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むしのみち このページをアンテナに追加 RSSフィード

2009-07-16

ヒトに最も近いのはオランウータン?:異説・珍説の扱い方

 自然現象を説明するメカニズムは一つとは限りません。多くの仮説の中から、もっともらしい説明こそがそのメカニズムとして一般に解釈されています。


99・9%は仮説:思いこみで判断しないための考え方


という本でも、科学における仮説について簡潔に説明されています。仮説の中には、かなり真実に近いものから、怪しいものまで、いろいろなものが含まれており、同程度に議論する必要はありません。一般に、反証されたり無視されたりすることで、多くの仮説が消えてゆき、残った仮説が一般的な解釈になっていくと言ってよいでしょう。


医学や工学など人の生活に密接に関連した分野では、トンデモな仮説がしばしば世間を戸惑わすこともあるので、その扱いには注意が必要でしょう。しかし、特に基礎科学の中では、仮説の多様性は必ずしもやっかいとは思いません。さまざまな仮説を検討することで、(たとえ仮説が支持されても棄却されても)別視点の情報が蓄積されたり、新たな仮説が生み出されることがあるからです。


 すでにもっともらしい仮説の中にあって、全く異なる考え方を示すのは勇気のいることです。また、そのような仮説を科学雑誌上で提唱するには、かなりの抵抗にあうでしょう。例えば、雑誌の編集者や査読者(同分野の研究者)による厳しい審査が行われます。


しかし、科学の発展に異説の提示を恐れてはいけないし、それらが発表される機会を残しておくのは大事でしょう。


 最近、「人間に最も近いのはオランウータン」という説が発表されました*。すでにゲノム配列などから、チンパンジーがヒトに最も近い(DNAでは96-98%同一)現存動物であることはよく知られています。それが定説となりつつある中、形態による比較から、オランウータンチンパンジーよりヒトに近いという説を改めて提出するというのは、その論文審査の経過とともに興味深いと感じました。



 最節約法を使って、現存大型霊長類(ヒト、チンパンジーボノボ、ゴリラ、オランウータン)とアフリカアジアヨーロッパ化石大型類人猿との間での(形態形質による)系統関係を調べた。


 解析の結果、現存大型霊長類は単系統で、二つの姉妹群(ヒト+オランウータンチンパンジーボノボ+ゴリラ)が検出された。ヒト+オランウータンには、化石人類および中新世の類人猿が含まれていた。


 つまり、ヒトとオランウータンには(アフリカ類人猿をのぞく)共通祖先がいた可能性がある。その共通祖先は、少なくとも1300万年前までは広い分布をもっており、その後の分断分布(Vicariance)によって、東アフリカのヒト科人類や、スペインから東南アジアに分布する中新世の類人猿へとなったのかもしれない。


原著論文

Grehan JR, Schwartz JH (2009) Evolution of the second orangutan: phylogeny and biogeography of hominid origin. Journal of Biogeography (doi:10.1111/j.1365-2699.2009.02141.x)



 掲載された雑誌には、その査読を担当した編集者らが別途にコメントを掲載しています。その中で、一人の査読者は、上記論文で使われた形質やその重要性に関して、個々の研究者による解釈にゆだねられている点、つまり主観的であることを指摘しており、論文は査読者を十分に説得することには成功しなかったことを記しています。また、近年のゲノム解読による「ヒトはチンパンジーにより近縁である」という定説や、分子人類学や分子系統学の研究者の大多数にとって一見無意味な結果かもしれないことを記した上で、この異説の今後の検証可能性とその掲載意義について述べています。


なお、原著論文のタイトルにある「The second orangutan」(第二のオランウータンがヒトだというたとえ)や、編集者コメントのタイトルにある「The first humans, the second orangutan and the third chimpanzee」は、Jared M. Diamondの「The Third Chimpanzee: The Evolution and Future of the Human Animal」 (邦訳:人間はどこまでチンパンジーか?―人類進化の栄光と翳り)にちなんでいるようです(第三のチンパンジーが、2種のチンパンジーに加えて、ヒトであるというたとえ)。



編集者によるコメント(Editorial)

Riddle BR, Whittaker RJ (2009) The first humans, the second orangutan and the third chimpanzee. Journal of Biogeography (doi:10.1111/j.1365-2699.2009.02172.x)



 また、上記の説をとりあげたナショナルジオグラフィックスの記事でも、従来の説をきちんと解説した上で紹介しています。専門家へのインタビューでは、上記の異説を「奇抜な発想」とし受け入れない研究者や、「ヒトとチンパンジーの近縁性を支持するものの、世に出す必要があるテーマだと思う」という意見もとりあげられています。



解説ウェブサイト(日本語)

ナショナルジオグラフィック ニュース「人間に最も近いのはオランウータン?」

http://www.nationalgeographic.co.jp/news/news_article.php?file_id=52997758&expand



 遺伝的な証拠はともかくとして、ヒトとチンパンジーで共有している形質自体が少なく、一方で、オランウータンとの間に多いというのがおもしろいと感じました(例えば、オランウータンとヒトは長髪になりうるとか)。


D

この映像をみているとオランウータンは第二のヒトであるとさえ思えてきます・・・



そういえば、ヒトの二足歩行の起源は樹上にあったという可能性も、オランウータンの樹上(二足歩行)行動をもとに示唆されています。



文献

Thorp SKS, Holder R, Crompton RH (2007) Origin of human bipedalism as an adaptation for locomotion on flexible branches. Science 316: 1328-1331.



 以上のように、異説、珍説と思われる論文も、きちんとコメントをつけた上で掲載したり、従来の説とともに客観的に紹介したりするのが大事であると思いました。


*ヒトがオランウータンに最も近いかもしれない」という考え方自体は古くからあるので、新らたな仮説というよりも、再び提起したという方が良いかもしれません。

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