活性化されたりまた緊張も放出されたりするのだろう。伝統的な閉鎖社会ではそれが固定化されて異人や妖怪伝説になっていたこととの相同性をみれば、学校伝説のはたしている機能もうかびあがってくるとおもえる。

 「こっくりさん」の例でいえば、だれにでもこっくりさんがとり憑く可能性があるという前提のゲームである。そのようななかでお互いが牽制あいながら「徴つき」をつくりだすといった不安スリルが、この噂を成りたたせていると考えられる。

 

 また学校トイレのような妖しげな密室は、異界との境界であり通行の接点とも見なせる。そのような場所に、異人としての「トイレの花子さん」や「怪人赤マント」はあらわれるのである。もちろんこのような異人は外部から闖入者などではなく、そこに生活する同質集団不安投影にほかならないであろう。

 以上はまだ性的意識顕在化しない小学生などに多い事例であったが、これに性意識がくわわると恐怖というより艶笑小咄ふうの噂になってくる。かといってただの笑い話でもなく、まことしやかに伝えられなかば信じているような雰囲気もただよっている。そのような事例をあげてみよう。

 

保健室エッチ

 《私の小学校から中学校時代に根強くあった噂です。

「H中で、生徒同士が保健室SEXしていて、抜けなくなって救急車で運ばれた」というものです。これは「H中事件」として固有名詞化していたほど、ポピュラーな噂でした。東京都大田区中学校です。

 で、高校に入って同級生にH中の卒業生が居たので訊いてみると、「それはN中事件だろ」と言われました。どうやら当のH中では、N中であった事件として噂されていたようです。ちなみに私はS中でした。》

 

 具体的な学校名をそえて語られているところに、半分は事実として信じられていることがうかがえる。また学校保健室というのも理科室・音楽室・体育館などとともに、噂の発生しやすい特殊空間だということも指摘しておこう。

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 これが女子高ともなると妊娠出産不安ともからまって、切実さと滑稽が同居してくるようでもある。

女子高のうわさ』

《「女性のなかで流通している特有の噂」というもので、女子高などで聞く「避妊または妊娠にまつわるもの」というのをころっと忘れておりました。

 「事後にコーラで洗浄する」「飛び跳ねる」という避妊法!を聞いたことがあります。今の高校生はこんなこと信じてるかしら。

 また、「顔つきがきつくなると胎児は男」「お腹がとがった形になると胎児は男」などというのも、年配の女性がしたり顔で言ったりします。

 週刊女性雑誌で、「出産」にまつわる記事は人気があるようです。有名人のであれ、一般人のであれ。出産したことはありませんが、一種臨死体験のようなところがあるんでしょうか。とても特殊時間帯というかんじがします。ところで、水子地蔵というのはつい最近始まった風習商売?)なのでしょうか?》

 

*『現代伝説考(全)』はこちらから読めます

http://www.eonet.ne.jp/~log-inn/txt_den/densetu1.htm

 

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2017-02-19 現代伝説考01「試着室/トイレ」

sityaku

現代伝説考01-1「試着室」】

 

 おもえば人が身にものをまとうという行為は、人間が他の動物と分かたれる文化的原初ひとつであろう。とすれば、人は衣服を脱ぎ裸になるとき日常性の中で隠ぺいされている遠い原初秘密をかすかに想い起こすのかもしれない。いまこの秘密正鵠にいいあてることはできないが、このような日常の切れ目から潜在的物語がつむぎだされてもおかしくはないだろう。まずはネットでの投稿の中から、このような裸になる場所にまつわる噂話をいくつか挙げることからはじめてみよう。

 

『試着室ダルマ1』

 《それから十数年前から結構何度も聞いた、パリ都市伝説を思い出しました。パリブティックに入った日本女の子が、試着室へ入ったまま、行方不明になった。しばらくして見せ物小屋に、手も足も切られてだるまのようになり、口もきけない女の見せ物が現れたが、顔を見ると、ブティックでいなくなったあの子だったというものです。

 パリを素材にした話ですが、東京に流布している伝説です。》

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 『試着室ダルマ』と称されて、若い女性のあいだを中心に流れている有名な噂話である。『オルレアンのうわさ(*1)』がその源流にあることは想像に難くないし、『うわさの本(*2)』でもとりあげられている。このように、書籍などを通じて二次的に流布していくのが現代伝説の一特長でもあるのだが、いまはこの点には立ち入らないでおこう。

