吉田修一『静かな爆弾』中央公論新社

静かな爆弾

静かな爆弾

 テレビ局勤務で、番組制作に携わっている俊平は、ある日神宮外苑で不思議な雰囲気をまとう響子と出会う、、、。
 「ボーイ ミーツ ガール」の王道のような小説なのに、吉田修一の描く恋愛小説は、一味違う。主人公には悪いけどなんてことのない物語なのに、スクープを撮ろうとする焦りと不安と緊迫感が恋愛にも影を落とすのか、響子に心惹かれながらも素直に恋愛に没入できず、絶えず不安に心揺らしている主人公俊平の心理描写が続き、とても不穏な空気が漂う恋愛小説だ。タイトルからして、誰が甘い恋愛小説を期待できようか(笑)。
 仕事で外に出ている時には絶えず「音」がまといつき、絶える間がない空間に身を浸していて、実際、読者としてもその音を聴いている感覚でいるのに、響子と一緒に内にいる時は、すぱっと「音」から切り離され、ただただ静寂があるのみ。小説を読みながら無音の静寂を感じるなんて、なんだか不思議な感覚だった。
 響子のああいう設定のせいか、とても静謐で、都会的でスマートで、なぜかひんやりした凄味を感じる作品。暴力的な描写や悪意もしっかと描かれていて、流され踏みにじられそうになりながらも踏み止まり、なぜかさっぱりした後味がなかなかに好印象。ほっとした。こういう結末を迎えて、本当に良かった(響子自身が神様で、別れたっきりもう2度と逢えないのかと思ったから)。
 これ、響子サイドから見たら、どんな物語になるんだろう。ぜひ読んでみたいー!