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2008-12-06

[] 比べてわかる橋下提言

■大阪府「携帯・ネット上のいじめ等課題対策検討会議による『とりまとめと提言』」

http://www.pref.osaka.jp/fumin/html/20695.html


すでにテレビ、新聞、ネットでさんざっぱら話題になっているが、大阪府教育委員会が公立小中学校の児童・生徒が学校にケータイを持ち込むことと、高校生が学校でケータイを使用することを原則禁止にする方針を発表した。ネットをダラダラ眺めていると、おおむね好意的に迎え入れられているようだが、半面、ワイドショーなどのいわゆるマスコミに目を転じてみると「賛否が渦巻いている」という。


「ほら、またマスゴミの橋下叩きが始まった」とお思いのかたも多いだろう。もちろんテレビや新聞のお歴々がなにをお考えかは存じ上げない。しかし、そのマスゴミの一員たる木っ端ライターであり、小学校配布の「情報モラル教材」の制作に携わる、子どものネット利用の味方であるところのボクは、この方針が嫌いじゃない。というのも、これ、これまでの「子どもからケータイを取り上げろ」という提案とは一線を画すからだ。


従来型の「子どもからケータイを取り上げろ」論の急先鋒は、政府の教育再生懇談会だろう。これは、大学教授や元教員などで組織された内閣の諮問会議。福田内閣時に発足した。


この手の内閣お墨付きの教育系有識者会議は、とかくネットやゲームといったIT・デジタル系メディアを嫌いがちだ。たとえば、小渕内閣時代の似たような会議「教育改革国民会議」は'00年7月、保護者に対して


■教育改革国民会議第1分科会「一人一人が取り組む人間性教育の具体策(委員発言の概要)」

http://www.kantei.go.jp/jp/kyouiku/1bunkakai/dai4/1-4siryou1.html

バーチャル・リアリティは悪であるということをハッキリと言う

べし、と、正気を疑わずにはいられないようなことを真顔で言い切り、懇親会の前身にして安倍内閣当時に発足した「教育再生会議」は'07年12月の第3次報告(福田内閣に提出)において

有害情報から子供を守るため、全ての子供の携帯電話にフィルタリングを設定する

べきだとしている。そして懇親会は、'08年5月に

携帯電話利用についての教育を推進し、必要のない限り小中学生が携帯電話を持つことがないよう、保護者、学校はじめ関係者が協力する。小中学生が持つ場合には、通話機能等に限定したものが利用されることを推進する。機能を限定した携帯電話の開発と普及に携帯電話事業者も協力する

という第1次報告を福田内閣に提出している。


一見、大阪府教委の方針と似ているが、これら会議が問題にしているのは「ケータイをはじめとしたデジタルデバイスを子どもが使うことで有害情報に接触するおそれがある」という一点のみ。国民会議の世迷い言はさておき(寝言の主は曾野綾子のようだ)、再生会議が「フィルタリング」のみに言及していることや、懇親会が妥協案として「通話機能等に限定した」ケータイの所持を子どもに勧め、上記報告に「子供を有害情報から守る」という小見出しを打っていることからもわかる。


しかし、フィルタリングサービスには「誰がサイトの有害/無害を決定するのか」「コミュニケーションはフィルタリングできない」という問題点と限界があり、学校裏サイトやメールイジメを明示的に禁止したところで学校でのイジメが沙汰止みになるわけではないことは、懇親会はおろか、再生会議の報告がある以前から多くの専門家に指摘されている。それに、


■ベネッセ教育センター「『学校裏サイト』に中学生の7割以上は無関心」

http://benesse.jp/blog/20080818/p2.html


との調査結果もある。有害情報への接触のおそれを根拠に子どものケータイの所有を禁じたり、情報に規制をかけたりするのは論理の飛躍。どうにもムリがある。だから、個人的には再生会議や懇親会の提言には大反対だ。再生会議や懇親会の議事録や資料を漁ってみても、子どもの有害サイトへの接触割合はおろか、子どものPC利用率、ケータイ所有率といった基礎的なデータすら提示されていない。「最近ニュースなんかで裏サイトとか出会い系とかが問題になってるって言ってるから、子どもにケータイを持たすのよそうぜ」なんて、ものすごくざっくりとした印象論のもと、お上が個人の所有物を取り上げようとしているようにしか見えず、気に入らない。


一方、大阪府教委は、有害情報への接触を減らすことに加えて、もうひとつ理由があって、ケータイの学校への持ち込みを禁じようと提案している。


■毎日jp「携帯電話:小・中学校への持ち込みを原則禁止 大阪府教委」

http://mainichi.jp/select/wadai/news/20081204k0000m040088000c.html

府教委の検討会議は今年7月、小、中、高校の児童生徒と保護者、学校を対象に携帯電話の使用実態について抽出調査を実施。携帯電話を持っている児童生徒のうち、中学1年生の15.6%、高校1年生の32.6%は1日の使用時間が3時間以上▽中学1年生の10.6%、高校1年生の15.9%は1日のメールの送信回数が51回以上−−などの結果となった。


