無限に増えない理由

 ゴキブリ嫌いの人には申し訳ありません。熱帯生活でのゴキブリあるあるネタからはじめます。

  • 原稿をプリントアウトすると圧縮標本ができた(プリンターに潜んでいた)
  • 食べかけのスナックの袋から出てきた(封があまかった)
  • 夜中に部屋でガが飛んでいるかと思った


 とまあゴキブリの多さを愚痴りたいわけですが、逆に考えてみれば何故ゴキブリが部屋を埋め尽くすぐらいに増えないのでしょうか。


 例えば、成虫寿命が120日のチャバネゴキブリのメスが、生涯のうちに合計150卵(30卵の卵塊を5回)を産むとします。また、卵から成虫まで120日かかり、生まれたすべての個体が成虫になり、そのうち半分がメスですべて交尾を行い繁殖できるとします。


1オス1メスではじめた個体群は、次世代には150頭、さらに次の世代には、150×150/2=11250頭、次は150×150/2×150/2=843750頭、と指数関数的に増加します。つまり、


n世代後の個体数 = 150×(150/2)^(n-1)


となります。つまり、1年で80万頭、2年で47億頭、3年で2千兆頭へと膨れ上がる計算になります。今のアパートに住んで1年半になりますから、1メスから上の仮定をもとに増えたと推定すると、少なくとも6000万頭のチャバネゴキブリが住んでいるということになります。しかし、実際にはそんな数のゴキブリが小さな部屋に住んでいるわけではありません。


 つまり、ゴキブリが無数に増えないなんらかのメカニズムがあるということです。捕食者や天敵(私)、病気による死亡、餌をめぐる競争、他所の部屋への分散、気候による繁殖の遅延、などなどさまざまな要因によって個体数は増えないようにコントロールされているのです。ある種の個体群の「コントロール」が、その個体群や関連する生物たちによってなされているのか、はたまた気候など非生物的な要因によってなされているのか、かつて生態学の論争がありました(つづく)。