外来種や保全に関しては、基本的には暗い話題が多いものです。しかし、仕事として誰かが取り組むべき問題であるとも思うのは昨日述べたとおりです。とはえ、ここではもっと自然の魅力を感じてもらえるような話題も加えていけたら良いかなとは思います。魅力ある自然があっての保全ですから。
ハワイ諸島は、世界でも最も隔離された島からなるため、独自の進化が起こっており、さまざまな珍奇な生態を進化させた虫たちが知られています。その例の第一弾としてハエトリナミシャクの話題から。
シャクガ科のカバナミシャク属 Eupithecia は、世界に1000種以上が分布し、各種の幼虫は主に花や花粉を食べることが知られている。ハワイ諸島では20種をこえるカバナミシャク類(すべて固有種)が知られているが、通常の花食である1種をのぞき、すべて小さな昆虫を捕らえて食べる捕食者である。
葉上でふ化した幼虫は、枝や葉の先端で待ち伏せし、やってくる昆虫を3対の脚を使って素早く捕らえる。外見は通常のシャクトリムシと同様、隠蔽色をしている。シャクガを含む鱗翅目のうち、99%の種が植食性で肉食性種は1%にも満たないが、その中でも、待ち伏せ型の捕食者はこのハワイのカバナミシャク類以外では知られていない。
他のハワイの生物と同様、一種の祖先種(植食性)から多種(捕食性)へと放散したと考えられているが、植食性から捕食性へのシフトがその放散の原動力になった可能性がある。
ハワイのカバナミシャク(ハエトリナミシャク)の画像
http://nature.berkeley.edu/~poboyski/extras/eupithecia%20staurophragma.jpg
Howarth FG, Mull WP (1992) Hawaiian Insects and Their Kin. University of Hawaii Press.
ハエトリナミシャクの写真がたくさん掲載されている。
関連サイト
http://esa.confex.com/esa/2001/techprogram/paper_2034.htm
ハエトリナミシャクは、ハワイの昆虫の中でも、かなり有名な虫の一つでしょう。種自体の記載は19世紀に行われていたものの、その生態が発表されたのが1980年代と、意外に最近です。はじめてその生態写真が National Geographic に発表された時は、かなり大きな反響があったそうです。そりゃそうですよね、見かけは普通のシャクトリムシなのに、それがカマキリのように他の昆虫を捕まえてむしゃむしゃと食べるのですから。もともと、シャクトリムシの隠蔽は、天敵から逃れるためだったのが、ハエトリナミシャクでは攻撃擬態も兼ねているわけです。
カバナミシャク類は日本にも多くの種類がいて、その幼虫はいろいろな植物の花で見ることができます。
とある祖先種が、ハワイという隔離した島にやってきて、特殊な環境のもと植物食から捕食への食性転換がおこり、これが原動力となって放散していったという仮説はなかなか魅力的です。
ただ、ハエトリナミシャクの分子系統解析の結果がそろそろ出るものと待ちはじめて数年、なかなか出てきません。はやく、その論文を読みたいところです。いや、それよりも幼虫の捕食行動をじかに観察したいところです。