映画 『 モリのいる場所 』 を観る

 先日、新聞の映画紹介でこの映画を知って、観てみたいと思った。
        
 今日の帰宅時に、小田急線の新百合ヶ丘で途中下車して観る。
      
 画家・熊谷守一(くまがいもりかず・1880年−1977年・97歳没)の晩年の一日を描いた映画だった。
 熊谷は晩年、東京・池袋の築40年以上の木造住宅に住み、ほとんど我が家の敷地から外へ出ることなく、草木茂る庭の、虫や猫や池の魚など、たくさんの「生命」を見つめ、ときには地面に寝そべり、庭のあちらこちらに置いてある腰掛に座って観察し、それを題材に描き続けた「画壇の仙人」「超俗の画家」と呼ばれた暮らしぶり。
 しかし、その熊谷家には、様々な来客が訪れる。
 熊谷を撮り続ける若い写真家、看板を書いてもらいたいと訪れた温泉旅館の主人、隣人の夫婦や画商、熊谷自筆の表札がたびたび盗まれることを面白がっている郵便屋、さらには敷地隣にマンション建設中の現場監督などなど。
 そんな様々な訪問客と、「仙人」と呼ばれた画家とその妻との、可笑しみたっぷりの交流と暮らしを、鳥や虫などをあたかも熊谷が観察しているような視点のカメラアングル映像を織り込みながら描いている。
      
 そんな俗世界から離れた生き方をする画家・熊谷守一を演じるのは、以前から熊谷を敬愛していたという山崎努さん。
 熊谷の世間から隔絶したそんな生き方を受け入れ、世間とのパイプ役を務め、なんとも言えない不思議な夫婦の絆で結ばれて、夫を支える妻・秀子を演じるのは樹木希林さんだ。
 2人の自然な演技が、手入れのされていない庭の草や木の緑に溶け込み、「こんな老夫婦っていいなあ〜」と、心温かくなる映画だった。
 ちなみに、タイトルにある「モリ」は、守一(モリカズ)さんの愛称である。