アマゾンの巨大ダム建設がもたらす種間相互作用ネットワークの崩壊

 南米の熱帯雨林では、水力発電を目的に多数の巨大なダムが建設されてきました。さらに今後20年間でアンデス山脈沿いのアマゾンでは151、ブラジルのアマゾン低地では118ものダム建設が計画されているそうです。熱帯雨林における巨大ダムは、二酸化炭素吸収能力を保持する森林を水没させ、かつ湖底の貧酸素状態を生み出しメタン(温室効果ガス)の発生源となるため、地球環境にも大きな影響を与えている可能性が指摘されています。


また、森林を大規模に水没させるため、ダム湖にはかなりの数の島(森林パッチ)が作られます。人工的に形成されたとはいえ、自然の生態系をもつこのような「森の島」では、大陸島(かつて大陸と地続きだった島)と同様に、時間経過とともにその面積にみあった種数へと減少します(これをリラクゼーションと呼ぶ→参考:亜熱帯大陸島・西表島を訪問)。


この時、まず個体数が少ない大型哺乳類や捕食者が島から姿を消します(局所絶滅)。そのため、捕食者による影響から解放されて、下位の栄養段階の種構成はかわることがあります。以前紹介したベネズエラの巨大ダム湖の島では上位捕食者の消失とともに下位の捕食者や植食者の個体数を増加させ植生にまで影響を与える例がありました(参考:島で外来捕食者を駆除する時の注意点:‘Mesopredator Release’に関連して)。


群集生態学では、近年、種数だけでなく、食物網などの種間相互作用をネットワークと捉えて、その構造を解析する試みが多くなされてきました(参考:生態的ネットワーク島面積と種間相互作用の関係)。南米には、アリとそれらが専門に住み着くアリ植物との相互作用がよく知られており、このようなダム建設に伴う大規模な攪乱によりどのような影響を受けているかを探る研究がなされました。



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アマゾン中部にあるバルビナダム(Balbina Dam):巨大ダムによる水没で無数の島が形成されている。



 アマゾン中部にあるバルビナダム(Balbina Dam)およびその周辺地域において、攪乱を受けていない森林から5地点、攪乱を受けたダム湖畔の森林6地点、そしてダム湖の中にとり残された森林20地点(さまざまな他の森林からの距離、島のサイズ)を選び、それぞれ600m×5mのルート沿いで、アリ植物とその植物に住み着くアリ類(共生アリおよび非共生アリ)を調査した。


アリ植物13種、共生アリ(アリ植物と相利共生関係にあるグループ)16種、その他非共生アリ(アリ植物とは相利共生関係になくアリ植物に寄生しているグループ)11種で、31の調査サイトで合計42のアリと植物の相互作用が観察された。アリが全く住み着いていないアリ植物は16.7%であった。


アリ植物およびアリの両方は、島やダム湖畔の森林よりも全く攪乱を受けていない森林で合計種数、平均種数、平均コロニー密度が高かった。


ダム湖の島では、全くアリが住み着いていない植物の割合は34.4%におよび、攪乱のない森林(18%)やダム湖畔の森林(6.6%)よりも多かった。


ダム湖の島やダム湖畔の森林のアリと植物のネットワーク構造は、攪乱のない森林のネットワークの部分集合を成していた。


攪乱のない森林のネットワークでは、6つの明確な区画(compartment)に分かれていた。一方、ダム湖畔や島のネットワークは、非共生アリが共生アリに置換していることが多く、共生アリとアリ植物との密接な相互作用が失われ、ネットワークの区画数が4にまで減少していた。


文献
Emer C et al. (2013) Effects of dam-induced landscape fragmentation on Amazonian ant–plant putualistic networks. Conservation Biology, online published.


 熱帯林における巨大ダム建設は、ダム湖による森林の断片化が大規模に起こります。これにより、多くの林縁と島が形成されます。つまり、林縁効果(エッジ効果)と孤立化は森林に生息する生物に大きな負の影響を与えることになるわけです。


アマゾンを特徴づける種間相互作用ネットワークに注目して,林縁効果と孤立化、島面積などを考慮しつつ、種数だけでなく種間相互作用への影響まで明らかにしている優れた研究だと感じました。