 

『試着室ダルマ2』

 《ブティックだるまの話。私も高校生の時、英語の授業のとき先生から聞きました。そのバージョンでは、日本人観光客女性ハンブルクブティックの試着室に入ると、奥の鏡ががんどう返しになっていて、そのまま裏へ引き込まれ、手足を切り落として、アラブの大金持ちの閨房に売り飛ばされるという内容でした。話者がアメリカ遊学歴のある若い女の先生で、学校にフルサイズアメ車(それもボロ)で乗り付ける、という変わった人だったので、こういう話にも妙な信憑性があって、生徒は真剣に聞き入ったものでした。》

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 このようにいくつものバリエーションがみられるが、日本人若い女性ヨーロッパなどの都市ブティック試着室から誘拐され、東南アジアアラブなどの途上国あられもない姿で発見されるというところが共通している。

 試着室のもつ象徴的な意味はいくつも考えられるだろう。ただここでは、多くの人が出入りするブティックのなかでの個室・密室であること、そして若い女性衣装を着がえる場所であることに注目しておきたい。

 個室・密室ではなにが起きるかわからないという不安がある。それがこの話題伏線となっていると考えられる。また、衣装を着がえるというのはある種の変身でもある。美しく着飾るという快をもつとともに、自分自分でなくなっていくという潜在的不安も考えられる。そのような願望と恐怖のアンビバレント気持ちで鏡に映るわが身をながめているとき、突然どこかへつれ去られたとしたら……。

 自分がこれからどうなっていくかわからないという不安は、まだ身の定まらない若者、とくに若い女性には共有されやすい心情であろう。それが海外旅行中のブティック試着室から消失するというドラマティックな舞台設定と共鳴現象をおこして、噂を語りついでゆく原動力になっていると考えてもおかしくはないであろう。

 そして結末は一転して、手足を切られた人間ダルマで見せ物にされるという無惨な状況で発見される。しかし、この話は主人公女性に同情するような悲劇としては語られていない。むしろ、海外旅行という晴れやかな場から極端な落差のあるオチは、突き放した滑稽ささえ感じさせる。おそらくこの噂をつたえあう場では、軽い笑い話として終わる状況が想像される。現代伝説は、このような恐怖と滑稽が抱きあわされたところで生命もつのであろうか。

 またこの話題には、二重の変身が重ねあわされているところにも注目しておきたい。美しい衣装に着替えるという望ましい変身と、人間ダルマにされてしまうといういささかグロテスクな恐怖の人体変形とが。このようなロマンと恐怖のメタモルフォーシスは、人格の変貌と多種多様化といった現代の思潮とも接点をもってくると考えられる。このあたりの主題は、あらためて人体変形と人格変成の章で取りあげることになるだろう。

 なお、この種の話がたんに書物などの受け売りではなく、口づての噂話として語られているという証言をいくつかあげてつぎの話題にうつろう。

『試着室ダルマ3』

 《よくあるインド発見された日本人女性ネタ

 友人でよくヨーロッパに行く当時20代後半の女性から2〜3年前聞きました。どこでもよく聞く(例の、手足をもがれて見せ物にされた日本人旅行者の話)ネタなので、「じゃあ具体的に誰に聞いたの?」と突っ込むと「友達からよ。これはホントの話なんだよ」と真剣な顔で返事が返ってきました。この手の話に突っ込むもんじゃないと反省しました。》

 

『試着室ダルマ4』

《OL時代、同僚から聞いたのが最初です。その後、母も知り合いから聞いてきました。もっぱら、女性の友人を中心に噂が広がっていたのが特徴的でした。》

(*1)『オルレアンのうわさ』エドガール・モラン 著(みすず書房 1973)

(*2)『うわさの本』別冊宝島(92)(JICC出版局 1989)

 

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現代伝説考01-2「トイレ」】

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 トイレという場所も、部分的にであれ肌をあらわにする密室である。今回の投稿にはトイレに関する噂は比較的少なかったが、古くには、カワヤの神さまが現れるとか河童にシリコダマをぬかれるといった数多くのカワヤ伝説があった。この河童伝説と関連がありそうな話をひとつあげてみよう。

 