また、携帯電話の使用時間やメールの頻度を「依存傾向」として数値化し、学習時間との関係を分析。1日の学習時間を「0〜30分」と答えたのは、依存傾向の低い児童生徒では29.6%、中くらいの児童生徒では41.7%だったのに対し、依存傾向の高い児童生徒では50.3%を占めた。

■YOMIURI ONLINE 関西発「携帯電話、小中学校で持ち込み禁止に…橋下知事表明」

http://osaka.yomiuri.co.jp/news/20081204-OYO1T00143.htm

橋下知事はこの日の記者会見で「学校に携帯電話は必要ない」と強調。「携帯電話への依存度が高くなれば、学習時間が短くなるのは当たり前」と学力向上策でもあると説明した。

家でケータイばかりいじっている子どもは、ロクに勉強なんかしやしない。当ったり前だ。学校にいる時間や寝る時間、メシを食う時間、トイレや風呂に入る時間など、生活の必要経費ともいうべき時間をさっ引いた残り時間の大半をケータイに割り当てていれば、勉強する時間なんてあるまいて。全国のなかで最も学力低下を危惧する大阪府にしてみれば、この事実を見過ごすわけにはいかない。それに、そもそも勉強する/しない以前に、ケータイにハマりすぎて基本的生活習慣が乱れることはホメられた話ではない。だから、依存を断ち切る第一歩として、せめて学校にいる間だけでも、ケータイを持たない生活を送らせてみる。


ある程度信用のおけるデータに基づいた上で「賢くなりたいならケータイを使うのをちょっと控えてみないか」と提案するこの方針は、再生会議や懇親会の雰囲気語りとはワケが違う。


ワイドショーなどで「子どもの安全のためにケータイを持たせている家庭はどうするんだ」などとの反対意見も聞かれるが、正直、ナンセンスだ。田舎の山道でヘンタイさんに遭遇。防犯ブザーを鳴らしたからといって、誰がそのSOSを聞き届けよう。GPSも状況によっては数十〜数百メートル、測位に誤差が生じることもある。子どもの居場所を完璧に把握できるわけではない。キッズケータイで買えるのは、いつでも子どもと繋がっていられるという「保護者の安心」がせいぜい。「子どもの安全」などではない。


それに上記毎日jpのとおり、府教委は、

ただ小・中学校でも子供の安全目的で保護者が求めるという場合は、学校の判断で登下校時に持たせることを認める。

と、あくまで「原則」禁止であり、保護者の求めがあれば、弾力的に対応すると言っている。


また「行政が個人の持ち物を云々するのか」との意見もあり、確かに一理あるが、橋下府知事は定例会見の席上「異論、反論あるかもわかりません」「批判があれば、再度検討する」と語る。家庭での所有、利用については「ルールを決めたら守らせるのは家庭、保護者の責任だ」とするにとどまっている。府教委も冒頭リンクの「とりまとめと提言」において

(2) 家庭の話し合いによる家庭でのルールづくりと効果的な啓発

提言2 家庭で話し合い約束する基本のルール

<<実行しよう5つの約束>>

・フィルタリングの利用を徹底する(解除しない)

・帰宅後など適切な使用時間を決める

・知らない人からのメールに返信しない

・個人情報を安易に教えない、書き込まない

・持ち込み禁止など、学校の規則を守る

と、ケータイを使っている子どももいることを前提に家庭でのネット利用についてのルーリングを進めるよう提言しているだけ(あくまで「提言」のため「フィルタリングの徹底」の是非はさておく)。なにも「オレが正義だ」と言っているわけでも「学校が禁止してるんだ。テメーら、ケータイなんぞ買い与えるんじゃねぇ」と言っているわけでもない。


センセーショナルな言葉を叩きつけがちなため、それこそ、ネットのみなさん言うところの“マスゴミ”からの批判も多い橋下府知事ではあるが、この方針についてはそれほどムチャクチャを言っているわけじゃなし。ケータイ依存を憂う理由に学力低下を持ってくるあたりは結構面白い。「とりあえず実践してみりゃいいじゃん」などと思えてしまう。


結果、子どもの学力が向上したなら万々歳。反対に、子どもがケータイを持っていないのをいいことに、見るからに怪しげなオッサンが学校付近をうろつくようになったり、一向に子どもの家庭学習の時間や学力が伸びる気配がなかったりしようものなら、そのときこそ「おいコラ、ボンクラ弁護士! お前のもくろみ、外れまくりじゃねぇか」とツッコんでやろう。それでもけっして遅くはないはずだ。