トイレの手』

 《 熊本市内のI商業高校トイレから夜中に手がにゅうっと出てくる。そんな話しがあって、ある人が確かめてやると、そのトイレで手が出るのを待ち受けていました。やがて、話しのとおり、便器の中から手が出てきたそうです。そこでその人は手を掴んでおもいっきりひっぱたら腕だけが抜けて来たそうです。とれた腕を良くみるとその手は、猿の手だったとか。》

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 便器からでてきた猿の手というのもある種の妖怪にちかく、シリコダマをぬきにくる河童共通性がある。ひとむかし前まで、民家のトイレ母屋から廊下づたいにはなれた場所にあったり独立した小屋であったりした。そのような薄暗い個室で不安定姿勢で尻をだしていたりすれば、気味のわるい妖怪がせまってくるような妄想をいだいてもおかしくはない。そのような雰囲気のなかで、さまざまなカワヤ伝説がうまれたのであろう。

 ところが現代住宅では、日常生活の場に明るく清潔なトイレがしつらえられている。かつてのような汲み取り式ではなく清潔に水洗化され、洋式の座式が大勢を占めさらにはシャワー式洗浄器なども普及する時代である。このような環境では、もはや妖怪たちは棲息する余地もないだろう。たしかに、現代妖怪には棲みづらい時代となっている。

 そんななかで、学校にだけはいまでもトイレ伝説が命脈をたもっている。上記の話も高校舞台であるが、どちらかというと小中学校の子供たちのあいだで活発な噂が語られている。いわく「トイレの花子さん」、「赤い紙青い紙」、またその変種とおもえる「赤マントマント」などなど、このような話が現実的な恐怖感をもともなって流されているのである

 

 噂を形成しやすい学校空間特殊性はあとでふれるとして、投稿された「トイレの花子さん」の例を引いてみる。

トイレの花子さん1』

 《小学校の 1年生用のトイレの北から2番目の個室は,普通に使っているとなんともないが,<はなこさん>とよびかけると,なかから誰かが返事をする。 誰も確かめた人はいない。 小学校にいる時,普通に言われていた》

 雑誌などにもよく紹介されている有名な怪談である。そういう意味では、二次情報全国的に展開されている例ではある。しかし大半の子供たちは、あくまでもそれを噂として耳にし、また口づてにつたえていくのである。そのようすを示す証言をあげておこう。

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トイレの花子さん2』

 《今日トイレの花子さんに関する簡易アンケート実施しました。5中学のうち2中学で、噂の存在確認しました。一つの中学では、理科室にいってからトイレにいくと、花子さんが出現するということでした》

『赤い紙青い紙』

 《「赤い紙,青い紙」の噂は きいたことがあるというこが数人いることもわかりました》

 ついでにもうひとつ、なんでもない話ではあるが。

トイレ変なおじさん

 《そういえば、中学の頃、一人でトイレに行くと変なオジサンオチンチンをのぞきにくるという伝説がありました(これは西宮ですが)。学校理事だという話しも出ていましたが(^^;)》

 ここで出てくるのは妖怪ではなく、ちょいと変なおじさん、すなわち変人奇人である。さきにふれた「トイレの花子さん」や「赤マントマント」もその姿は具体的には報告されていないが、なにがしか人の姿かたちをしていることが想像される。すくなくとも、河童などのように他の動物グロテスク化したような妖怪の姿をしていることはない。

 現代伝説では、かつてのように自然と密接なつながりをもって空想されたような、動物の姿をデフォルメした妖怪はあまり登場しない。有名な「口さけ女」にしても、戦前から存在していた「怪人赤マント」にしても、あくまで怪人・奇人変人系列につらなる「ヒト」であるとみなせる。妖怪よりも人間そのものが恐怖化の対象とされやすいところに、現代人の心性が見いだされるようにおもわれる。

 話題トイレにもどすと、一般家庭のトイレは明るく快適になりもはや怪談の発生の余地はなくなった。そして、学校トイレのような公共性のある場所で、しかも閉鎖的な同質集団が利用する特殊な状況でのみ怪談が発生するのであるかと考えられる。しかもそこに登場するのは、かつてのように自然との境界に棲息するような妖怪ではなく、人間そのものが恐怖化されて表象されているかのようにおもわれる。

 

*『現代伝説考(全)』はこちらから読めます

http://www.eonet.ne.jp/~log-inn/txt_den/densetu1.htm

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