と、橋下府知事と大阪府教委にはある程度賛同するが、その尻馬に乗った「アルカイダの友だちの友だち」はいただけない。


■MSN産経ニュース「橋下知事の携帯持ち込み禁止 河村官房長官、鳩山総務相が賛意表明」

http://sankei.jp.msn.com/politics/policy/081205/plc0812051220007-n1.htm

鳩山邦夫総務相も記者会見で(中略)「言うべきでないこともメールだと書ける。会話能力がおかしくなる。携帯電話は便利だが、人間性を失わせる側面を強く持っていることは疑いようのない事実だ」と述べた。

「事実」じゃねぇよ「事実」じゃ。






はてブコメントへのレスポンス】

ごもっともなコメントをいくつかちょうだいしたので、抜粋して返信。


id:namawakari

すみません。言葉が足りませんでした。おっしゃるとおり、ケータイだろうとテレビだろうと、端目に依存しているように見えてしまうほど、なにかにハマってお勉強をおろそかにするのは、よろしくない。そして、下記id:sionsuzukazeへの返信にも書かせていただきますが、ボクも道具を禁止さえすれば状況が変わることはないと思っております。


id:sionsuzukaze

「臭いものに蓋って論法は何の解決にもならない」こと、そして、情報モラル教育を充実させることが、学校や家庭がすべき最優先事項であるのは、ご指摘のとおりだと思います。だからこそ、子どもに、情報に接するときの心構えについて考えてもらえるよう、微力ながら、来年度配布の道徳副読本に情報モラル教育系の短編を書かせていただきました。そして、もし府教委が「情報モラル教育を拡充することなく、子どものケータイの持ち込みのみを禁止。学校内は安全な情報環境が構築されました。チャンチャン」というお話をしているのなら、断固反対していたはずです。ただ「とりまとめと提言」を眺めてみるとけっしてそうではないようですし、その上で「ケータイに依存しがちな子は勉強をサボりがち」だと言うなら、府教委の考える方法で依存を予防してみる試みは結構面白いんじゃない、とは思っております。


id:kyo_ju

「嫌いじゃない」「とりあえず実践してみりゃいいじゃん」「ある程度賛同」という中途半端な立場なので、府教委や府知事に対して「喝采」をあげたつもりはないのですが、エントリにおいて、相関関係と因果関係の切り分けがうまくいっていないことについては、ボクの失敗です。すみません。確かに「ケータイ依存が家庭での学習時間の減少の原因である(またはその逆)」とは絶対に言い切れません。府教委の発表からは、あくまで「ケータイを長い時間イジっている子のほうが、家での勉強時間が短いと回答しがちだ(またはその逆)」としか言うことはできません。ただ、府教委の見解は、エントリのとおり、これまでの行政にはなかった類のもの。目新しいし、その相関関係(確かに因果関係にすり替えているようにも見えます)を根拠に、学校へのケータイの持ち込みを禁止して、依存を断ち切り、学習時間と学力の向上につなげるとするのなら、面白そうだから、ぜひ実験してみてほしいな、というのがホンネのところだったりします。すでに府内9割前後の小中学校がケータイの持ち込みを禁止しているなら、さほどコストがかかるわけではないし、上記のとおり「ケータイを取り上げたから、すべてよし」にするわけでもないようなので、やってみても損はないのでは、という感じでしょうか。


id:CrowClaw

アルカイダかどうかはボクにはよくわかりませんが、子どもが泣くまでやり込めてみたり、体罰をOKにしてみたり、学校間、地域間の点取り競争だけを生むおそれもある学力テストの点数開示に積極的だったりと、実はボク、橋下府知事の教育に関する発言の多くを嫌っています。id:kyo_juが、拙エントリに[ハシズム]というタギングをしていますが、そういう意味では、ハシズムなんてまるで理解できていないのかもしれません。


id:suzu_hiro_8823

確かに、イの一番に乗っかってもおかしくなさそうな石原都知事が消極的なのは、興味深いです。みなさんからご指摘いただいたとおり、ケータイ依存と学力低下には相関関係しか見いだせないし、「ケータイを学校に持ってくるな」という臭いものにフタ的な物言いをしたところで、なんの解決も見ないと考えているのか。はたまた、教育と産業・経済(=ケータイを取り巻くビジネス)を秤にかけるなら、産業・経済に重きを置くべきと考えているのか。「教育 vs 産業」という対立構図は、往々にして発生するそうです。そして、結構産業が勝つ。結局銭がないとお勉強もままならないようです。

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